第88話 凱旋パレード②「二人の会話」
ガリオは正直、昨日から王都で何が起こるか分からない不安感のようなものを、ずっと心に抱えていた。
しかし、ジョンとマリア、そしてここにいないカルマにとても貴重な餞別をもらったため、今の彼の心の中は、大きな安心感に満たされていたのだった。
その日ガリオとティフォーネは、ジョン夫妻から送別会と称した夕食に招かれ、マリアの美味しい手料理を心ゆくまで堪能することができた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
城塞都市オルソから王都ナイステイトまでは、途中寄り道などしなければ、馬車でおよそほど3日かかる距離にあった。
西の王国は、精霊魔法が発達していることもあり、大きな都市と都市を結ぶ重要な街道は、土の精霊魔法で石を隙間なく敷き詰めたようにしっかりと固められている。
また、人や荷物の往来も多いために、街道沿いの治安も悪くなく、ガリオたちの馬車の旅は快適なものだった。
天気にも恵まれ、ガリオとティフォーネは相変わらず御者台の上でのんびりと流れる景色を楽しんでいた。
「ティフォーネ、アルキュオネはどうしてるんだ?」
「アルちゃんは馬車の後ろに乗ってますよ」
「……見えない」
「ま、まあ、アルちゃんはガリオ様が苦手みたいで……」
「そういえば、あの精霊を近くで見たことないぞ」
「呼びましょうか? 可愛いんですよ」
「……いや、いい。俺は精霊に嫌われる体質だから……」
「……」
「ティフォーネは何ともないのか? こんなに俺の近くにいて」
「今は人間の体だからなのか、特に気持ち悪いとか感じませんよ」
「……俺って、精霊から見たら気持ち悪いのか」
「いいえッ! 言葉のあやですッ! ガリオ様からあふれ出ている雰囲気が、ちょっとだけ苦手なんだと思います」
「もう慣れたとはいえ、精霊だったティフォーネから言われると、結構ショックだぞ……」
「す、すみません」
「冗談だよ、冗談。ハ、ハハハ……そういえば、ティフォーネって誰の契約精霊だったんだ?」
「……すみません。でも、私が精霊に戻ったら、ガリオ様も分かると思うので、もうちょっとだけ待ってください」
「そうか。じゃあ風の四大精霊ジャンナに早く会わないとな。ティフォーネがどんな精霊だったのか、楽しみだ」
「はいッ!」
「でも、凱旋パレード中の風の四大精霊に、どうやってコンタクトを取るかな」
「その点は、私に良い考えがあります」
「ほほうッ! ぜひ聞かせてほしい」
「はい。私が精霊魔法を使って、こっそりと風の四大精霊ジャンナだけに秘密のメッセージを送るので、あとは彼女のリアクションを待とうかと」
「確かにケイル王子の周りの警備は厳しいだろうから、いきなり会ってはくれないよな。だけど、精霊魔法を使ったりして、魔力のほうは足りそうなのか?」
「近い距離なら、あんまり魔力を使わずに済むので、今のままでも足りると思います。アルちゃんへの魔力補給も、しばらくは持つはずですし」
「なら良かった。凱旋パレードまで、余計な魔力を使うんじゃないぞ」
「はい、もちろんです」
「あ、そういえば、精霊界にいるティフォーネの本体のほうはどうなってるんだ? ほら、精霊って、精霊界にいる本体の一部が人間界に召喚されているわけだから、ティフォーネにも精霊界に本体部分が残っているはずだよな」
「うーん。それが分からないんです」
「分からないって……」
「今の私は、精霊界にある本体と接続が切れている状態なんです。だから、本体のほうがどうなっているのか正直分からなくて」
「精霊界との魔力回路が切れているのか」
「はい。だから精霊界からの魔力供給が受けられなくて、魔力不足になっちゃうんです」
「また繋げられないのか?」
「この人間の姿になったときに、1度だけ試してみたんですけど……ダメでした」
「ダメだったか」
「私の本体は風の支配地域の中心付近にいるはずなんですけど、何故かそこにいないみたいなんです」
「どこかに移動したということか?」
「多分……考えてたくないんですけど、最悪消滅したとか……」
「消滅……それは嫌だな」
「本体を探そうとしても、今は人間の体だし、魔力供給を受けていない状態では難しいんです。精霊界は途方もなく広いので」
「確かに、この世界でたった一人の人間を探すとしても、たくさんの人手とお金をかけないと簡単には見つからないだろうしな」
「はい。それと一緒です」
「ところで、お金の話をして思い出したんだが。ティフォーネ、俺に見せてくれたあの宝石はどうしたんだ? 両親が残してくれたって言ってたけど……」
「ごめんなさいッ! あれは嘘なんです」
「そうか。どこにあった物なんだ? あれだけの量の宝石、持ち主はきっと困っているぞ」
「いえ、あの宝石は私の物なんです。私は嘘をついたのは、両親が残した物という部分です」
「え……どういうことなんだ」
「以前私が契約精霊だったときに、契約主だった人間がプレゼントだと言って、たくさん残しておいてくれたんですよ。精霊だった時は、私はいらないと断ったんですけど、あの人が全部残してくれてて幸運でした」
「ええッ!」
「人間は何をするにもお金が必要になることは、契約精霊だったときに知っていたので、人間になったその日に、ちょっと取ってきたんです」
「ティフォーネ、しっかりしてるな……」
「宝石はまだまだたくさん残っていたので、私が持ってきたことは気付かれないと思いますよ」
「……」
ガリオたちの馬車は特にトラブルもなく、城塞都市オルソを出発してから3日後には、王都ナイステイトに到着したのだった。
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