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第84話 ガリオたちの選択⑧「無色の虹」

「まさか君が、あの伝説のパーティの関係者(かんけいしゃ)だったとはね」


 ルシア隊長はジャケットの内ポケットから1通の封筒(ふうとう)を取り出し、ガリオの前に(ほう)った。

 目の前に(すべ)り込んできたその手紙にガリオが視線(しせん)を落とすと、彼の目にしっぽの長い猫の形を()した封蝋(ふうろう)が飛び込んできた。


「あのクソ猫おおおおおおおおおッ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あっはっはっはッ!」


 予想外(よそうがい)のガリオの反応に、ルシア隊長は(はら)(かか)えて笑っていた。

 隣にいるジョシュアは、目を大きく見開いて呆然(ぼうぜん)としてガリオのほうを見ている。


「その様子だと、もしかしてガリオ君は、『黒猫(くろねこ)()(ぬし)』とも知り合いなのかい? 誰も顔を見たことが無いという、正体不明(しょうたいふめい)のあの情報屋(じょうほうや)とッ! (すご)いッ! 予想以上に凄いじゃないか、君はッ! あっはっはっはッ!」


 全く笑いが止まらなくなったルシア隊長は、ハンカチで何度も目元(めもと)を押さえていた。

 こんなに大声で笑う上司(じょうし)を見たことが無かったジョシュアは、その様子に驚愕(きょうがく)しつつ、『無色(むしょく)(にじ)』の情報を思い出そうとしていた。


「『無色の虹』って、10年前に行方不明(ゆくえふめい)になったパーティですよね。でも確か、メンバーは4人だと聞いたことがあります」


 そして彼は、指で数えながら、(おそ)る恐るその4人の名前を()げていく。


「冒険者レベル8のリーダー『(ねむ)りの魔女(まじょ)』シャーロット・スウェイン、レベル7『剣聖(けんせい)』ソーシ・ヤギュウ、そして『不死身(ふじみ)』ターリック・アヴァロン、最後にレベル6のカタリア・デュートワ」


 ジョシュアの声を聞きながら、ガリオはヤギュウ師匠(ししょう)たちの顔を思い出していた。

 四大精霊(セラフィム)に次ぐ第2位の位階(いかい)(ぞく)する智火精(ケルビム)バハムートを契約精霊とするリーダー、破天荒(はてんこう)なヤギュウ師匠、寡黙(かもく)な白魔法の天才アヴァロン先生、そして、弟のように自分を可愛がってくれたカタリア。


 ガリオが最後に彼らと一緒にいたのは、世界で最も有名で、だが(いま)だ誰も最下層に到達(とうたつ)したことが無いという精霊教会総本山(そうほんざん)地下(ちか)ダンジョン、別名(べつめい)『精霊界への入口』に挑戦(ちょうせん)していた時だった。

 そこでガリオは、何故(なぜ)断片的(だんぺんてき)にしか思い出せない記憶(きおく)の中で、石像(せきぞう)のようになってしまった4人の姿を見たのを最後に、気が付いたらダンジョンの上層部(じょうそうぶ)で一人倒れていたのである。


 そして、逃げるように生まれ故郷(こきょう)であるブングラスの町に戻ってからは、ガリオは町から離れることがあまり無くなってしまった。

 (いや)な記憶を思い出し、苦々(にがにが)しい表情を浮かべているガリオは、その記憶を(あら)い流すかのように大きく息を吐き出す。


「……俺は『無色の虹』の正式なメンバーじゃなかったんです。俺が10歳の時に、ブングラスの町であの人たちに助けてもらってから、ヤギュウ師匠の弟子ということで同行(どうこう)してただけなんですよ」

「ふーん。『剣聖』と呼ばれたヤギュウ氏とは私も是非(ぜひ)戦ってみたいと思っていたんだけど、その願いは(かな)いそうかな?」


 その質問はいつかされるだろうと思っていたガリオだったが、テーブルの上で組んだ両手をギュッと(にぎ)り締め、しばらく答えを(さが)していた。


「……あのパーティは……もう戻ってきません」

「そうか……ガリオ君をそばに置くという事は、決して()いことばかりじゃないんだね」

「───ッ!」


 ルシア隊長の言葉に、ガリオは無性(むしょう)に悲しくなり、唇をきつく()む。

 それではまるで、『無色の虹』があんなことになったのは、自分のせいだと言われているようなものだからだ。


『───つまり、『無色の虹』というのは、ガリオ君のことを()しているの』

『はあー? 意味が分かんねえな、リーダー』

『そーそー。私の考えたスーパーワンダフルスペシャルミラクルビューティフルカタリア団じゃ駄目(だめ)なの?』

『長すぎるし、しかも意味不明(いみふめい)だわッ! おめーのパーティじゃねえんだぞッ!』

『ヤギュウちゃん、ひっどーいッ! ガリオちゃんもそう思うよねッ!』

『……別に、僕は正式メンバーじゃないから、パーティ名は皆で決めてよ』

『今までパーティ名に無頓着(むとんちゃく)だったシャーロットが、珍しいな』

『新しい冒険(ぼうけん)よッ! ガリオ君には契約精霊(けいやくせいれい)がいないけど、それはまだ何色(なにいろ)にも()まっていない、無限(むげん)の可能性を()めているということ。彼が一体何色なのか、私たちで探すの。それに───皆がびっくりするような名前のほうが、面白いじゃないッ!』


 とても(きび)しくて、とても(やさ)しくて

 ドラゴンよりも強くて、スライムよりも弱くて

 風よりも早くて、ときどき寝転ねころんで

 父のようで、母のようで

 大喧嘩(おおげんか)をして、腕を組んで笑い合って───


 彼らと世界中を回り、色んな冒険をした6年間は、今のガリオにとって夢のような時間だった。

 (あふ)れそうになる涙を、彼は歯を食いしばって()える。


「もう一度言わせてもらおう。ガリオ君、ぜひ私に(つか)えてほしい」

「……すみません。一晩(ひとばん)だけ考えさせてください」


 帰りの馬車の中、ガリオは窓の外を見ながら、ルシア隊長の提案(ていあん)をどうするか考えていた。

 将来、大貴族(だいきぞく)である侯爵(こうしゃく)になるかもしれない人からの、直接(ちょくせつ)のお誘いである。

 本当はすぐ返事しなければいけない場面だったが、自分のわがままを、彼は「明日の夕方まで待ってもいい」と(ふところ)の深いところも(しめ)してくれた。


(もうこんなチャンスは、2度と来ないだろうな)


 ガリオの心は、ルシア隊長に(つか)えるほうへ大分(だいぶ)(かたむ)きつつあった。

 宿に戻ったガリオは、ティフォーネの体調の様子を確認するのと、ブングラスの町に帰るまでの護衛(ごえい)クエストをどうするのか相談(そうだん)するために、すぐに彼女の部屋を(おとず)れた。

 そして、軽くドアをノックする。


「ティフォーネ、具合(ぐあい)はどうだ? ちょっと話をしたいんだが……」


 しかし、いつまでたっても部屋の中から返事はなく、ティフォーネは宿から姿を消していたのだった。

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