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第83話 ガリオたちの選択⑦「伝説のパーティ」

「ルシア隊長は、ボルド部長の一件があって、私の剣術の(うで)を買ってくれたんですか?」

「ああ。大分(だいぶ)話が脱線(だっせん)したね。話を戻そうか。確かにガリオ君の剣術の腕を買っているのも事実だ。だけど、私がガリオ君に一番期待しているのは───」


 そう言ってルシア隊長は、口の()を大きく(ゆが)めて、ニヤリと笑った。


「───『物語を始める者(マクガフィン)』とでも言おうかな」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ま、まく……?」


 ガリオは、ルシア隊長から全く()(おぼ)えのない単語が出てきて、思わず聞き直してしまう。助けを求めてジョシュアのほうを見るが、彼もキョトンとした顔をしていた。

 何も言わずにグラスを一旦(いったん)テーブルの上に置いたルシア隊長は、右手でギュッと(にぎ)りこぶしを作る。


「私が求めるのは、武力(ぶりょく)でも財力(ざいりょく)でもないんだ。そんな物は、後からいくらでも手に()れることが出来る。今私が最も欲しいのは、現状(げんじょう)打開(だかい)できる『何か』なんだ」

「何か……ですか?」


 ルシア隊長が求めるその『何か』を、とても自分が持っているとは思えななかったガリオは、両手をテーブルの上で組むと、少し落ち込んだ様子でその手を見つめる。


「……お言葉ですが、ルシア隊長。俺は10年以上ずっと冒険者レベル2のままの男です。そんな俺が隊長にお(つか)えしても、(すご)功績(こうせき)を残すような『何か』が()きるとは思えないんですが……」


 自分で言っていて情けないと自覚(じかく)していたガリオだったが、ルシア隊長の期待(きたい)裏切(うらぎ)るほうが、彼にはもっと(おそ)ろしいことだった。だが───


「くっくっく」


 ガリオの話を聞いていたルシア隊長は、なぜか目を丸くし、右手で顔を(かく)して小さく笑いだした。

 ガリオもジョシュアも、不思議そうな顔をして隊長の反応を見守っている。


「ガリオ君。君は、とっくに私の期待に(こた)えてくれているんだよ。この街に来て、自分が何をしたのか、もう忘れたのかい?」

「え……」


 ガリオとしては、この街に来てやったことと言えば、冒険者登録の講師(こうし)の手伝いをしたことくらいしか思いつかなかった。

 ルシア隊長は笑いを(こら)えると、落ち着くために小さく息を()いて、ワインを一口飲む。

 そして、人差(ひとさ)し指を天井に向けてピンと()ばした。


「一つ目は、ガリオ君のおかげで、あんなに早くあの(ぶた)逮捕(たいほ)できたこと」

「は、はい」

「それともう一つ」

「えーっと……」


 ガリオには、もう何が何だか分からなかった。そんな彼を、ルシア隊長は楽しそうに見ながら、今度は中指(なかゆび)を真っ直ぐに伸ばす。


「レオンティーヌ(じょう)(のろ)いの精霊から解放(かいほう)したことさ」  

「そ、それはッ! ───あッ!」

「んん? どうしたのかな?」


 レオンティーヌの名前を聞いて、ガリオは思わず大きな声で反応(はんのう)してしまったが、すぐに両手で口を(ふさ)いでしまう。

 ルシア隊長はニヤニヤと()みを浮かべて、伸ばしていた指を元に戻した。


「レオンティーヌ嬢を呪いの精霊から解放しただけじゃなく、さらにオルソ(りょう)守護精霊(しゅごせいれい)と言われている伝説の主土精(ドミニオン)カラリスートを召喚(しょうかん)できるようにするなんて、精霊教会が聞いたら大騒(おおさわ)ぎになるよ。前代未聞(ぜんだいみもん)のことだからね。一体(いったい)ガリオ君は、どんな魔法(まほう)を使ったんだい?」

「さ、さあ。お、俺たちが地下2階に()けつけた時には、レオンは、あ……レオンティーヌさんは、もう契約精霊(けいやくせいれい)を召喚できるようになっていたんです」


 ガリオは冷や汗をかきながら、しどろもどろに説明する。

 「地下2階で起こったことは秘密(ひみつ)にしておく」というのが、ガリオとティフォーネ、そしてレオンティーヌの3人で決めたことなのだ。


「きっと『始祖精霊様(しそせいれいさま)奇跡(きせき)』が、レオンティーヌさんの身に起こったんじゃないかな。ハ、ハハハ」


 すると、ガリオの下手な説明を聞いていたルシア隊長が、「フフフッ」っと()き出す。

 だが彼は、ガリオたちの事情(じじょう)に深く突っ込んだりするようなことはせず、フーッと息を吐いて椅子(いす)に深く座り直した。


「なるほどなるほど、始祖精霊様か。まあ、そういうことにしておこうか。だけど……始祖精霊様は、意外(いがい)と私たちのすぐ近くにいるのかもねえ」

「は、はあ……」


 その時、ガリオの脳裏(のうり)に、ティフォーネの明るく笑っている顔が思い浮かんだ。

 そして、ブングラスの町を出てから毎日一緒にいる彼女が、今この場にいないことを少し(さび)しく思うのだった。


「レオンティーヌ嬢の件に、ガリオ君がどう関わったのかは、深く詮索(せんさく)しないでおくよ。だけどね、私の中では、今回の2つの出来事(できごと)がガリオ君の周りで起こったという事実(じじつ)のほうが、もっと重要(じゅうよう)なことだと思っているんだ」

「……つまりルシア隊長は、俺が隊長に(つか)えることになれば、同じような事件(じけん)が俺の周りで起きるんじゃないかと……」

「そのとおり。あのレオンティーヌ嬢が、伝説の守護精霊を召喚できるようになるほどの事件が起こったんだ。偶然(ぐうぜん)でも奇跡(きせき)でも何でもいい。私は、君の『物語を始める者(マクガフィン)』とも言うべき才能に()けたいんだ」


 ルシア隊長はうっすらと目を開けて、真剣(しんけん)な顔でガリオの目を見ていた。

 しかしその一方で、彼の付き人であるジョシュアは、逆に不満(ふまん)そうな顔をしている。

 彼は、トラブルを(まね)くであろう人物をそばに置くことで、ルシア隊長の身に何か危険(きけん)(およ)ぶのではないかと心配していたのだった。


 ルシア隊長が自分のことを高く評価(ひょうか)してくれることに、内心(ないしん)嬉しく思っているガリオだったが、その評価されている根拠(こんきょ)曖昧(あいまい)だったために、彼はいまいち自信が持てないでいた。


「だ、だけど、ルシア隊長。俺にはルシア隊長が言った2件は、偶然(ぐうぜん)に起こったとしか思えな───」

「『無色(むしょく)(にじ)』」

「───ッ!」


 ギクッとガリオの体が固まると、彼の顔から一瞬(いっしゅん)()()が引いた。

 しばらく動けなかったガリオは、ゆっくりとした動作(どうさ)で水の入ったグラスを手に取り、口の中を(うるお)そうとする。

 だが、手がブルブルと(ふる)えてしまっていて、少なくない量の水がテーブルの上にこぼれた。


「ど、どどど、どこでそれを───」

「まさか君が、あの伝説のパーティの関係者(かんけいしゃ)だったとはねえ」


 ルシア隊長はジャケットの内ポケットから1通の封筒(ふうとう)を取り出し、ガリオの前に(ほう)った。

 目の前に(すべ)り込んできたその手紙にガリオが視線(しせん)を落とすと、彼の目にしっぽの長い猫の形を()した封蝋(ふうろう)が飛び込んできた。


「あのクソ猫おおおおおおおおおッ!」

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