表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/125

第81話 ガリオたちの選択⑤「ルシア隊長の誘い」

「……精霊教会の教義(きょうぎ)だね」

「はい。私は……その精霊が住まう国を早くこの目で見るには、冒険者になるのが一番の近道(ちかみち)なんじゃないかって思ったんです。そうしたら、始祖精霊様(しそせいれいさま)何故(なぜ)精霊界と人間界を作られたのか。何故私たちを生み出されたのか。その理由が分かるんじゃないかって……」


 彼女はそう言って胸の前に両手を組むと、静かに何かを(いの)っているのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後、しばらくベッドで休んでいたティフォーネが一人で歩けるまでに体調が回復(かいふく)したため、ガリオたちは馬車に乗って宿へ戻った。


「ガリオさん、おかえり。あんたに荷物(にもつ)が届いてるよ」

「俺に? 誰だろう」


 二人が宿に入ると、すぐに宿のマスターから2つの大きな箱を渡される。

 カウンターに置かれたその箱は、見たところ高級そうな(がら)をしていて、庶民(しょみん)であるガリオが素直(すなお)に受け取るのを躊躇(ちゅうちょ)するほどだった。

 なかなか箱に手を()ばそうとしないガリオに、ティフォーネが後ろから助け舟を出す。


「ガリオ様、ルシア隊長じゃないんですか?」

「あ……そういえば、服を届けるって言ってたっけ」


 オルソ第2ダンジョンからの帰りにルシア隊長から夕食に(さそ)われた際に、ガリオが「子爵(ししゃく)と夕食をご一緒するに相応(ふさわ)しい服が無い」と正直に打ち明けると、ルシア隊長は笑いながら「夕方までに宿に届けるよ」と()()っていたのだった。


 また、彼が(むか)えの馬車も寄こすとも言っていたのを思い出し、ガリオは急いで自分の分の箱を持って部屋に戻ると、中に入っていた服に悪戦苦闘(あくせんくとう)しながら着替え始めた。

 城塞都市(じょうさいとし)オルソが真っ赤な夕焼けに(つつ)まれる頃、ガリオたちが利用している宿の前に、1台の立派な馬車が到着する。

 御者台(ぎょしゃだい)に乗っていた執事服(しつじふく)を着た男性が、宿の前に降り立つと、(うやうや)しく馬車のドアを開けた。


「じゃあティフォーネ、行ってくるよ。ゆっくり休んでてくれ」

「ちょっと待ってください、ガリオ様。ネクタイが……」


 見送りに出てきたティフォーネが、ほとんど着たことが無いというスーツ姿のガリオのネクタイを、丁寧(ていねい)に整え始めた。

 自分のすぐ目の前に、誰もが見惚(みと)れるティフォーネの美しい顔があり、そしてうら若い女性にピッタリの(さわ)やかな花のような香りが彼女から(ただよ)ってきて、ガリオは年甲斐(としがい)もなく顔を赤くしている。


「ガリオ様?」

「あ、ああ、すまないな。じゃあ行ってくる」

「はい。お気を付けて」


 少しボーっとしていたガリオは、ティフォーネの呼びかけにハッと我に返ると、そそくさと馬車に乗り込むのだった。

 馬車の中で、ガリオはティフォーネが受け取るはずだった箱の(ふた)を少しだけ開ける。

 そこには、装飾(そうしょく)の少ない黒い色のドレスが、それを着るに相応(ふさわ)しい女性の手に取ってもらう機会(きかい)を静かに()っていた。


(きっと、もの(すご)綺麗(きれい)だったろうな……)


 ガリオは、このドレスを着たティフォーネの姿を想像(そうぞう)し、ハーッと大きなため息を吐いて箱の(ふた)を閉じた。

 しばらくすると、馬車が静かに止まった。

 ガチャリと開けられた馬車のドアの先に広がる光景(こうけい)に、ガリオの目は大きく見開く。

 彼が到着(とうちゃく)したのは、まるで小さなお城のような高級レストランだった。


 日が()れて(あた)りはすでに真っ暗になっており、外灯(がいとう)や窓から()れる明かりで、周囲は幻想的(げんそうてき)雰囲気(ふんいき)に包まれている。


「ガリオ様ですね。ようこそおいでくださいました。どうぞお入りください」

「あ、ありがとう」


 馬車から()りたガリオを、満面(まんめん)の笑みを浮かべるドアマンが出迎(でむか)えると、目の前の大きな扉がゆっくりと開いた。

 こんな高級レストランに初めて来たガリオは、ガチガチに緊張した様子でその(とびら)をくぐる。


「わあ……」


 ガリオの足がすぐに止まった。

 レストランに入ると、食欲(しょくよく)をそそる美味しそうな匂いが彼を出迎える。

 そして、入り口付近のロビーには、フカフカの絨毯(じゅうたん)の上に重厚(じゅうこう)で高級そうなソファーやテーブルが並んでいた。

 自分がこれまで過ごしてきた世界とは明らかに異なる店内の様子に圧倒(あっとう)され、思わず回れ右をして帰りたい気持ちになるガリオだった。


「いらっしゃいませ」

「は、はいッ!」


 突然死角(しかく)から男性の声が聞こえて、思わずガリオは背筋(せすじ)をピンと伸ばした。

 ギギギッと()びた音が鳴りそうなぎこちない動きで右に顔を向けると、ドアの(わき)の目立たない所に、グリーターと思われる男女が笑顔で立っている。

 (あわ)てたガリオは、何故(なぜ)自分のような人間がここに来たのか、必死(ひっし)に説明しようとしていた。


「あ、あの、俺は、待ち合わせをしていて……あ、俺はガリオと言って、ブングラスの町で冒険者をしてるんだが、決して(あや)しい者じゃなくて───」

「はい。ガリオ様、お待ちしておりました。ローグライト子爵(ししゃく)とそのお付きの方は、すでに席でお待ちになっておられます」


 わたわたと説明するガリオに、グリーターの二人が深々(ふかぶか)と一礼をする。

 そして女性のグリートレスがガリオの前に近寄ってくると、「ご案内します」と右腕を前に伸ばした。


 彼女の案内で、ガリオは2階へと続く階段を上がった。

 そこは、1階の喧騒(けんそう)があまり届かない静かなスペースが広がっており、食事をするテーブルも数えるほどしかない。


「こちらでございます」


 一番奥のテーブルに案内されると、ルシア隊長はすでにワイングラスを(かたむ)けていた。

 ルシア隊長はブルーのジャケットを羽織(はお)っているが、スーツ姿のガリオよりも全体的にカジュアルな(よそお)いだ。


「よく来たね、ガリオ君。すまないが、先に始めてるよ」


 ワイングラスを少し高く(かか)げて、上機嫌(じょうきげん)な様子のルシア隊長がガリオに声をかけた。

 それとは対照的(たいしょうてき)に、彼の(となり)に座っているジョシュアの表情はどんよりと暗く、全く元気が感じられない。


「ルシア隊長、今日は夕食に誘ってもらってありがとうございます」


 知っている人の顔を見たガリオは、やっと人心地(ひとごこち)ついたような気持ちになり、強張(こわば)った顔が少しずつ(ゆる)んでいった。

 頭を下げるガリオに、ルシア隊長は空いた左手をヒラヒラと()る。


堅苦(かたくる)しい挨拶(あいさつ)は抜きにして、早く座った座った。このお店の料理はすごく美味しいんだ」

「は、はい」


 ガリオはお店のスタッフが引いてくれた椅子(いす)に、ぎこちなく座る。

 そして、テーブルの上にズラリと並べられたキラキラ(かがや)く食器を見て、クラクラと軽く眩暈(めまい)がした。


「ルシア隊長、俺はこんな高そうなお店に()れてなくて……」


 ガリオの言わんとしていることを(さっ)したルシア隊長は、少し笑ってまた左手を()る。


「テーブルマナーは気にしなくていいよ。私もちょっと()っているからさ」

「すみません」


 しばらくすると、食事が続々とテーブルの上に運ばれてきた。

 お皿に乗っている料理の盛り付けはどれも見事で、田舎暮(いなかぐ)らしのガリオにとって見たことも食べたこともないものばかりだった。


「それと今日はティフォーネが来れなくて、すみませんでした。昼頃から体調を(くず)してしまって、今も宿のベッドで休んでいると思います」

「ああ、聞いてるよ。戻ったら彼女にお大事にと伝えておいてくれ」

「分かりました」


 ガリオはティフォーネと冒険者協会を出る時に、(あらかじ)めルシア隊長には使いを出して伝言を伝えていた。

 あからさまにガッカリと肩を落とすジョシュアを見て苦笑(くしょう)するガリオだったが、今のルシア隊長の様子から、彼がティフォーネではなく自分に何か話があることが分かり、また少し緊張してきたのだった。


 ルシア隊長はクイッと一息でワインを飲み()すと、グラスをテーブルに置いて、体をグッと前に乗り出した。


単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言おう。ガリオ君、ぜひこの私に(つか)えて欲しい」

※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※こまめに更新していますので、ブックマークをすると便利です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ