第77話 ガリオたちの選択①「レオンと彼の素性」
「自分を、そして自分の精霊を信じてください。ほら」
レオンの中にある鼓動が、彼女を勇気づけるようにひと際大きく高鳴った。
その力強い鼓動に、レオンの不安は段々と消え去っていく。
「……おいで」
レオンの脳裏に、一つの精霊の名前が思い浮かんでいた。それは、彼女が知る伝説の───
「───精霊カラリスート」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオたち3人がダンジョンから出てくると、広場には大勢の人たちが集まっていた。
実技訓練に参加していた若者たちと、冒険者協会のスタッフや講師陣、そして協会に雇われた冒険者が、ほぼ全員揃っている。
そんな中、ガリオが初めて見る初老の紳士が、3人のほうへ近寄ってきた。
「レオンティーヌ様。ご無事でしたか」
「う、ウォルターさんッ! どうしてここに?」
レオンはその人物を見て驚きの声を上げる。
ウォルターと呼ばれたその老紳士は、立派な執事服に身を包み、ガリオから見ても隙の無い歩き方をしていた。
その白髪はオールバックに固めていて、よく整えられた口ひげが印象的である。
「先日レオンティーヌ様の母君に、貴女様がいよいよ冒険者登録に行ったという話を聞きまして、様子を見に来たところなんですが……」
そして彼は、協会スタッフと打ち合わせをしている一人の冒険者のほうを見て、キリリとした眉を顰める。
「あの冒険者の話では、地下2階で何かトラブルがあったそうで、一時的に訓練を中止して全員をここに集めたようですね。レオンティーヌ様のほうは……」
顔見知りのウォルターに目を向けられると、レオンは恥ずかしそうに自分の肩を抱いて俯いた。
彼女は胸元から上の素肌がむき出しになっており、マント1枚を体に巻いただけのあられもない姿をしているのである。
ウォルターは無言でジャケットを脱ぐと、それを彼女の肩にかけようと近づこうとした。しかし───
「何故君は邪魔をされるんですかな?」
ガリオが下を向くレオンの前に立ち塞がったのだった。
彼は、目の前に立つウォルターに鋭い視線を向け、すぐ動けるように体を緊張させている。
そんなガリオの威圧感のある背中を見上げ、レオンが不安そうに胸の前でギュッと両手を握った。
「俺は協会に雇われた冒険者のガリオと言います。あなたは?」
「……私はレオンティーヌ様の母君の古くからの知り合いで、ウォルターと申します。君は、後ろにいるレオンティーヌ様がどんな御方なのか、分かっているんですか?」
「ええ。さっきレオンから聞きましたよ。彼女はこの城塞都市オルソを治めるオルソ侯爵ロバート閣下の長女、レオンティーヌ・オルソ様ですよね」
ガリオの言葉を聞いて、ウォルターはフンッと鼻を鳴らす。そして、泥で汚れたガリオの全身をジロジロと眺めた。
「ご存知でしたか。それなら、素性の知れない君にレオンティーヌ様を任せてはおけない、私の気持ちも分かってくださいますよね。私は、彼女が赤ん坊の頃からの顔見知りなのですよ」
ガリオが黙ったのを確認したウォルターは、ガリオの右側から後ろに回りこもうとするが、その足はすぐに止まる。
再びガリオが彼の前に立ったからだ。
「……まだ何か?」
ガリオが口を開こうとしたとき、突然ダンジョンの入口から明るい男性の声が上がった。
「俺は───」
「あれあれ? 珍しい人がいるじゃないですか」
ダンジョンから出てきたのは、王国軍の鎧に身を固めたルシア隊長と付き人のジョシュアだった。
彼は晴れやかな表情をしてガリオの隣に立つが、一方のジョシュアの「ハァーハァー」と荒い息を吐いている。
「これはこれは、ローグライト卿。お久しぶりでございます」
ウォルターが恭しく頭を下げるのを見て、ルシア隊長は軽く頷くと、周りをキョロキョロ見回した。
「今日も暇つぶしにダンジョンの最下層に向かっていたんですが、上のほうで何か異常があったみたいだから、急いで戻ってきたんですよ。ガリオ君、一体何が起こったんですか?」
「実は、ここにいるレオンが自分のパーティメンバーだった二人と、協会が雇っていた冒険者の二人に共謀されて殺されそうになったんです」
「へぇー」
ルシア隊長は少し驚いた様子で、ガリオの後ろにいるレオンに目を向ける。
そこには、以前とは異なる女性の姿をしたレオンが恐縮した様子で立っていたが、彼は何も言わずに視線を戻した。
「そのレオンティーヌ嬢のピンチを、ガリオ君とティフォーネさんの二人で助けた、というところでしょうか」
「そのとおりですが……ルシア隊長、レオンのこと知っていたんですか?」
ガリオが唖然とした表情をしているのを見て、ルシア隊長は肩をすくめてみせる。
「当り前じゃないですか。私も情報収集くらいするんですよ。しかし、それで納得しました。だから、オルソ侯爵家の筆頭執事であるウォルター氏が、ここにいるわけなんですね」
「えッ!」
ガリオとレオンから、同時に驚きの声が上がる。ガリオはもとより、レオンのほうもウォルターの素性をずっと知らなかったのだ。
ガリオの背後からレオンが顔を出し、ウォルターに大きく見開いた青い瞳を向ける。
「ウォルターさん……本当に、お父様の筆頭執事をしているの?」
「ええ。母君と静かに暮らすレオンティーヌ様には、私の素性は隠しておこうと思っておりました」
「……お母様は知っているの?」
「レオンティーヌ様の母君は、元は私の部下の一人として、オルソ城で働いておられました。それをオルソ侯爵閣下が見初められたのです」
「……そうだったんだ」
「はい。そういった背景もあって、時々私がレオンティーヌ様と母君の様子を見に行っておりました」
呆然としているレオンをよそに、ルシア隊長が面白そうなものを見つけた子どものように、ニヤニヤ笑ってウォルターの肩を叩いた。
「だとしたら、おかしいですね。オルソ侯爵閣下の『懐刀』と呼ばれるウォルター氏が、このオルソ城のお膝元で起こっている異変に気付かなかったのですか? レオンティーヌ嬢の暗殺未遂事件だというのに」
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