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第75話 呪いの精霊⑫「戻って来たレオンとガリオの驚き」

 ……グルル……ル……


 次第(しだい)に大きな熊の声が小さくなって、やがて聞こえなくなる。

 その(あいだ)、レオンは目を閉じて、優しい温かさの残る大きな熊の頭をずっと抱きしめていた。


 しばらくすると、レオンと大きな熊の体が、(あざ)やかな緑色の光に包まれる。

 そして、スーッと(ほほ)()でる(すず)やかな風を感じ、レオンはゆっくりと目を開けた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「……ん」

「あ、レオンさん、起きましたか?」


 レオンがうっすらと目を開けると、すぐ目の前にティフォーネの明るい顔があった。

 彼女はまだ寝ぼけているのか、まだ目が完全に開き切っていない。


「ティフォーネさん? 私は一体……」


 状況(じょうきょう)を全く理解できていないレオン。

 今どこにいるのか、何故(なぜ)眠っていたのか、彼女はまだ思い出せないでいた。

 レオンはズキズキと(いた)む頭に右手を当てて、ブルブルと顔を小さく横に()っている。


「ここはダンジョン地下2階ですよ。気分はどうですか?」

「ちょっと頭が痛い。それに、ちょっと体が重いような……」


 自分の体の上に何かが乗っかっているような重みを感じて、レオンは下を向いた。

 そして、彼女はギョッと顔をこわばらせる。


 視線の先には、ガリオが彼女の胸に顔をうずめるようにして眠っていたのだった。

 レオンの服は原形(げんけい)をとどめておらず、ボロボロになっているため、ガリオはほとんど素肌(すはだ)の胸の上に顔を乗せているようなものだった。


「キャアアアアアアアアアッ!」

「ぐえええッ!」


 レオンの絶叫(ぜっきょう)がダンジョンの中に(ひび)き渡る。

 そして彼女は、ガリオの顔を横に思いきり()り飛ばすと、左手で胸を押さえるようにザザザッと(あと)ずさった。

 その顔は、真っ赤に()まっている。


変態(へんたい)変態へんたあああいッ!」

「え、なんだッ! 何が起こったッ!」


 ゴロゴロと横に2、3回ほど転がったガリオは、左頬(ひだりほほ)に真っ赤な紅葉(もみじ)(あと)をくっきり残したまま、(あわ)てて立ち上がった。

 『虹切(にじきり)』を(かま)えようとするが、両手にも(さや)にもどこにも見当たらない。


「『虹切(にじきり)』がないッ!」

「ガリオ様、(かたな)はそこに落ちてますよ」


 ティフォーネの指差(ゆびさ)した先に自分の愛剣(あいけん)を見つけたガリオは、急いで回収すると、少しだけホッと安心したのも(つか)の間、(あらた)めて刀を構えて周りを見回す。

 しかし、この(あた)りに黒い獣の姿は無かった。


「て、ティフォーネッ! レオンはどこ行ったんだッ!」

「レオンさんなら、そこにいるじゃないですか」


 ティフォーネの視線の先には、身を小さく(ちぢ)めてガリオを(にら)みつけるレオンがいた。

 それを見たガリオの顔が、何故(なぜ)か青ざめる。


「そ、その綺麗(きれい)な人が、レオンなのか?」

「そうですよ?」


 ガリオに「綺麗」と()められたレオンが、少し顔を赤くして()ずかしそうに唇を()んだ。

 だが彼は、そんなレオンの様子の変化に気付かず、ティフォーネのほうに(あわ)てた顔を向ける。


「ティフォーネッ! どうしようッ! レオンが今度は女の人になっちゃったぞ───あだッ!」

「うるさあああいッ!」


 レオンの(とう)じた石が、見事にガリオの(ひたい)にヒットする。彼女の青い瞳には、涙があふれそうになっていた。

 状況が理解できないガリオは、痛む(ひたい)を手で押さえつつ、涙を浮かべるレオンを観察(かんさつ)する。


 彼女のよく手入れされた長い金髪は、ゴム(ひも)が切れてサラサラと前のほうにも流れていた。

 しかし、着ていた服はボロ(きれ)のようになっていて、彼女の白い肌をほとんど(かく)せていない。

 ほとんど全裸のような姿をガリオに凝視(ぎょうし)され、あまりの恥ずかしさに顔を紅潮(こうちょう)させたレオンは、再び彼に石を投げつけようと右手を上げた。


「見るな見るな見るなッ! へんたあああいッ!」

「わあああッ! す、すまんすまんッ!」


 (あわ)ててレオンから視線を()らしたガリオは、自分のマントを急いで()ぐと、横に顔を向けたままレオンに差し出した。

 一方のレオンは、体の大事な所がガリオに見られないように慎重(しんちょう)ににじり寄り、差し出されたマントをサッと手に取ると、急いで体に()き付ける。

 胸元(むなもと)から下は彼のマントで隠せたレオンだったが、肩口や鎖骨(さこつ)部分の肌は完全に露出(ろしゅつ)している。


 ひとまず体を隠せたことに、ホッと一安心(ひとあんしん)するレオン。

 そんな二人の様子を、ティフォーネはニコニコと笑顔で(なが)めていた。


「レオン、ここで何があったんだ? どうして黒い獣なんかになったんだ?」


 彼女のやっと落ち着いた雰囲気(ふんいき)を見て、ガリオがレオンに説明を求める。

 ランドルとエドワード、そして協会が(やと)っていた冒険者二人の無残(むざん)な死体。黒い獣の精霊(せいれい)となり、ガリオたちを(おそ)ったレオン。性別を(いつわ)っていた理由───


 ガリオの言葉を聞いて、何かを思い出したように周りを見回したレオンは、地面に転がる4つの死体を見て、「うッ!」と吐き気を(もよお)して口元を押さえた。

 地面にうずくまり吐き気を我慢(がまん)する彼女の背中を、ティフォーネが優しくさすっている。


 ガリオは魔物(まもの)襲来(しゅうらい)警戒(けいかい)しつつ、レオンがしゃべれるようになるまで無言で立っていた。


「はあ、はあ、はあ───」

「レオンさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。すまない」


 血の気が全く無くなり、顔が真っ白になったレオン。彼女は歯を食いしばって、もう一度4つの死体のほうを見る。

 そして、ランドルたちと3人で地下2階に(もぐ)ってから気を失うまでの記憶(きおく)を、ポツリポツリと説明し始めた。

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