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第72話 呪いの精霊⑨「第2領域拡張」

 ドカアアアアアアンッ!


 ガリオの走っていたちょうど真下の地面が、一瞬緑色の光を放つと、もの凄い音を立てて爆裂(ばくれつ)した。


「ぐあああああああああ!」


 爆発の勢いはすさまじく、ガリオの体は後方に吹き飛ばされた。そして、彼はそのまま地面に(たた)きつけられ、動かなくなる。


「ガリオ様ッ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 全身に裂傷(れっしょう)()ったガリオ。

 ティフォーネが倒れたガリオに()け寄ると、すぐさま回復魔法(かいふくまほう)をかけた。

 一時的に気を失っていたガリオは、パチッと目を覚ますと急いで飛び起きる。全身の傷は、ティフォーネの魔法の効果で(またた)く間に()えていった。


「す、すまん。助かった。レオンがあんな(かく)し玉を持っているとは……。ティフォーネ、さっきの爆発は?」

「はい。地面に飛び散った自分の血液を発火点(はっかてん)にして、地面を爆裂(ばくれつ)させるレオンさんの土の精霊魔法(せいれいまほう)みたいです」

「なるほど……」


 ガリオが地面に目を落とすと、離れて立つ黒い獣との間の地面には、獣の血と思われる黒い()みがいくつも点在(てんざい)していた。

 その全てを任意(にんい)で爆発させることができるとしたら、彼は集中して黒い獣と戦うことが出来ない。


 彼らの見ている前で、黒い獣の傷も徐々(じょじょ)()えていく。

 ガリオは『虹切(にじきり)』を黒い獣に向けて(かま)えているものの、先ほどの爆裂する精霊魔法を警戒(けいかい)して、むやみに斬りかかって行けなかった。


「くッ! また振り出しに戻ってしまった」


 黒い獣を動けないようにしたかったが、せっかく苦労して傷つけたとしても、その傷を(いや)す時間を獣に与えてしまっては意味がない。

 ガリオは、思っていたよりもレオンを助けることに時間がかかっている状況に、歯噛(はが)みしていた。


 すると、彼の背後からティフォーネが小さな声で話しかけてきた。


「ガリオ様、ちょっと思い付いたことがあるんですけど───」


 彼女の作戦を聞いたガリオは、目を大きく見開いた。

 そして、冷や汗がタラリと一筋(ひとすじ)流れるのをそのままに、黒い獣のほうを向いたまま首を(たて)()る。


「……分かった。ティフォーネ、あとはよろしく頼む」

「はい。任せてください」


 ガリオは、この後起こるであろう状況を想像し、内心(ないしん)ため息を吐いた。

 だが、彼女の作戦が上手くいけば、レオンを助けられるかもしれないと思うと、最後はガリオも覚悟(かくご)を決める。


「行くぞッ!」

「はいッ!」

「うおおおおおおおおおッ!」


 ガリオはググッと身を(しず)めると、全力で一直線に黒い獣に突っ込んでいった。

 足下に獣の血が広がっていても、全く関係ないとでも言うように。


 黒い獣はガリオの予想外(よそうがい)の行動に最初は驚いたものの、すぐに目を細めて、近づいてくるガリオを凝視(ぎょうし)していた。そして───


「右ッ!」


 ティフォーネの(さけ)びとともに、ガリオは右横に大きくジャンプする。すると───


 ドカアアアン!


 ガリオの進行方向にあった左側の地面が、いきなり爆裂(ばくれつ)する。

 しかし、彼はティフォーネの指示した方向にジャンプしていたため、爆発の直撃(ちょくげき)()けることが出来ていた。

 だが、ティフォーネの指示(しじ)はそれでは終わらなかった。


「左ッ!」


 着地する同時に、今度は左側に飛んだガリオだったが、すでにそこは黒い獣の間合(まあ)いに入っていた。

 ガリオは2度連続してジャンプしたことにより、最初の突撃(とつげき)した勢いは残っていない。

 そして、それを(だま)って見ている黒い獣ではなかった。


 ガアアアアアアアアアッ!


 黒い獣は体のバネを活かし、右腕を真っ直ぐ伸ばして、着地したばかりのガリオの胴体(どうたい)(ねら)って鋭い爪で突いてくる。

 それはあたかも、巨大な弓から黒い矢が放たれたかのようだった。


「させないッ!」


 ドンッドンッドンッドンッ!


 ティフォーネの叫びとともに、黒い獣の進行方向にある空間が連続して破裂(はれつ)する。

 しかし、その程度では黒い矢の勢いは止まらない。

 獣は、見えない(こぶし)に全身が(なぐ)られるような彼女の『風撃(ウィンドショック)』の(あらし)を歯を食いしばって()え、魔法の弾幕(だんまく)を強引に突破(とっぱ)した。


白魔法(しろまほう)───」


 すぐ目の前に(せま)る生命の危機(きき)に対して、ガリオは体内のすべての血液が沸騰(ふっとう)したような高熱に(おそ)われていた。

 彼の本能(ほんのう)が、そして、ヤギュウ師匠(ししょう)と白魔法のアヴァロン先生の教えが、魔力回路(まりょくかいろ)(ない)の魔力の循環(じゅんかん)を、極限(きょくげん)まで高めているのだった。


 ガリオは、白魔法における第2領域拡張(りょういきかくちょう)の扉を開く。


「───『加速(アクセル)』」

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