第71話 呪いの精霊⑧「黒い獣の精霊魔法」
ガアアアアアアアアアッ!
今度こそ、獲物を捉えたことを確信する黒い獣。獣の目に、別の方向を向いているガリオの姿が映ったからだ。
全身のバネ、天井からの高さ、人間の体を紙のように引き裂く腕力。すべてが合わさったこの攻撃を、目の前の獲物は、あの細い武器だけで受け止められるはずがない。
そう獣は思っていた。だが───
ザクッ!
次の瞬間、黒い獣の右腕の手首から肩にかけて、長い裂傷が走った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
───時間は数秒前に遡る。
斬り上げた『虹切』が宙を切ると同時に、ガリオの前から黒い獣の姿が消えた。
彼は素早く視線を右側に向けるが、そこに獣の姿は無い。
ダンッダンッダンッ!
黒い獣が跳び回る音───
ガリオは右足を軸に、くるりと体を右に90度回転させると同時に、スッと腰を落とした。
刀は右側に寝かせ、切っ先を後方に向けている。
ガアアアアアアアアアッ!
黒い獣の唸り声が、真正面の頭上から聞こえてくる。
ビリビリと感じる殺気から、獣の狙いは己の頭部。そして、レオンの利き腕である右腕の爪での攻撃───
顔を上げた彼の目の前に、黒い獣の右手の鋭い爪が迫っていた。
しかし、ガリオは落ち着いている。
『殺気が丸出しの相手の攻撃なんざ、寝てても避けられるようになれよ』
鉢巻きで目隠しをしたガリオの横で、ヤギュウ師匠がため息を吐いて立っている。
ガリオの姿は、木の枝で叩かれ、殴られ、蹴られ、地面に転がされ、全身泥だらけになっていた。
すると、ヤギュウ師匠が急に体を傾ける。
『おっと』
『ガリオちゃんをあんまり虐めるなッ!』
後ろから飛んできた小石を、ヤギュウ師匠はなんなく躱した。
そして彼は、小石を投げた犯人である盗賊の少女を睨みつけると、フンッと鼻を鳴らす。
『おい、ガリオ。早く強くなれよ。契約精霊のいないおめーがのうのうと生きられるほど、この世界が甘くないことは、おめーが一番知ってるはずだろ』
ガリオは肩で息をしながら、悔しそうに歯を食いしばっている。
ビュンビュン投げられてくる小石を躱しながら、ヤギュウ師匠はガリオの頭をコツンと小突いた。
『おめーは、この俺様が見込んだ、唯一の弟子なんだからよ。そんで強くなったおめーが、今度はもっとよえー奴を助けてやれ』
(はい。師匠)
黒い獣の爪を真正面から受け止めるのは愚策。躱すと今度はティフォーネが襲われる可能性がある。それなら───
ガリオは体を大きく左に傾け、後ろに流れないように『虹切』を両手で力一杯握り締めると、獣の爪の通過点に固定した。
ザクッ!
ダンジョンの中に、ブシャーッと大量の血液が飛び散った。黒い獣の右腕の手首から肩にかけて、長い裂傷が走っている。
右腕に激痛を感じた黒い獣は、地面に着地すると当時に、バッと後方にすぐさま跳んだ。
そこに、追撃にきたガリオの『虹切』が宙を切る。
「ちッ!」
黒い獣の反応の良さに、思わずガリオは舌打ちした。
獣がガリオから距離を取って離れたため、傷口から流れ出た真っ赤な血液が、地面の至る所に飛び散る。
グルルルルルル
身をかがめてガリオたちを威嚇する黒い獣。
しかしよく見ると、獣の左手で押さえた部分が、緑色に光っているのが分かった。
「ガリオ様ッ! レオンさんが傷を治してますッ!」
ティフォーネが、黒い獣が回復魔法を使って傷を癒しているのを見抜いた。
それを知ったガリオは、回復を阻止しようと再び黒い獣に突っ込んでいく。
「させんッ!」
風のような速さで、黒い獣と距離を縮めるガリオ。
だがその時、黒い獣の顔がニヤリと笑ったように歪んだ。
「───ッ! ガリオ様ッ! あぶないッ!」
地面に飛び散った黒い獣の血液から、急激な魔力の高まりを感じたティフォーネは、すぐさまガリオに警告を送った。しかし───
ドカアアアアアアンッ!
ガリオの走っていたちょうど真下の地面が、一瞬緑色の光を放つと、もの凄い音を立てて爆裂した。
「ぐあああああああああ!」
爆発の勢いはすさまじく、ガリオの体は後方に吹き飛ばされた。そして、彼はそのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。
「ガリオ様ッ!」
※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。
※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!
※こまめに更新していますので、ブックマークをすると便利です!




