表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/125

第69話 呪いの精霊⑥「同じ境遇の先達者」

「ぐあああああああああッ!」

「ガリオ様ッ!」


 黒い獣の強烈な前蹴(まえげ)りが、ガリオに決まる。そのまま彼は、ティフォーネの足下にまで吹っ飛ばされてしまった。


「大丈夫ですかッ!」


 青ざめるティフォーネの前で、ガリオは(なん)とか立ち上がったものの、彼の左腕は、だらんと力なく()れ下がっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 黒い獣の攻撃を両腕(りょううで)を重ねて、何とか防御(ぼうぎょ)したガリオだったが、まったくの無傷(むきず)という(わけ)にはいかなかった。


 左腕から伝わってくる激痛(げきつう)()えているガリオは、『虹切(にじきり)』を口にくわえて腰のポーチから回復ポーションを取り出そうとする。

 その右腕にも、先ほど受けた衝撃(しょうげき)が残っており、まだブルブルと(ふる)えていた。


「ちょっと待ってくださいッ!」


 隣にいたティフォーネが、彼の左腕に両手を向けると、(うそ)みたいに痛みがスーッと引いていった。

 (おそ)らくは骨折(こっせつ)をしていたであろう左腕の(あま)りの回復ぶりに、ガリオは両目を大きく見開(みひら)いて驚いている。


 これほど高度な回復魔法(かいふくまほう)が使える人間は、西の王国の中に、両手の指で数えるほどにいるかどうか。

 そう彼が思ってしまうレベルの、驚異的(きょういてき)治癒効果(ちゆこうか)の高さだった。


「どうですか?」

「あ、ああ。もう大丈夫だ」


 ガリオは左手で(こぶし)を作ったり開いたりするが、全く痛みは無かった。

 ティフォーネが一緒に来てくれたことに心から感謝(かんしゃ)しつつ、ガリオは(くや)しそうに顔を(ゆが)める。その目は、威嚇(いかく)の声を上げる黒い獣のほうに向いていた。


 一方の黒い獣は、深手(ふかで)()わせたはずのガリオがすぐ立ち上がって、再び刀を(かま)えているのを見て、警戒(けいかい)の色を深めていた。


(どうしてレオンが獣のような姿になってしまったのか分からないが、あんな凶暴(きょうぼう)な状態だったら、可哀想(かわいそう)だがここで倒すしかない……)


 地面に放置(ほうち)されている無残(むざん)な4つの死体。そして、人を見境(みさかい)なく(おそ)ってくる凶暴性(きょうぼうせい)

 いくら元はレオンだったとしても、今の状態(じょうたい)では冒険者協会から討伐対象(とうばつたいしょう)害獣(がいじゅう)として、クエストに上がってもおかしくない。

 そしてこのダンジョンには、最強(さいきょう)の剣士が存在(そんざい)していた───ルシア隊長である。


 彼と散々(さんざん)手合わせをしたガリオには、ルシア隊長が目の前の黒い獣に負けるイメージが全然()かなかった。


「ティフォーネ、一旦(いったん)ここは引こう。ルシア隊長がこのダンジョンのどこかにいるはずだ」

「えッ! でもレオンさんは───」

「……残念だが、このままレオンを野放(のばな)しにしたら、どれだけ犠牲者(ぎせいしゃ)が出るか分からない。すぐ上には、新人たちが一杯(いっぱい)いるんだ。これ以上犠牲者が出る前に、ルシア隊長と合流して討伐(とうばつ)するしかない」


 グッと唇を()みしめるガリオ。

 (すく)えるものならどうにかしてレオンを救いたいガリオだったが、黒い獣となってしまった彼を元に戻す方法など、そうそうあるとは思えなかった。しかし───

 

 ティフォーネという少女は、ガリオの想像を(はる)かに()えていた。


「私なら、レオンさんを元に戻せるかもしれません」

「はあああッ?」


 黒い獣が自分たちのことを(にら)んでいるにも関わらず、思わずガリオはティフォーネのほうを見てしまった。

 そして、(あわ)てて視線を前に戻す。


「ほ、本当なのか?」

「はい。絶対とは言えませんが、レオンさんが精霊と()して()もない今だったら、まだ可能性はあります。ただ、時間が()てばたつほど、その可能性はどんどん低くなりますけど」


 ガリオは、目の前の黒い獣をもう一度よく観察(かんさつ)した。

 あの金髪のイケメンだった青年の面影(おもかげ)は、その獣からは全く無くなっている。


 だが、ガリオはレオンにもう一度会いたいと思った。


「レオンさんを動けないようにしてください。出来ますか?」

「……ここには俺たちしかいないからな。だったら、俺がやるしかないじゃないか」


 レオンには、自分と同じで、契約精霊がいない。

 その事実に、ガリオはどうしても彼に共感(きょうかん)(おぼ)えてしまうのだった。

 ガリオ自身、体が精霊アレルギーになるほどの過酷(かこく)な人生を送ってきた。

 そして、レオンもそれに匹敵(ひってき)するほど、苦しい人生を送っていることは、想像に(かた)くない。


 それなら───


 契約精霊がいないというだけで───


 何故(なぜ)自分だけこんな(ひど)い目に()うのか、と───


 生まれてきたことを後悔(こうかい)するほどの絶望(ぜつぼう)を知っている自分ならば───


 彼がこれから(あゆ)む道を、少しでも明るくしてやれるかもしれない。


『おい、ガリオ』

『ガリオ君』

『ガリオちゃんッ!』

『ガリオ』


 ふと、ヤギュウ師匠(ししょう)たちの(なつ)かしい声が聞こえてくる。

 ガリオは、心の奥から燃え(さか)る炎の(ごと)闘志(とうし)()き上がってくるのを感じていた。

 自分でも不思議(ふしぎ)なほどに、肉体的にも精神的にも、軽くなっている。


 ビュンビュンと(すさ)まじい風切(かざき)り音が、ダンジョンの中に(ひび)き渡る。

 ガリオは、右手に持っている重量感(じゅうりょうかん)のある『虹切(にじきり)』を、まるで細い小枝のように、軽々(かるがる)とグルグル振り回していた。


 そして、(かたな)先端(せんたん)をピタリと黒い獣に向けて動きを止める。

 ガリオは───笑っていた。


「ひとつ、お相手願おう」

※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※こまめに更新していますので、ブックマークをすると便利です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ