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第66話 呪いの精霊③「走馬燈」

「やめろおおおおおおおおお!」


 ダンジョンの中にレオンの絶叫(ぜっきょう)(ひび)き渡った。

 絶望感(ぜつぼうかん)で頭が一杯(いっぱい)になっていたレオンだったが、しばらくして、ランドルの腕が全く動いていないことに気付く。


「───ゴフッ」

「え?」


 (おそ)る恐る目を開けたレオンの目に、真っ赤な血を()きだすランドルの顔が(うつ)った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ランドルの顔には苦悶(くもん)の表情が浮かんでおり、必死に後ろを振り返ろうとしている。

 だが、彼はドンッと後ろから押されたように、レオンのほうに急に倒れ込んできた。そして───ランドルはそのまま絶命(ぜつめい)した。


「ひッ!」


 自分の上にランドルの死体が乗りかかってきて、レオンは短い悲鳴(ひめい)を上げる。

 突然の出来事(できごと)に周りを見回すと、彼女は誰かが自分を見下(みお)ろしていることに気づいた。ただ、その顔は天井に浮かぶ光球(こうきゅう)(かげ)になっており、ハッキリと誰だか分からない。


「だ、誰ッ!」


 しかしその人物は、レオンの問いかけを無視(むし)して自分の背後(はいご)を見た。

 彼女もつられてその方向に目を(うつ)すと、そこには、地下1階の階段の所で会った冒険者の男が、ポタポタと真っ赤な血の(したた)り落ちる剣を持って、無言(むごん)で立っていた。その足下には───


「エドワードッ!」


 男の足下にうつ()せで倒れているのは、先ほどまでニヤニヤと笑っていたエドワードだった。彼はレオンの呼びかけに、ピクリとも反応(はんのう)しない。

 一瞬助かったと思ったレオンだったが、すぐにそれは間違(まちが)いだと気づいた。

 エドワードを殺害(さつがい)したと思われる冒険者が、剣を持ったまま自分に歩み寄ってきたからだ。


「い、いやッ!」


 思わず逃げようとするレオンだったが、相変(あいか)わらず手足が(しば)られているため、その願いは(かな)わなかった。

 冒険者はレオンの(わき)に立つと、持っていた剣を(さや)(おさ)める。そして地面に(ひざまず)くと、その両手をレオンの細い首に()ばした。

 レオンには、彼の口の()が大きく()り上がり、興奮(こうふん)したように鼻息(はないき)(あら)くなっているのが分かった。


「やめッ!───がッ!───あッ!」


 ギリギリと首が強い力で()め付けられ、レオンはすぐに呼吸(こきゅう)が出来なくなる。

 彼女はジタバタと体を()らして抵抗(ていこう)しようとするが、何の意味も無かった。

 次から次に、レオンの想像を()える事態(じたい)が連続して起こったことで、彼女の頭の中はぐちゃぐちゃに混乱(こんらん)していた。

 

 何故(なぜ)こんな事になっているのか、何故ランドルたちは殺されたのか、何故ダンジョンに(もぐ)ったのか、何故城塞都市(じょうさいとし)オルソに来たのか、何故必死にお金を()めていたのか、何故冒険者になろうと思ったのか、何故周りから(いじ)められたのか、何故(のろ)いの精霊に()りつかれていたのか、何故父親はいないのか、何故母親は泣いているのか、何故、何故、なぜ、なぜ───


 何が……私の何が悪かったんだろう。


 冒険者になりたいと思ったから、なのかな。


 我がままを言って、兄妹(きょうだい)の様子を見に行ったから、なのかな。


 あーあ。


 ()いことなんて、1つも無かった。


 誰も私に優しくしてくれないんだもん。


 皆みーんな、当たり前に契約精霊を持ってる。


 でも私は、(のろ)いの精霊に()りつかれてる。


 なんで私だけこんな(ひど)い目に()わなきゃいけないの?


 あーあ。


 こんなことなら……生まれてこなきゃ良かった。


 ……。


 ……あれ? これは何? 子ども?


 あははは。


 私の中を元気にぐるぐる走り回ってる。


 ぐるぐるぐるぐる。


 うーん。


 私、君のこと知ってる気がするよ。


 誰だったかなあ。


 (のど)まで出かかってるけど……ごめんね、思い出せない。


 でも、君ってなんか……とっても温かいね。


 レオンは最後の瞬間、全身が暖かい何かに(つつ)まれたのを感じ、そして───目の前が真っ暗になった。


 ───ォォォォォォォォォ


 ダンジョン内の巡回任務(じゅんかいにんむ)に当たっていたガリオは、通路の奥からあまり聞き慣れない、(けもの)の鳴き声のような音を聞いて、ふと足を止めた。

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