表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/125

第64話 呪いの精霊①「幸先のいいスタート」

「やるよな」


 ランドルが短く問いかける。

 その言葉を聞いて、レオンは顔を上げるとコクンと大きく(うなず)いた。

 レオンに無言で(うなず)き返したランドルは、自分の後ろ立つエドワードと顔を見合わせる。

 レオンから、仲間の二人の表情が一瞬見えなくなった。


 ランドルたちは口を大きく(ゆが)めて、ニヤリと笑っていたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 その夜、レオンは夕飯も食べずに宿のベッドの中にもぐりこんでいた。

 宿に帰ってお風呂に入ってもザワザワする気持ちは落ち着かず、食欲(しょくよく)も無くなっている。


「くそッ! くそッ! くそッ!」


 レオンは(まくら)に顔をうずめ、右手で力なくベッドを何度も(たた)いた。2日間の実技訓練(じつぎくんれん)で予定どおりに魔石(ませき)が集まらず、彼の心の中は(くや)しい気持ちで一杯(いっぱい)になっている。

 こんな余裕(よゆう)のない状態では、ガリオに合わせる顔がなかった。


「明日、地下2階に……」


 地下2階で魔石を集めることは、冒険者協会のルールに反しているし、契約精霊(けいやくせいれい)がいない3人だけでは危険(きけん)なことも分かっている。

 それでもレオンは、目の前の暗闇(くらやみ)に飛び込まなければならなかった。

 彼は冒険者になると決めてから、今回の冒険者登録に参加するまで、2年以上を(よう)している。それだけレオンにとって、金貨(きんか)1枚を()めるのは大変なことだった。


「強く、強くなりたい……強く……強く……」


 ベッドの中で「強くなりたい」とブツブツつぶやくレオンの上に、ぼんやりと光を放つ緑色の魔法陣(まほうじん)が浮かんでいた。

 だが、頭から布団を(かぶ)っている彼は、そのことに気づいていない。


 夜が()けていっても、レオンの部屋の中には、彼の(ひと)(ごと)がずっとこだましていた。


 ───実技訓練最終日(さいしゅうび)の早朝、レオンたち3人はダンジョンの中にいた。


 彼らは、黙々(もくもく)と地下2階に下りる階段のある場所に向かっている。その表情は(けわ)しく、また、レオンの目元(めもと)にはうっすらとクマができていた。

 しばらく進むと、通路の(かど)の所に冒険者らしき男が立っているのが見えてくる。

 彼の頭上には、精霊魔法で作った光球(こうきゅう)がフワフワと浮いており、周囲を明るく()らしていた。


「じゃあ、後は(たの)みます」

「……」


 ランドルがひと声かけると、その冒険者は無言で(うなず)いた。

 その光景を見て、レオンがホッと胸をなで下ろす。しかし、すぐに気を引き締めてると、(ほほ)を軽く両手で(たた)いた。

 ここからは、死と(とな)り合わせの世界に足を()み入れることになるからだ。


「ランドル、エドワード。僕はどうしても冒険者になりたいんだ。二人の力を貸してくれ」


 レオンの真剣な表情を見て、二人は顔を見合わせた。そして、ランドルがニヤリと笑ってレオンに(うなず)いてみせる。


「ああ、(まか)せておけ。俺たちも金持ちになるっていう夢があるからな。ちゃんとやるさ」

「そうそう」


 エドワードが右の(こぶし)を前に突き出す。それを見たランドルが、プッと軽く吹き出したが、何も言わずに同じく拳を合わせる。

 目の前に並ぶ2つの拳と二人の仲間の顔を見比べて、レオンは少し感動していた。このパーティが初めてまとまった気がしたからだ。

 ()り詰めていた気持ちが軽くなるのを感じたレオンは、二つの拳にコツンと自分の拳を当てた。


「よろしく頼む」

「そう堅苦(かたくる)しくするなよ、レオン。俺たち仲間だろ?」

「そうそう」

「……分かった。行こう」


 レオンは彼らとパーティを組んで、初めて二人に笑顔を向けた。そして、すぐに前を向いて歩き出す。

 彼の表情を見て少し驚いたランドルたちは、すぐにニヤニヤとした笑みを浮かべて、レオンの(あと)に続いた。


 地下2階に下りると、そこには地下1階とさほど変わらない光景が広がっていた。通路の先には、ランタンの明かりが届かない暗闇(くらやみ)が、ぽっかりと口を開けて3人を待っている。

 しかしレオンは、これまで見たことが無いような魔物(まもの)がウロウロ徘徊(はいかい)している姿を想像し、ゴクリと(つば)を飲み込んだ。


「この先、スライムに遭遇(そうぐう)できれば楽なんだがな。ゴブリンが3匹以上(かた)まってたら、俺たちじゃどうしようもない」


 後ろからランドルの声が聞こえてくる。その声を聞いてレオンは、今ここで自分一人じゃないことに安心感を覚えていた。


「……ゴブリンの音に注意しながら、静かに行こう」

「そうだな」


 3人はなるべく音を立てないように、慎重(しんちょう)に歩みを進める。

 しばらく通路を進んでいくと、天井や壁を注意深く見ていたレオンが、異変(いへん)察知(さっち)した。

 彼は左腕を横に突き出し二人を制止(せいし)すると、右手で前方の天井を指差(ゆびさ)す。


「……シッ。スライムがいるみたいだ」


 レオンの目に、天井の一部がうねうねと動いているように(うつ)った。しかもそれは、1カ所ではなく数カ所あるように見える。

 レオンはバッグからナイフを取り出すと、荷物(にもつ)を通路の(すみ)に置いた。ランドルとエドワードも、何も言わずにレオンの行動に(なら)う。


「上をよく見て、しっかり後ろに()けるんだぞ。いいな」

「分かった」


 エドワードがランタンを壁に()けるように細工(さいく)したのを確認して、ランドルが二人に声をかけた。(うなず)き返すレオンとエドワード。

 彼らは横一列(よこいちれつ)に並ぶと、じりじりとそのまま前に進んだ。そして、3人がスライムの真下(ました)を通りかかった瞬間───


「───今だッ!」


 ランドルの声に全員が一斉(いっせい)に後ろに飛ぶと、その直後に3匹のスライムが天井から()って来た。

 彼らの目の前に、落下した衝撃(しょうげき)(うす)く地面に広がるスライムたち。


「やああああああッ!」


 レオンはスライムの魔石を(つか)むと、上に持ち上げた。すると、魔石と一緒にスライムの薄く広がった体も、ゴムのようにビヨーンと()びてついてくる。

 彼は伸びきったスライムの体から、魔石を切り取った。残ったスライムの体は、すぐに霧散(むさん)する。

 残りの二人も、同じようにスライムから魔石を切り取ることに成功(せいこう)していた。


 一気に3個の魔石を集めることが出来て、レオンが(うれ)しそうな表情を浮かべる。


「この調子で30個集めよう」

「おいおい、レオン。油断(ゆだん)禁物(きんもつ)だぞ。なあ?」

「そうそう」


 ニヤニヤ笑うランドルに、エドワードも同意(どうい)する。だが彼らの声は明るく、昨日までの暗い雰囲気(ふんいき)はどこにも無かった。

 レオンも少しリラックスした様子で、荷物を背負(せお)い直す。心なしか、荷物のほうも軽くなったように感じた。


「分かった。ランドルの言うとおりだ。油断せず行こう」


 再び静かに通路を進む3人。すると、左側にも進める通路がある分岐(ぶんき)が現れた。

 それを見て、先頭(せんとう)に立つエドワードが足を止める。彼はしきりに(くつ)を気にしているようだった。


「レオン。エドワードが靴を()き直している間に、少しだけランタンを持って、その左側の通路の先を確認してくれるか?」

「……分かった」


 レオンはエドワードからランタンを受け取ると、体の左側を壁につけて、ゆっくりと通路の先に上半身を伸ばした。すると───


 ───ゴスッ!


「あっ!」


 レオンは頭の上に強い衝撃(しょうげき)を受けて、その場に倒れ込んだ。

 ズキズキと(はげ)しく(いた)む頭を、右手で押さえるレオン。

 彼は咄嗟(とっさ)にゴブリンに(おそ)われたのかと思ったが、頭上(ずじょう)からはランドルの笑い声が聞こえてきた。


「おいおい。油断するなって言ったろ? お姫様(ひめさま)

※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ