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第62話 冒険者登録の実技訓練⑦「絶望的な成果」

『ハッハッハ。残念だったな』

『ヤギュウちゃん、ズルいぞーッ! じゃんけんで白魔法使うなんてッ! リーダーも何とか言ってやってッ!』

『グーグー。スヤスヤ』

『そんなセコいこと考えるのは、おめーだけだッ!』

『ガリオ。やり直すように言ってくれたら、白魔法の極意(ごくい)を教えよう』

『……別に誰でもいいんだけど』


 思わず涙が()み上げそうになり、ガリオは(あわ)てて頭をブンブンと左右に()る。

 そんな彼を、ティフォーネとレオンは不思議そうな顔で(なが)めていた。


 ───そして、ガリオたちの運命(うんめい)を左右する実技訓練が始まった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者登録(ぼうけんしゃとうろく)4日目の朝、実技訓練(じつぎくんれん)に参加する若者たちは、オルソの街から歩いて1時間ほどのところにある、オルソ第2ダンジョン前の広場に整列(せいれつ)していた。


 オルソ第2ダンジョンは、オルソの街の周囲にあるいくつかのダンジョンのうちの一つで、比較的(ひかくてき)弱い魔物(まもの)しか出現(しゅつげん)しない、初級・中級冒険者向けのダンジョンである。

 実技訓練が行われるこの3日間は、冒険者協会が()し切っていた。


 これから自分たちだけでダンジョンに(もぐ)り、実際に魔物と戦うことになるため、若者の多くが緊張(きんちょう)で表情が(かた)くなっている。

 そんな若者たちの前に、ガリオのような戦闘科目(せんとうかもく)担当の講師(こうし)たちの姿はなかった。

 彼らはすでにダンジョンの中におり、所定(しょてい)の場所で緊急時対応(きんきゅうじたいおう)任務(にんむ)についている。


 朝日が(まぶ)しいダンジョン前の広場では、冒険者協会スタッフによる実技訓練の注意事項(ちゅういじこう)が、若者たちに事細(ことこま)かに伝えられていた。


「今日から3日間行う実技訓練では、このオルソ第2ダンジョンの地下1階で、一人につき魔石(ませき)を10個集めてもらいます」


 魔石とは、魔物の体内にある組織(そしき)の一つで、人間に例えると『目に見える魔力回路(まりょくかいろ)』だと言われている。

 ダンジョン内の魔物は、魔石を体内から取り出したり破壊(はかい)すれば、残った死体は(あと)を残さずにきれいさっぱり消えてしまう。

 ダンジョン外にいる魔物も同様で、どんな魔物でも体内のどこかにある魔石が、最大の弱点(じゃくてん)になっていた。


 そして、多くの冒険者にとって、魔物を倒して魔石を集めることが重要な収入源(しゅうにゅうげん)になっている。

 何故(なぜ)なら、錬金術師(れんきんじゅつし)魔石職人(ませきしょくにん)などが魔石を加工(かこう)することで、人間の魔力回路の消耗(しょうもう)(おさ)える道具として活用できるからだ。

 現在では、多くの人にとって魔石は生活必需品(せいかつひつじゅひん)の一つとなっており、アクセサリーのように身につけている。


「……ティフォーネちゃん。私、緊張(きんちょう)してきちゃったよー。一人10個も集められるかなー」


 協会スタッフによる説明が続く中、ティフォーネとパーティを組む黄色クラスの女の子が、コソコソと声を(ひそ)めて彼女に話しかけてきた。

 そんな女の子に、ティフォーネはいつもと変わらない笑顔を向ける。


「大丈夫大丈夫。講義で習ったとおりにちゃんとやれば、ここの魔物くらい余裕(よゆう)だよ」

「そ、そうかな。私、頑張(がんば)ってみるね」


 黄色クラスの中で『天才少女』とあだ名が付いたティフォーネから(はげ)まされ、その女の子はホッと安心したようだった。

 にこやかな笑みを浮かべながらウンウンと頷いているティフォーネは、白色クラスにいるレオンのほうに顔を向けた。


 すると彼は、(きび)しい表情をして、協会スタッフの話を聞いている。そしてすぐ後ろには、彼のパーティメンバーであろう体格(たいかく)のいい男子二人が並んでいる。

 ただ、レオンの表情とは対照的(たいしょうてき)に、彼らの顔からは緊張感(きんちょうかん)一欠片(ひとかけら)も感じれなかった。彼らは冗談(じょうだん)でも言い合っているのか、下品(げひん)()みを浮かべている。

 ティフォーネはその様子を見て、レオンのことが少し心配になってくるのだった。


「この地下1階に出現する魔物は、スライムとゴブリンです。どちらも単体では弱い魔物ですが、(まれ)に集団で(おそ)ってくることがあります。一人では苦戦(くせん)しますので、必ずパーティで対処(たいしょ)してください」


 協会スタッフの長かった説明が、最後に近づいてくる。

 そして、彼は若者たちに向かって、この実技訓練における最も重要な注意点(ちゅういてん)周知(しゅうち)した。


「なお地下2階には、絶対(ぜったい)に立ち入らないようにしてください。そこからは、大体(だいたい)の魔物が集団で徘徊(はいかい)しています。ダンジョン内で事故(じこ)が起こっても、冒険者協会は責任を()いません。皆さんの自己責任となりますので、必ず地下1階で魔石を集めるようにしてください。以上です」


 説明を聞き終えた若者たちは、一斉(いっせい)にパーティのメンバー同士で集まりだした。

 レオンもすぐに後ろを振り返り、仲間の二人に話しかける。


「ランドル、エドワード。荷物を確認し合ったら、早速(さっそく)ダンジョンに(もぐ)ろう」

「まー、そう(あせ)るなってレオン」

「そうそう」


 すぐにでも出発しようとするレオンを、ランドルたちは制止(せいし)した。彼らはお互い顔を見合わせると、フッと小さく笑って肩をすくめる。

 そんな二人を見て、レオンは少し疎外感(そがいかん)を覚えた。


「今日は朝早かっただろ? 実は俺たち、まだ朝飯(あさめし)を食ってないんだ。ちょっとそこの食堂(しょくどう)で食べてくるから、待っててくれるか?」

「はああああああ?」


 オルソ第2ダンジョンはオルソの街から近いこともあり、普段から多くの冒険者が魔石集めに訪れている。

 そのため、ダンジョンの周りは小さな町のようになっていて、食堂の他にも、武器屋(ぶきや)や道具屋、宿屋、魔石などの売買(ばいばい)を行う商店も多数存在していた。


「ちょッ! 実技訓練は3日間しかないんだぞッ! 僕たちは他のクラスの人たちと違って、契約精霊がいなんだ。一刻(いっこく)も早くダンジョンに潜らないと、魔石を30個集められるかどうか、ただでさえ(あや)しいっていうのに───」

「まあまあ」


 (おこ)った様子で()め寄ってくるレオンに対して、ランドルが苦笑(くしょう)しながら彼の肩をポンポンと(たた)いた。

 エドワードのほうも、やれやれと首を小さく横に()っている。


「今ダンジョンの中に入っても、他の奴らが急いで魔物を()()くしてて、俺たちの分は残ってねえよ。だったら、少し落ち着くまで待とうってエドワードと話してたんだ。なあ?」

「そうそう」

「───それとも何か?」


 急にランドルが怖い顔になって、レオンを(にら)みつける。

 年上で背も高く、体格のいいランドルにすぐ目の前まで(せま)られ、思わず恐怖(きょうふ)を覚えたレオンは、ビクッと体を(ふる)わせて少し身を引いた。


「俺たちに朝飯も食わずに魔石集めをしろって言うのか? レオンは俺たちのリーダーでもないんだから、指図(さしず)するのは()してくれよな」

「だ、だけど、僕は冒険者にならなきゃいけないんだ」


 グッと(こぶし)(にぎ)って、(くや)しそうに唇を()むレオン。そんな彼を、ランドルたちは冷めた目で見つめる。


「大丈夫だって、レオン。それは俺たちだって(おんな)じさ。まだまだ時間はあるんだし、(あせ)る必要は無いって。なあ?」

「そうそう」


 彼らは持ち上げた右手をヒラヒラと振ったまま、食堂のほうへ歩いていった。

 後に残されたレオンは、無言(むごん)で地面の石を()る。そして大きなため息を吐き、一人で荷物の点検(てんけん)を始めた。


 冒険者登録の実技訓練初日(しょにち)、ほとんどのパーティが10個以上魔石を集めている中、レオンたちのパーティが手に入れた魔石の数は、たったの5個だった。

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

題名は、未定。


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