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第56話 冒険者登録の実技訓練①「剣の稽古と弟子入り志願」

 彼女の言葉は、始祖精霊様(しそせいれいさま)御託宣(ごたくせん)を得る巫女(みこ)の言葉のように、彼らの心にズンズンと(ひび)いていた。

 そして、ティフォーネの表情が年相応(としそうおう)の笑顔に戻る。


「なんてね! 精霊教会の教えを格好良(かっこうよ)く言ってみました。皆さん、顔が固まってますよ。おーい!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガリオは木剣(ぼっけん)(かま)えて、金髪のイケメンの青年であるレオンの打ち込みを()っていた。

 レオンはその美しい金髪を後ろに(たば)ねており、(ひたい)にはキラキラと(かがや)く汗が流れている。


 彼らは体育館の中で剣術(けんじゅつ)稽古(けいこ)を行っており、少し離れた所にいるティフォーネだけが、その様子をニコニコと楽しそうに見守っていた。


「いくぞッ! へんた……ガリオさん!」

「今、変態(へんたい)って言おうとしなかったかッ!」

「やあああッ!」


 レオンはガリオの質問には何も言わず、剣を振り上げて()りかかっていった。

 それに対してガリオのほうは、ハーッとため息をついて防御(ぼうぎょ)の構えを取る。


 ガアンッ!


「うおッ!」


 華奢(きゃしゃ)な体つきをしているのと裏腹(うらはら)に、レオンの木剣から伝わってくる衝撃(しょうげき)は、ガリオの想像を()えていた。

 彼は木剣がそのまま押し込まれないように、今まで以上に剣に力を()める。


 レオンは自分の攻撃(こうげき)がガリオに防がれたと分かると、すぐに剣を振り上げ、今度は左に少し角度を変えて振り下ろす。


「やあああああああああッ!」


 ガンガンガンガン───


 レオンはまるで(にく)しみをぶつけるかのように、必死の形相(ぎょうそう)でガリオに木剣を(たた)きつける。

 一方のガリオは、連続して木剣を振り下ろすレオンに、(した)を巻いていた。

 特に体を(きた)えていない素人(しろうと)ならば、とっくにスタミナが切れて腕が上がらなくなり、途中でへばって動けなくなってしまうからだ。


(れ、レオンは見かけによらず、意外(いがい)と鍛えてあるんだな)


 契約精霊(けいやくせいれい)がいない冒険者にとって、(たよ)りになるのは自分の体だけだ。

 そういう意味では、レオンは最低限(さいていげん)の条件をクリアしていると言える。


(だが、やはり剣術は素人そのものか……)


 レオンの剣を振るう速さとその重さは素人(ばな)れしているが、剣の軌道(きどう)素直(すなお)なもので、フェイントを仕掛(しか)けるようなことも無い。そして───


 ───ガンッ!


「ぐあッ!」


 レオンの体が(はじ)かれたように、一瞬後ろに(ひる)む。

 ガリオは、その(すき)に自分の体をスッとレオンの(ふところ)(もぐ)りこませると、左手で彼の襟首(えりくび)(つか)み、背中に(かつ)ぎ上げる。


「ぬんッ!」

「わッ!」


 レオンの体が、ぐるんとガリオの背中の上で綺麗(きれい)に1回転する。

 ガリオが腕に感じた彼の体重は、見た目どおりにとても軽いものだった。


 ダタンッ!


 衝撃(しょうげき)に備えてレオンは身を(かた)くしたが、背中が床に付いたときの痛みは全くなかった。

 ガリオが、彼の襟首をずっと持ち上げてくれていたからだ。

 自分の首元(くびもと)からガリオの手が離れると、レオンはくるんと体を横に回転させて、素早(すばや)く立ち上がる。

 だが、少し生地(きじ)()びて広くなった襟首にチラッと視線(しせん)を落とし、彼は少し顔を赤くした。

 そして、再び鋭い目でガリオを(にら)みつける。


 そんなレオンの強烈(きょうれつ)な視線を受けて、ガリオは内心(ないしん)大きなため息を吐いた。


(どうしてこうなったんだ……)


 ───(こと)発端(ほったん)は、数時間前にルシア隊長のもとへ、金髪のイケメンの青年が(たず)ねてきたことだった。


 冒険者登録(ぼうけんしゃとうろく)の初日の午前中、ルシア隊長たちの出番は無かったので、ガリオは執事服(しつじふく)のままでジョシュアと講義内容(こうぎないよう)をどうするか打ち合わせをしていた。

 ルシア隊長の身分は、男爵(だんしゃく)でもあるハリー支部長よりも高いこともあり、立派な応接室(おうせつしつ)が彼ら3人の控室(ひかえしつ)となっている。


「講義内容なんて、適当(てきとう)でいいんじゃないか。適当に(けん)とか(やり)とか新人たちに持たせて、適当にガリオ君を攻撃(こうげき)させれば───」

「そんな講義をしたら、俺死んじゃいませんかねえッ!」


 ルシア隊長のあまりにも適当すぎる提案を聞いて、ガリオは顔を真っ青にして反論(はんろん)した。

 紅茶(こうちゃ)を片手に窓際(まどぎわ)に立つルシア隊長は、さわやかな笑顔をガリオに向ける。


「そんなことよりも、ガリオ君。これから一緒に汗を流さない?」

「……ルシア隊長。俺の話も聞いてくださいよ……」


 ガックリとうなだれるガリオ。

 そんな二人のやりとりを聞いていたジョシュアが、(こま)ったような表情をして頭を上げた。

 それを見たガリオは、彼がルシア隊長を(いさ)めてくれるのではないかと、思わず期待(きたい)したのが───


「隊長。あと少しで打ち合わせが終わるので、ガリオさんを連れ出すのはその後にしてください」

「しょうがないなあ。あとちょっとだけだよ」

「……ジョシュアさん。完全に他人事(たにんごと)だと思ってますね」


 天井に目を()らして、ヒューヒューと鳴らない口笛(くちぶえ)真似(まね)をするジョシュア。

 人の事情(じじょう)など考慮(こうりょ)しない二人に、これからどんな(あつか)いを受けるか分からなくなったガリオは、絶望(ぜつぼう)した表情を見せていた。


 ───コンコン


 すると、誰かがドアをノックする音が部屋の中に(ひび)く。

 ジョシュアはそばに置いていた剣をサッと引き寄せると、契約精霊をすぐに召喚(しょうかん)できるように、頭上に燐光(りんこう)出現(しゅつげん)させた。

 ガリオも念のため、すぐ動けるように腰を少し浮かせる。 


「どなたですか?」

「お休み中のところ、失礼いたします。レオン・マリティスといいます。ローグライト(きょう)にお目通(めどお)り願いたいのですが」


 ジョシュアが自分の上司の顔を(うかが)う。ルシア隊長は「んー」と数秒考えこんだのち、コクリと(うなず)いてみせた。

 上司の了解(りょうかい)を得たジョシュアは、ドアのところに歩み寄って、そのままドアを開ける。


「どうぞ、入ってください」

「失礼します」


 ジョシュアの返事を受けて部屋に入ってきたのは、あの金髪のイケメンの青年だった。

 彼は部屋の中をグルッと見回す。そしてガリオと目が合うと、何故(なぜ)かその表情をこわばらせた。


「どうかしましたか?」


 ルシア隊長が応接ソファーの奥側に座ると、固まっているレオンに声をかけた。

 ジョシュアは部屋の(すみ)でカチャカチャと何か手を動かしており、ガリオは(あわ)ててルシア隊長の後ろに回る。

 レオンはハッと正気(しょうき)を取り戻すと、部屋の入り口で慌てて姿勢(しせい)を正した。


「し、失礼しました、ローグライト卿。わた……オッホン。ぼ、僕はレオン・マリティスと申します。この(たび)の冒険者登録に来た者です。高名(こうめい)な剣士であられるローグライト卿に、無理を承知(しょうち)でお願いにあがりました」

「そんな堅苦(かたくる)しくならなくていいですよ。どうぞこちらに座ってください」


 緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで来訪(らいほう)の理由を()べるレオンに、ルシア隊長は右手をヒラヒラと()らして、目の前の空いているソファーを示した。

 すでに応接用のテーブルの上は片づけられており、ジョシュアがレオンの分の紅茶を彼の前にカチャリと置く。


「熱いうちにどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ジョシュアはそのままルシア隊長の後ろに回った。ガリオもその横に立って、ルシア隊長とレオンの様子を見守っている。


「それで、私へのお願い(ごと)ってなんですか?」

「は、はい」


 ルシア隊長から優しい口調で問われ、レオンの緊張も少しだけ(ほど)けたようだった。

 彼は紅茶を少し飲んで、口の中を湿(しめ)らせる。


「僕は、昨日中庭の広場で披露(ひろう)されていたローグライト卿の剣の腕前(うでまえ)を見て、とても感動いたしました。そして、僕もローグライト卿のように剣術が強くなりたいと思ったのです」

「ふむふむ」


 すると突然(とつぜん)、レオンはテーブルに頭が付くくらい深々(ふかぶか)と頭を下げた。彼の後ろに(たば)ねたサラサラの金髪が、テーブルの上に降り注ぐ。


「どうかこのレオン・マリティスを、ローグライト卿の弟子(でし)にしていただけませんか」

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第57話 冒険者登録の実技訓練②「レオンの苦悩と師匠の言葉」


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