表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/125

第55話 冒険者登録の講義⑤「アルちゃんと精霊教会の教義」

 隣でゆっくりと呪文の唱えるもう一人の若者をよそに、ティフォーネは無詠唱(むえいしょう)でいきなり風魔法『風撃(ウィンドショック)』を放った。


 ドンッ───バキッ!


 大きな音を立てて、木製の案山子(かかし)の右腕が()れて吹き飛ぶ。

 その場にいた講師二人と黄色のクラスの全員が、呆然(ぼうぜん)とした表情で目の前の美少女を見ていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「すみません。案山子(かかし)(こわ)れちゃいました」

「……き、君、(すご)いね」


 ペコリと頭を下げるティフォーネに、講師はハンカチで(ひたい)の冷や汗を()いていた。そして、ティフォーネの横に(なら)ぶと、若者たちのほうに向き直る。


「一般的に風の精霊魔法は、他の3つの属性(ぞくせい)の精霊魔法に(くら)べて、攻撃力が弱くて(あつか)いが難しいと言われています。何故(なぜ)か分かりますか?」


 若者たちは隣同士で、小声でそれぞれ意見を言い合っている。

 すると、クラスの中の一人の青年が、遠慮(えんりょ)がちに手を挙げた。


透明(とうめい)だからですか?」

「そうですね。風というのは透明で目に見えないし、形もありません。そのため、目に見える他の精霊魔法よりも、術者(じゅつしゃ)の高い集中力と想像力が要求(ようきゅう)されるのです」


 そして講師は、ティフォーネの肩をポンッと軽く(たた)いた。


「しかし、風の精霊魔法もしっかり練習すれば、ティフォーネさんのように(すご)威力(いりょく)を発揮します。皆さんも冒険者になった後は、しっかりと魔法の研鑽(けんさん)(はげ)んでください」


 「拍手(はくしゅ)」と言って講師が拍手をすると、クラスメイトの多くがティフォーネに大きな拍手を送った。

 しかし、数名の女の子たちは拍手をせずに、彼女のことを(にら)んでいるのだった。


 ───ティフォーネちゃんって、やっぱり天才だよなあッ!

 ───可愛いし、魔法も凄いし、(うらや)ましいー!

 ───誰から魔法を習ったの? 私も習ってみたーい!


 しばらくの間、ティフォーネはクラスメイトから色々質問されたが、彼女はニコニコと笑みを()やさず、答えられる質問にはきちんと答えていた。すると───


「ねえねえ、ティフォーネちゃんの契約精霊も見たいよねぇ」

「そうそう。なんたって天才少女なんだから、きっと契約精霊も立派(りっぱ)なんじゃないのぉ」


 先ほど拍手をしなかった女の子たちが、ニヤニヤと鼻につくような笑みを浮かべながら、ティフォーネたちのほうを見ていた。

 すると、ティフォーネの周りにいた若者たちも、目をキラキラさせて女の子たちの意見に賛同(さんどう)する。


 ───見たい見たい!

 ───ティフォーネちゃん、ちょっとでいいから見せて見せてぇ!


 黄色のクラス全員の『風撃(ウィンドショック)』を確認し終えた講師二人も、意外なことにティフォーネの契約精霊に興味(きょうみ)を示した。


「ティフォーネさん。もし良かったら、あなたの契約精霊を見せてもらえませんか? 私たち以上に風魔法(かぜまほう)を使いこなすあなたが、どんな精霊と契約しているのか、非常に興味があります」

「……分かりました」


 ティフォーネは少しだけ(こま)ったような表情をしたが、小さくため息をついて首を(たて)に振った。そして、一人クラスメイトたちから離れると、右手を前に突き出す。


「アルちゃん」


 ティフォーネが名前を呼ぶと、どこからともなく白い小鳥が飛んできて、彼女の右手の上に止まった。

 その鳥は、まるで王冠(おうかん)をかぶっているかのように頭の羽が逆立(さかだ)っており、尾羽(おばね)も驚くほど長く伸びている。


「私の権風精(アルケー)アルちゃんです」

「ほほー、アルキュオネですか。ティフォーネさんはその若さで、すでに冒険者レベル3ほどの潜在能力(ポテンシャル)を持っているんですね」


 講師はティフォーネの契約精霊の正体(しょうたい)を見抜くと、感心したようにうんうん(うなず)いていた。しかし直後に、ちょっとだけ首を(かし)げて(まゆ)(ひそ)める。


「しかし……あなたは何故(なぜ)、契約精霊を召喚したままにしているのですか? ティフォーネさんはとても優秀な冒険者になれる素質(そしつ)を持っているのですから、魔力回路の無駄(むだ)消耗(しょうもう)は、あまり関心しませんねえ」

「すみません、ちょっと事情(じじょう)があって……」


 悲し気に目を()せるティフォーネを見て、周りにいたクラスメイトたちは彼女に同情(どうじょう)した。そして、彼女を悲しませるようなことを言った講師に対して、皆がジーッと非難(ひなん)する視線を向けている。


「い、いや、いいんだよ。ちゃんと分かっていればね」


 「ゴホンッ」と講師は大きな咳払(せきばら)いをすると、別の話題(わだい)を持ち出して、若者たちの注意を()らすことにした。

 彼は若者たちの視線の中に、殺気(さっき)のようなものまで混じっているような気がしたからだ。


(おそ)らく講義の中で精霊のことも学ぶと思うが……え、習った? ま、まあ復習(ふくしゅう)ということで……精霊界における精霊の階級(かいきゅう)は、9つの位階(いかい)に区分されています。上から第1位四大精霊(セラフィム)、第2位知精霊(ケルビム)、第3位座精霊(スローンズ)、第4位主精霊(ドミニオン)、第5位力精霊(ヴァーチャー)、第6位能精霊(エクスシア)、第7位権精霊(アルケー)、第8位大精霊(アーク)、第9位小精霊(スピリット)です」


 そして、講師はティフォーネの右手に止まっている白い小鳥を指差す。


「ティフォーネさんの契約精霊アルキュオネは、第7位の権風精(アルケー)に位置付けられています。そして、冒険者レベルの認定(にんてい)は、基本的に契約精霊の位階(いかい)で決定しますので、ティフォーネさんは順当(じゅんとう)にクエストをこなしていけば、冒険者レベル3になれるということですね」


 若者たちの講師を見る目が、無言で「そんなの知ってるよ」と言っていた。

 講師は冷や汗をハンカチで()きつつ、隣にいるティフォーネに耳打ちをする。

 

「……ティフォーネさん。その契約精霊で、あの案山子(かかし)のどれかを攻撃してもらっていいですか?」


 ティフォーネは唐突(とうとつ)な講師の提案に目を丸くしたが、コクリと小さく(うなず)いた。

 彼はホッと肩をなで下ろすと、若者たちに向き直る。


「それでは、彼女の権風精(アルケー)アルキュオネの実力を、少しだけ見せてもらいましょう。ではお願いします」

「アルちゃん、お願いね」


 ティフォーネがアルちゃんに言葉をかけた瞬間───


 ドカンッ!


 ───キャー! キャー!


 太い木材が(こわ)れるようなもの(すご)い音がして、何人かの女の子から悲鳴(ひめい)が上がった。

 (あわ)てて講師が振り返ると、案山子(かかし)の1体が粉々に(くだ)けている。

 そしてティフォーネのアルキュオネが、どこかに飛び去って行く姿があった。

 全員の視線が、ティフォーネへと集中する。


 この場にいる全員に見られて、ティフォーネは小さくため息をついた。


「すみません。ちょっと気難(きむずか)しい子なんです」


 皆なんと言っていいのか分からず、しばらくの間、風の音だけが広場に聞こえていた。

 すると、先ほどティフォーネの精霊を見たいと言った女の子が、顔を真っ赤にして立ち上がった。


「ちょっと、ティフォーネさん。目立ちたいからって、ちょっと乱暴(らんぼう)なんじゃない?」

「ホントホント。契約精霊と人間はよく()るって言うけど、乱暴な所はそっくり」


 多くのクラスメイトが(まゆ)(ひそ)めているのを知らずに、二人はティフォーネのことを嘲笑(あざわら)っている。

 そんな彼女たちに、ティフォーネは1歩だけ近づいた。


「あなたたちは、なぜ冒険者になろうと思ったの? 契約精霊がいない人を(おとし)めたり、異性(いせい)と仲良くなるため?」


 「ち、違うッ!」と顔を真っ赤にして否定(ひてい)する女の子たち。そして、彼女たちはギョッと驚いた。

 ティフォーネの表情が、まるで固く冷たい()みを浮かべる美しい人形のように見えるからだ。


「他人のことを気にするよりも、まずは自分自身を成長させなさい。そして、契約精霊をより上位(じょうい)の存在に昇華(しょうか)させるのです。そうすれば、この人間界は精霊界の魔力(まりょく)()ちあふれ、精霊の住まう国への道が(ひら)かれるでしょう」


 誰もがティフォーネから目が離せないでいる。

 彼女の言葉は、始祖精霊様(しそせいれいさま)御託宣(ごたくせん)を得る巫女(みこ)の言葉のように、彼らの心にズンズンと(ひび)いていた。

 そして、ティフォーネの表情が年相応(としそうおう)の笑顔に戻る。


「なんてね! 精霊教会の教えを格好良(かっこうよ)く言ってみました。皆さん、顔が固まってますよ。おーい!」

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第56話 冒険者登録の実技訓練①「剣の稽古と弟子入り志願」


※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※毎日投稿していますので、ブックマークすると便利です

※活動報告もチェックしてもらえると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ