第54話 冒険者登録の講義④「次元の違う魔法使い」
講師は教科書をさっとと片づけると、教室を出ていく。
「……あれ。ティフォーネさん、大丈夫? ちょっと顔色が悪いよ」
「そ、そうですか。私は何ともないですよ」
ティフォーネはぎこちない笑顔で、心配してくれた隣の女の子にそう返答するのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ティフォーネがいる黄色のクラスは、次の講義で冒険者協会の基礎知識を学んだ後、昼休みをはさんで中庭の広場に移動した。
この広場は、昨日ガリオがルシア隊長と剣を競った場所である。
「これから風属性の精霊魔法の講義を始めます」
若者たちは広場の中央に集められ、二人の男性の講師を半円形になって囲んでいる。
遠くのほうには、ボロボロの鎧を着せられた案山子が4体並んでいるのが見えた。
「私たち人間が使える精霊魔法は、契約している精霊によって種類が異なりますが、今日教える風属性の精霊魔法は、風の精霊と契約している人なら誰でも使えるものです」
講師は、少し離れた場所にいるもう一人の男性講師に合図を送った。
すると、もう一人の講師がブツブツと呪文を唱え始める。そして───
「風魔法『風撃』」
バガンッ!
彼が右手を向けると、案山子の1体の頭部が見えない何かが当たったように揺れて、大きな音がした。
若者たちから「おーッ」と感心する声が上がる。
「まず皆さんには、この風魔法『風撃』を覚えてもらいます。この精霊魔法は、最も代表的な攻撃魔法で、空気の塊を作り出して相手にぶつけるものです。この魔法の特徴は、その空気の塊が目に見えないことにあります。そして、空気の塊の大きさや硬さを変えたり、その数を増やすことで、威力をより高めることができます」
そして再度、講師がもう一人に合図を送る。
今度は呪文を唱える時間が、先ほどより少し長くかかったようだ。
「風魔法『風撃』」
バガガンッ!
講師が再び呪文を唱えると、空気の塊が当たった案山子の頭と左手が弾かれたように揺れたのだった。
目の前にいる講師が、満足そうに頷いている。
「精霊と契約している皆さんは感じ取っていると思いますが、私たちの体の周りを、目に見えない魔力が覆っていますよね。そしてその魔力は、ある程度自分の想像どおりに動かすことができます。皆さんは、それで空気の塊を作るイメージをしてください」
肩の高さまで上げた講師の右手の手の平を上には、一見何も無いように思えるが、向こう側の景色が少しだけ歪んで見える丸い空気の塊があった。
彼がサッと手を振ると、その塊はすぐに消えてしまう。
「まず皆さんには、2人ずつペアになってもらって、この空気の塊が上手く出来るかどうか、お互いに見せ合ってください」
若者たちの間に、ピリッとした緊張感が走る。
自分が誰とペアを組むのか、隣同士で顔を見合わせて相手を探す者が多かった。
そんな中、ティフォーネもきょろきょろと周りを見回している。
「ティフォーネちゃん、こっちこっち」
彼女が声のするほうを見ると、4人の女の子たちが手招きしていた。そのうちの二人は、ティフォーネが朝から一緒にいる子たちである。
女の子たちはティフォーネより1つ年上だったので、「ティフォーネちゃん」と呼んでいた。
「ティフォーネちゃん。私たち4人だけど、一緒にやろう?」
「ありがとう」
5人は他のメンバーたちから少し離れた場所に移動し、円になって地面に腰を下ろした。
そして、楽しくおしゃべりしながら、それぞれ課題に挑戦する。そんな中───
「わー。ティフォーネちゃん、もう出来たの? すごいね!」
「ホントだ! ねえねえ、教えて教えて!」
一番最初に課題をクリアしたのは、ティフォーネだった。彼女の手の平の上には、歪みがハッキリと見えるほどの空気の塊が出来ている。
周りの女の子たちは、楽しそうに彼女から魔力を操作するコツなどを聞いていた。
すると、彼女たちの頭上から青年の声が聞こえてきた。
「良かったら、僕たちが教えてあげようか?」
彼女たちが顔を上げると、爽やかな笑みを浮かべる二人の青年がそこに立っていた。
彼らは、このクラスの中でもルックスの良い二人だった。ティフォーネと一緒にいる女の子たちが、にわかに色めき立つ。
その光景を、他の女の子たちが恨めしそうに見ていた。
「私は大丈夫。だから、他の人を見てもらっていいですか?」
ティフォーネは「ほら」と言って、一瞬で空気の塊を作ってみせる。
それを見た青年たちの表情が、驚愕の色に染まった。
「えッ! 無詠唱ッ!」
「マジかよッ!」
「ティフォーネちゃん、凄いッ! 天才じゃないのッ!」
自分たちを圧倒的に上回るティフォーネの魔法の技量に、青年たちは苦笑している。そして、お互い顔を見合わせて肩を落とすと、大人しく他の4人の女の子たちの面倒を見始めた。
他の4人は、内心ティフォーネに感謝しているのだった。
大体の若者が課題をクリアしたのを見計らって、講師の一人が全員に声をかけた。
「それでは2人ずつ前に出てもらって、向こうの案山子を風魔法『風撃』で攻撃してもらいます」
いよいよ、風魔法『風撃』を人前で実践する若者たちの多くは、緊張で表情が固くなっている。
講師は「オホンッ」と咳払いをすると、若者たちを自分の目の前に集めて、地面に座らせた。
「精霊魔法を使うための呪文に、決まった形はありません。上級者にもなると、無詠唱で魔法を使う人もいるくらいですからね。皆さんは、魔力の形や大きさなどをイメージして、自分なりの言葉でそれを口に出してみてください」
講師がお手本として、呪文をゆっくりと唱える。すると、彼の目の前に空気の塊が形を成してきた。
若者たちは、手元のノートに講師の呪文を必死に書き留めている。
そして講師は、最後に風魔法『風撃』を案山子に放ち、パンパンと手を叩いた。
「まずはゆっくりでいいので、やってみましょう」
若者たちは順番に二人の講師の隣に立ち、次々に案山子に向かって風魔法『風撃』を放った。
成功しなかった若者には、講師がどの工程で悪い所があったのかを指導していく。
「次の2人。前に出て」
「はい」
いよいよ、ティフォーネの順番になった。彼女は立ち上がると、おしりについた砂をパッパッと手で払う。
しなやかな腕と短いスカートから伸びる健康的な足を見て、男の子たちは鼻の下を伸ばしていた。
若者たちから少し離れて、広場の中央に凛々しく立つティフォーネ。
風になびく長い銀髪と白いマントを纏う彼女は、一枚の美しい絵画のようだった。
「では、やってみたまえ」
「はい」
隣でゆっくりと呪文の唱えるもう一人の若者をよそに、ティフォーネは無詠唱でいきなり風魔法『風撃』を放った。
ドンッ───バキッ!
大きな音を立てて、木製の案山子の右腕が折れて吹き飛ぶ。
その場にいた講師二人と黄色のクラスの全員が、呆然とした表情で目の前の美少女を見ていた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第55話 冒険者登録の講義⑤「アルちゃんと精霊教会の教義」
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