第52話 冒険者登録の講義②「精霊教会の儀式の秘密」
ティフォーネは少し体を横にズラすと、二人が座れるスペースを空ける。
簡単に自己紹介をした彼女たちは、何気ない会話を楽しんでいた。
その時、ティフォーネたちの後ろにいた男の子たちのグループから、金髪の青年の話題が聞こえてきた。
「───俺、昨日ちらっと聞いちゃったんだよね。金髪のあいつ、呪われてるんだってよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
『呪い』という言葉は、さざ波のように若者たちの中にあっと言う間に広がっていった。
皆の金髪の青年を見る目が、一層蔑んだようなものに変わる。
「昨日あいつと一緒にいた女の子たちが、本人から聞いたんだって。『僕は呪いの精霊に憑りつかれてる』って」
「ええー……本当にいるんだぁ、呪われてる人」
「ねー」
これまでと打って変わって、急に静まっていく体育館。
しかしそれは、声の大きさが小さくなっただけで、コソコソと内緒話をする若者たちの姿は変わっていなかった。
そして、皆から見られているのを知ってか知らでか、金髪のイケメンの青年は口をかたく結んで、キッと鋭い目付きで壇上のほうを見ている。
白色のクラスのメンバーは、そんな彼に誰も話しかけようとしなかった。
「皆さん! 自分の列にまっすぐ並んで、静かにしてください! これから始講式を開会します!」
壇上に上がった男性スタッフの大声が、体育館の中に響き渡った。
雑談をしていた若者たちが、バタバタと慌てて動き出すと、それぞれのクラスごとに整列して口を閉じる。
若者たちが静かになったのを確認すると、体育館の横のドアが開き、ハリー支部長を先頭に講師と思われる人たちがゾロゾロと入ってきた。しかし───
「あれ? ガリオ様とルシア隊長がいない……」
その講師たちの中に、ルシア隊長やジョシュア、そしてガリオの姿は無かった。
ティフォーネは首を傾げるものの、彼ら3人のことを心に留めながら、そのまま始講式を見守り続ける。
そして、始講式が終盤に差し掛かった時だった。
「それでは、最後に講師陣の皆さんを紹介します」
バタンッ!
急に入口のドアが勢いよく開き、体育館に大きな音が響いた。居眠りしていた若者たちが、ビクッと全身を震わせて飛び起きる。
そこにいたのは、王国軍の鎧を着込んだルシア隊長だった。そして───
───ねえ、あれ……
───あの人たち、昨日広場にいなかった?
皆が注目しているのは、ルシア隊長に付き従うジョシュアとガリオだった。
だが、二人はなぜか執事の服装をしていて、恥ずかしそうに隊長の後ろをついてきている。
ルシア隊長は、若者たちから注目されていることに、何故か嬉しそうにニコニコ笑っていた。
「……ガリオ様?」
さすがのティフォーネも、ガリオが執事になって登場するとは想像していなかったので、びっくりして目を丸くしている。
壇上に並んだガリオは、若者たちの中に呆然としているティフォーネを見つけると、サッと目を逸らした。
「ティフォーネさん……昨日広場で、あの執事の人たちと一緒にいたよね?」
前にいた女の子が、上半身だけ後ろを振り向いてティフォーネに話しかけてきた。昨日の広場での出来事を、どこかで見ていたのだろう。
ティフォーネはニッコリ微笑んで、コクリと頷いた。
「あの背が高いほうの執事の人は、私をオルソの街まで護衛してくれた冒険者なの。ガリオ様っていうんだよ」
「えーッ。ティフォーネさんすごいね。執事の護衛がついてるなんて、貴族のお嬢様みたい」
「違う違う。ガリオ様は護衛してくれるけど、執事じゃなくて───」
キラキラと目を輝かせて詰め寄ってくるその子を押し留めつつ、ティフォーネは苦笑しながら詳しい事情を説明する。
そうこうしているうちに、講師全員の紹介が終わってしまった。
ガリオの紹介を聞きそびれてしまったティフォーネは、話しかけてきた女の子に「ムーッ」と恨めしい視線を送るものの、その子が「ごめんごめん」と頭を下げるのを見て、笑って許したのだった。
「以上で、始講式を閉会します! 皆さんは、それぞれの教室に移動してください!」
体育館にいた若者たちは、それぞれの色のクラスごとに決められた教室に移動を開始した。
これから彼らは、この6日間で冒険者として必要な知識や技術を学んでいくのである。
ティフォーネがいる黄色のクラスは、まずは精霊に関する知識を学ぶ講義となっていた。
「───であるからして、精霊は火・土・水・風の4属性ごとに、9つの位階に区分されています。最高位は四大精霊であり、我が国のケイル王子の契約精霊は、このうちの風の四大精霊ジャンナであることは、皆さんご存知ですよね」
講師が黒板にイラストと文字を書きながら、説明を進める。それを若者たちは、真剣な面持ちで聞いていた。
彼らは冒険者登録のために、金貨1枚という大金を支払っている上、おしゃべりなどとして講義の邪魔をすると、講師から退室を命じられて冒険者になれないからである。
「何か質問ありますか?」
「───はい。僕たちは普通、精霊教会の司祭様に儀式をしていただいて、精霊と契約しますよね。その時は大体第8位の大精霊か第9位の小精霊としか契約できないって聞いてます。ケイル王子は、どうやって風の四大精霊ジャンナと契約出来たんですか?」
一人の青年が手を挙げて質問をする。
講師は古くなった黒板の記述を消して、新たな絵と文字を書き始めた。
「良い質問ですね。精霊と契約する儀式は、精霊教会の秘中の秘となっていて、詳細は司祭クラスにならないと分かりません。しかし、その原理は分かっています」
講師は、精霊界の9つの位階を示す大きなピラミッドの横に、小さな人間の絵を描き加える。
そして、その人間から真っ直ぐな線を2本伸ばした。1本はピラミッドの頂点に、もう1本は最下層の部分に届いている。
「この2本の線は、私たちの魔力回路です。簡単に言うと、精霊教会の司祭の儀式というのは、この線を精霊界のピラミッドまで伸ばすことなんです」
「───先生の言うとおりなら、精霊教会は、四大精霊まで魔力回路を伸ばす方法を知っている、ということなんですね」
頷く講師を見て、教室内がザワザワと急に騒がしくなった。若者たちが隣同士で、その事実を確認し合っている。
しばらく若者たちを見守っていた講師は、「ゴホンッ」と咳ばらいをして教室内を静かにさせた。
「恐らくそのとおりでしょう。もちろん、四大精霊と契約を結ぶには、この人間の魔力回路がそれに耐えうる強度を持っていることが最低条件になります。ケイル王子は、生まれつきその条件をクリアしていたのでしょうね」
静まり返る教室内の雰囲気に講師は満足すると、再び黒板に向き合った。
そして、2本の魔力回路をチョークでコンコン叩く。
「私たちの魔力回路は、個人差はあるものの、契約精霊をずっと召喚したままにしたりすると、大きく消耗してしまいますので、皆さん十分に注意しましょう」
そう言って講師は2本の線の真ん中を、黒板消しで一気に消してしまう。
若者たちは、自分の見えない魔力回路も消されたような感覚になり、ヒヤッと一瞬寒くなるのだった。
「その他に、何か質問はありますか?」
講師からの新たな問いかけに、今度は一人の女の子が手を挙げた。
「───呪いの精霊に憑りつかれると、自分で精霊を召喚できないって本当ですか?」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第53話 冒険者登録の講義③「呪いの精霊と連続自死事件」
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