第51話 冒険者登録の講義①「孤立したティフォーネ」
「……私はガリオさんのためなら、何でもしますからね」
そう言ってカルマは、ガリオの頬にチュッとキスをした。
「お、おやすみなさいッ!」
顔を真っ赤にしたカルマは、二人に頭を下げてお店の中に戻っていく。
あとには、左頬に手を当てて呆然と立ち尽くすガリオと、目を大きく開けて口元を両手で隠すティフォーネが残されていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、ティフォーネは冒険者協会の中にある体育館にいた。
周りには、彼女と同じように冒険者になりたい若者たちが大勢いて、それぞれ色分けされたクラスメイト同士で、少し緊張した様子で談笑している。
ティフォーネも同じクラスになった二人の女の子たちと雑談しながら、ガリオと協会に来てからのことを思い出していた。
早朝に二人が協会のロビーを訪れると、昨日まで無かった臨時の受付窓口が設置されていた。
そこにはすでに何人かの若者が、列を作って順番を待っている。
ティフォーネもその窓口で自分の名前を伝えると、薄っぺらい教本1冊と黄色の簡素なリボンが手渡された。
「受付を済ませた人は、体育館でリボンの色ごとの列に並んで、そのまま待機してください。渡したリボンは、服の目立つ所に付けておくように」
受付スタッフの説明を聞いたティフォーネは、クエスト掲示板の前で待つガリオの所に戻った。
彼の硬くなった表情から、いつになく緊張している雰囲気が伝わってくる。
「ガリオ様。私はこれから体育館に行ってきますけど、ガリオ様も今日はずっと協会の中にいるんですよね?」
「あ、ああ、多分ね。ルシア隊長たちと一緒にいないといけないからな」
恩人であるジョンの頼みで剣術の講師を引き受けたものの、ガリオは100人を超えるという新人たちの前に立つというプレッシャーに、押し潰されそうになっていた。
これまで見たことのないギクシャクしたガリオの姿に、ティフォーネはクスッと微笑んだ。
「じゃあ、ガリオ様。お仕事頑張ってくださいね」
「て、ティフォーネも、頑張るんだぞ」
ガリオと別れたティフォーネは、ひとり体育館に向かう。その足取りは堂々としていて、少しの迷いもなかった。
すると彼女は、心臓の鼓動がドキドキと高鳴っているのを感じ、右手を自分の左胸にそっと当てる。
これから冒険者になった後、どんな未来が待っているのか、想像するだけで楽しかった。
自然と笑みがこぼれているティフォーネを見て、こっそりと彼女のことを見ていた周りの若者たちは、ボーッと見惚れて顔を赤くするのだった。
ティフォーネが体育館に入ると、すでに多くの若者たちがリボンの色ごとのクラスに別れて座っていた。
そして、入口に立つ彼女の姿を見て、若者たちの中にどよめきが起こる。
───お、おい、見ろよッ! すげー可愛いじゃん!
───ねえねえ、めちゃめちゃ綺麗な子が来たよ!
───ちぇー、黄色かよ。俺の精霊も風属性なら良かったのに!
サラサラと流れる長い銀色の髪、印象的な紅い瞳、可憐な花のように愛らしい顔。
貴族たちの舞踏会にでも行かなければ出会えないような美少女の出現に、若者たちの胸は高まった。
ティフォーネは自分と同じ黄色のリボンを付けた若者の列を見つけると、ゆっくり歩き出した。
一方の黄色のクラスの若者たちは、どんどん近づいてくる彼女から目が離せないでいる。
そして、ティフォーネは黄色の列の最後尾に到着すると、目の前に座っている青年にニッコリと笑顔を向けた。
「ここ、黄色だよね。よろしくね」
「は、ひゃいッ! よろしくお願いしましゅ!」
顔を真っ赤にした青年は、緊張のあまりハッキリとしゃべることが出来なかった。
すると、彼の挨拶を皮切りに、近くにいた他のクラスの若者たちまで加わって、ティフォーネを中心に大きな人の輪ができた。
「ねえねえ、名前はなんて言うの? どっから来たの?」
「あなた、すっごく綺麗ねッ! もしかして貴族の御令嬢?」
「良かったらお友達にならない?」
彼らは目を輝かせて、ティフォーネとお近づきになろうと積極的に話しかけている。
また、他の色のクラスの若者の中には、彼女と同じ黄色のクラスに替われないか、スタッフに交渉する者まで現れていた。
しばらく時間が経つと、体育館の中は冒険者登録に来た人たちで一杯になってきた。
ティフォーネの周りには相変わらず若者が集まっているが、体育館全体が騒がしくなっているので、彼女も大分目立たなくなっている。すると───
───キャーキャーッ!
───だれだれだれッ!
───やばいかっこいい人きたあッ!
体育館の入口に近い後方の女の子たちから、甲高い嬌声が上がった。
その声に、皆が入口のほうに注目すると、昨日ティフォーネたちが見かけた金髪のイケメンの青年が立っていた。
その青年を初めて見た女の子たちは、その青年の美貌にうっとりしている。しかし、それも長くは続かなかった。
彼のジャケットの胸には、契約精霊がいないことを示す白色のリボンが付けられていたからだ。
───見て、あの人のリボンの色……
───白色のリボン……
───うそッ! マジ最悪ぅー……
若者たちは徐々に声のトーンを落とし始め、金髪の青年のほうをチラチラと横目で見ている。
体育館中に広がる空気の悪い雰囲気を感じ取った彼は、唇を少し噛むと、白色のクラスに向かって歩き始めた。
彼の向かう白色のクラスは、他のクラスよりも圧倒的に人数が少なく、すでに5人の若者が並んでいたが、皆一様に顔を赤くして俯いている。
「ねえ、ティフォーネさん。あの人どうして契約精霊がいないのかしらね」
ティフォーネの隣にいた女の子が眉を顰めて話しかけてきたが、彼女は微笑みを絶やさずに頭を少しだけ傾ける。
「さあ、どうしてでしょうね。あの人に契約精霊がいないことが、そんなに不思議?」
「えッ。でも普通いるわよね。いない人のほうが少なくない?」
「確かに契約精霊がいない人のほうが少ないよね。でもそれが、今のあなたと何か関係あるかな」
「そ、それはないけど……」
ティフォーネの予想外の反応に、女の子はばつの悪い顔をして、他の子と話し始める。
遠巻きに二人の会話を聞いていた若者たちも、ティフォーネの反応を気にして、少し慎重な目で彼女を見るようになっていた。
人ごみの中で、急にぽつんと一人取り残されてしまったかのようなティフォーネ。
すると、大人しそうな雰囲気をした二人の女の子が、恐る恐る彼女に近寄ってきた。
「て、ティフォーネさん。隣、いいですか?」
「白色のクラスの一人が、私たちの友達なんです。あの子、魔力回路がもう使えなくなっちゃって……」
「それは大変だね。ここ空いてるから、座っても大丈夫だよ」
ティフォーネは少し体を横にズラすと、二人が座れるスペースを空ける。
簡単に自己紹介をした彼女たちは、何気ない会話を楽しんでいた。
その時、ティフォーネたちの後ろにいた男の子たちのグループから、金髪の青年の話題が聞こえてきた。
「───俺、昨日ちらっと聞いちゃったんだよね。金髪のあいつ、呪われてるんだってよ」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第52話 冒険者登録の講義②「精霊教会の儀式の秘密」
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