第45話 城塞都市オルソ⑥「テストの終わりとハリー支部長」
そして、至近距離からの突き。だがガリオも体をくるりと回転させることで、ルシア隊長の突きをギリギリで躱した。
さらにガリオは、回転した勢いを利用して、ルシア隊長に向かって木剣を横から大きく薙ぎ払った。
「はははッ!」
ルシア隊長が初めて、声を上げて笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオの重い剣撃を、ルシア隊長は滑らせるように木剣で受け流し、その勢いでガリオから距離を取った。
低い姿勢で構えているルシア隊長を油断なく見据えつつ、ガリオは剣の師匠の言葉を思い出していた。
『目で見ようとするから見えねえんだよ、馬鹿たれ。おめえの頭の中は、スケルトンみたいに空っぽなのか?』
打ち込まれる剣が早すぎて全く防ぐことが出来ないガリオに、ヤギュウ師匠が彼の頭をコツンと拳で小突く。
ため息をついた師匠が取り出したのは、1本の鉢巻きだった。
『音、匂い、振動、そして魔力。世界にゃ、こんだけ相手を知る方法があんだよ。おめえはまず、そっから始めなきゃなんねえな』
ガリオは当時味わった恐怖の修行の体験を思い出し、ブルッと震えが走る。
最初はルシア隊長の神速について行けなかったガリオだったが、ヤギュウ師匠の修行の成果が徐々に出始めてくると、彼は反撃するチャンスを的確に捉えつつあった。
「ガリオ様、すごいッ! がんばれー!」
先ほどまで防戦一方だったガリオが反撃に転じたのを見て、ティフォーネのハラハラした緊張感はどこかに行ってしまった。
今では大きく右手を振って、明るい声でガリオに声援を送っている。
彼女の隣にいるジョシュアは、目の前の光景が信じられずに、何度もその目をこすっていた。
カンッカンッカンッカンッ───
次第に二人の木剣が交わる音が、広場に聞こえてくるようになった。
ルシア隊長の強烈な突きを、ガリオが必死にさばいている。
───す、すげー!
───動きが早すぎて見えない!
いつの間にか広場は、大勢の見物人で埋まっていた。その多くが、冒険者登録に来た若者たちだ。
ルシア隊長の目にも止まらない突き技、ガリオのカウンター中心の斬り技。
二人の剣士による激しい剣撃の応酬を、若者たちは興奮した様子で見守っていた。
「……あの兵士の剣術、すごい」
金髪のイケメンの青年が、ルシア隊長の動きに目を奪われていた。
彼は冒険者協会の2階の廊下の窓から、広場の光景をジッと見つめている。
「私もあんな風に強くなりたい……」
彼は悔しそうに小さな唇を噛むと、窓についたその手でギュッと拳を握る。
その周囲に、彼にまとわりついていた女の子たちの姿は無かった。
「ヌンッ!」
ルシア隊長の突きを右に受け流したガリオは、今度は逆に彼が突きを放とうとする。
しかしルシア隊長は、素早く右半身を後ろに半回転させてその突きを躱すと、膝を落として左手の拳を固める。
「こんな所でガリオ君みたいな剣士に出会えるなんて、今日はついてますねッ!」
「がはッ!」
ガリオの脇腹に、ルシア隊長の左手の拳が突き刺さった。
苦痛に顔が歪むガリオだったが、歯を食いしばって木剣を振り下ろす。
「うおおおッ!」
「はははッ!」
ルシア隊長は右手の木剣でそれを受け流し、後方に跳ぶ。
そして再び、左手をガリオに向けて、木剣を引き絞る体勢をとった。
「そろそろ次のステップに行きましょうか。ガリオ君も飽きてきたでしょう? 精霊魔法『身体強化』!」
すると、彼の体が青い光に包まれた。
それを見ていたジョシュアが、ハーッと深いため息を吐くと、ポツリとつぶやいた。
「……隊長、任務のことすっかり忘れてるな」
一方のガリオも、ため息をつきたい気持ちで一杯だった。
だがそんな訳にもいかず、彼は意識を集中して、ブツブツと呪文を唱え始める。
ルシア隊長は、契約精霊がいないと言っていたガリオが何をするのか、ワクワクしながら見守っていた。
「白魔法『身体強化』」
呪文を唱えた『身体強化』をかけたことで、ガリオの体が更に強化される。
ルシア隊長の細い目がうっすらと開いて、口元に浮かぶ笑みがより大きくなった。
「凄いじゃないですか! もっともっと楽しめそうですね!」
お互いに姿勢を低くして飛び込まんとしていた、ちょうどその時───
「これはなんの騒ぎだ?」
協会の建物から、貴族らしい服装をした男性が中庭に出てきた。後ろには、数人の協会のスタッフがついてきている。
彼はスタッフたちに目の前の人垣を左右に避けさせると、ボルド部長のところに歩み寄った。
「これはこれはハリー支部長」
「ボルド。ここで何をやっているのかね」
「はい。明日からの冒険者登録で雇おうと思っている剣士のスタッフの腕前を、ここでテストしております。しかし───」
そう言ってボルド部長は、残念そうに首を横に振る。
「その剣士の冒険者レベルがたったの2だったので、本当に雇っていいものか、ちゃんと確かめるべきだと思った次第で」
「ふむふむ、ボルドの言うとおりだ。そんな低レベルの冒険者に高いお金を支払う必要はないぞ」
ハリー支部長は、頭を下げるボルド部長から広場にいる二人に目を向ける。
彼の目の前では、ガリオとルシア隊長が剣を低く構えているところだった。
「……おいボルド。今そこにおられるのは、第1軍団のルシア隊長殿ではないか?」
「はい、おっしゃるとおりです。ルシア隊長に低レベル冒険者のテストをやってもらってます」
「はああああああ?」
ボルド部長の返事を聞いたハリー支部長の顔は、一瞬で真っ青になった。
そして、彼は両目を大きく見開くと、非常に慌てた様子でボルド部長に詰め寄る。
「大馬鹿者ッ! 今すぐ止めさせるのだッ! ルシア隊長殿が怪我でもしたらどうする気だッ!」
「えッ? ですが───」
ハリー支部長の態度がいきなり豹変したことに、呆気にとられるボルド部長。
そんな彼の首を、ハリー支部長が両手で掴んで、ガクガクと激しく揺す。その目は、余りの恐怖に血走っていた。
「は、早くッ! 早く止めるんだ、ボルドッ! じゃないと首だぞッ!」
「は、はい! 分かりましたッ! お、おいッ! 二人を止めろッ!」
訳が分からずボルド部長は、近くにいたスタッフにガリオのテストを止めるように命じた。
一人の男性スタッフが、ガリオたちに駆け寄り、両手を振って大声で叫ぶ。
「ストップ、ストオオオオオオップッ! テストは終わりですッ!」
スタッフの声を聞いたガリオとルシア隊長の動きが、ピタリと止まった。
ガリオのほうは汗が滝のように流れて息も荒いが、一方のルシア隊長は汗一つかいておらず、疲れている様子が全く見られない。
「……今もの凄く楽しいところだったのに、どうして止めるんですか?」
「あ、う……」
構えを解いたルシア隊長から殺気のこもった視線を向けられ、テストを止めに入ったスタッフは震えあがった。
その足はガクガク震えて、まともに声も出ない。
「ローグライト卿! お怪我はありませんかッ!」
そこに青ざめた表情をしたハリー支部長が、ガリオたちのもとにバタバタと駆け寄ってきた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第46話 城塞都市オルソ⑦「ルシア隊長の正体とご褒美」
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