表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/125

第45話 城塞都市オルソ⑥「テストの終わりとハリー支部長」

 そして、至近距離からの突き。だがガリオも体をくるりと回転させることで、ルシア隊長の突きをギリギリで(かわ)した。


 さらにガリオは、回転した勢いを利用して、ルシア隊長に向かって木剣を横から大きく()ぎ払った。


「はははッ!」


 ルシア隊長が初めて、声を上げて笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガリオの重い剣撃(けんげき)を、ルシア隊長は(すべ)らせるように木剣(ぼっけん)で受け流し、その勢いでガリオから距離を取った。


 低い姿勢で(かま)えているルシア隊長を油断なく見据(みす)えつつ、ガリオは剣の師匠(ししょう)の言葉を思い出していた。


『目で見ようとするから見えねえんだよ、馬鹿(ばか)たれ。おめえの頭の中は、スケルトンみたいに空っぽなのか?』


 打ち込まれる剣が早すぎて全く防ぐことが出来ないガリオに、ヤギュウ師匠(ししょう)が彼の頭をコツンと(こぶし)小突(こづ)く。

 ため息をついた師匠が取り出したのは、1本の鉢巻(はちま)きだった。


『音、匂い、振動(しんどう)、そして魔力。世界にゃ、こんだけ相手を知る方法があんだよ。おめえはまず、そっから始めなきゃなんねえな』


 ガリオは当時味わった恐怖(きょうふ)修行(しゅぎょう)の体験を思い出し、ブルッと震えが走る。

 最初はルシア隊長の神速(しんそく)について行けなかったガリオだったが、ヤギュウ師匠の修行の成果(せいか)徐々(じょじょ)に出始めてくると、彼は反撃(はんげき)するチャンスを的確に(とら)えつつあった。


「ガリオ様、すごいッ! がんばれー!」


 先ほどまで防戦一方(ぼうせんいっぽう)だったガリオが反撃に転じたのを見て、ティフォーネのハラハラした緊張感(きんちょうかん)はどこかに行ってしまった。

 今では大きく右手を振って、明るい声でガリオに声援(せいえん)を送っている。

 彼女の隣にいるジョシュアは、目の前の光景が信じられずに、何度もその目をこすっていた。


 カンッカンッカンッカンッ───


 次第に二人の木剣(ぼっけん)(まじ)わる音が、広場に聞こえてくるようになった。

 ルシア隊長の強烈(きょうれつ)な突きを、ガリオが必死にさばいている。


 ───す、すげー!

 ───動きが早すぎて見えない!


 いつの間にか広場は、大勢(おおぜい)の見物人で()まっていた。その多くが、冒険者登録に来た若者たちだ。

 ルシア隊長の目にも止まらない突き技、ガリオのカウンター中心の斬り技。

 二人の剣士による激しい剣撃(けんげき)応酬(おうしゅう)を、若者たちは興奮した様子で見守っていた。


「……あの兵士の剣術、すごい」


 金髪のイケメンの青年が、ルシア隊長の動きに目を(うば)われていた。

 彼は冒険者協会の2階の廊下(ろうか)の窓から、広場の光景をジッと見つめている。


「私もあんな風に強くなりたい……」


 彼は(くや)しそうに小さな唇を()むと、窓についたその手でギュッと(こぶし)を握る。

 その周囲に、彼にまとわりついていた女の子たちの姿は無かった。


「ヌンッ!」


 ルシア隊長の突きを右に受け流したガリオは、今度は逆に彼が突きを放とうとする。

 しかしルシア隊長は、素早く右半身を後ろに半回転させてその突きを(かわ)すと、(ひざ)を落として左手の拳を固める。


「こんな所でガリオ君みたいな剣士に出会えるなんて、今日はついてますねッ!」

「がはッ!」


 ガリオの脇腹(わきばら)に、ルシア隊長の左手の(こぶし)が突き刺さった。

 苦痛に顔が(ゆが)むガリオだったが、歯を食いしばって木剣を振り下ろす。


「うおおおッ!」

「はははッ!」


 ルシア隊長は右手の木剣でそれを受け流し、後方に()ぶ。

 そして再び、左手をガリオに向けて、木剣を引き(しぼ)る体勢をとった。


「そろそろ次のステップに行きましょうか。ガリオ君も()きてきたでしょう? 精霊魔法(せいれいまほう)身体強化(フィジカルブースト)』!」


 すると、彼の体が青い光に包まれた。

 それを見ていたジョシュアが、ハーッと深いため息を吐くと、ポツリとつぶやいた。


「……隊長、任務(にんむ)のことすっかり忘れてるな」


 一方のガリオも、ため息をつきたい気持ちで一杯(いっぱい)だった。

 だがそんな(わけ)にもいかず、彼は意識を集中して、ブツブツと呪文(じゅもん)(とな)え始める。

 ルシア隊長は、契約精霊(けいやくせいれい)がいないと言っていたガリオが何をするのか、ワクワクしながら見守っていた。


白魔法(しろまほう)身体強化(フィジカルブースト)』」


 呪文を唱えた『身体強化(フィジカルブースト)』をかけたことで、ガリオの体が(さら)に強化される。

 ルシア隊長の細い目がうっすらと開いて、口元に浮かぶ()みがより大きくなった。


(すご)いじゃないですか! もっともっと楽しめそうですね!」


 お互いに姿勢を低くして飛び込まんとしていた、ちょうどその時───


「これはなんの騒ぎだ?」


 協会の建物から、貴族(きぞく)らしい服装をした男性が中庭に出てきた。後ろには、数人の協会のスタッフがついてきている。

 彼はスタッフたちに目の前の人垣を左右に()けさせると、ボルド部長のところに歩み寄った。


「これはこれはハリー支部長」

「ボルド。ここで何をやっているのかね」

「はい。明日からの冒険者登録で(やと)おうと思っている剣士のスタッフの腕前を、ここでテストしております。しかし───」


 そう言ってボルド部長は、残念そうに首を横に振る。


「その剣士の冒険者レベルがたったの2だったので、本当に雇っていいものか、ちゃんと確かめるべきだと思った次第(しだい)で」

「ふむふむ、ボルドの言うとおりだ。そんな低レベルの冒険者に高いお金を支払う必要はないぞ」


 ハリー支部長は、頭を下げるボルド部長から広場にいる二人に目を向ける。

 彼の目の前では、ガリオとルシア隊長が剣を低く(かま)えているところだった。


「……おいボルド。今そこにおられるのは、第1軍団のルシア隊長殿(どの)ではないか?」

「はい、おっしゃるとおりです。ルシア隊長に低レベル冒険者のテストをやってもらってます」

「はああああああ?」


 ボルド部長の返事を聞いたハリー支部長の顔は、一瞬で真っ青になった。

 そして、彼は両目を大きく見開くと、非常に(あわ)てた様子でボルド部長に()め寄る。


「大馬鹿者ッ! 今すぐ()めさせるのだッ! ルシア隊長殿が怪我(けが)でもしたらどうする気だッ!」

「えッ? ですが───」


 ハリー支部長の態度がいきなり豹変(ひょうへん)したことに、呆気(あっけ)にとられるボルド部長。

 そんな彼の首を、ハリー支部長が両手で(つか)んで、ガクガクと激しく(ゆら)す。その目は、(あま)りの恐怖に血走(ちばし)っていた。


「は、早くッ! 早く()めるんだ、ボルドッ! じゃないと首だぞッ!」

「は、はい! 分かりましたッ! お、おいッ! 二人を止めろッ!」


 (わけ)が分からずボルド部長は、近くにいたスタッフにガリオのテストを止めるように命じた。

 一人の男性スタッフが、ガリオたちに駆け寄り、両手を振って大声で(さけ)ぶ。


「ストップ、ストオオオオオオップッ! テストは終わりですッ!」


 スタッフの声を聞いたガリオとルシア隊長の動きが、ピタリと止まった。

 ガリオのほうは汗が(たき)のように流れて息も荒いが、一方のルシア隊長は汗一つかいておらず、疲れている様子が全く見られない。


「……今もの(すご)く楽しいところだったのに、どうして止めるんですか?」

「あ、う……」


 構えを()いたルシア隊長から殺気(さっき)のこもった視線を向けられ、テストを止めに入ったスタッフは(ふる)えあがった。

 その足はガクガク震えて、まともに声も出ない。


「ローグライト(きょう)! お怪我はありませんかッ!」


 そこに青ざめた表情をしたハリー支部長が、ガリオたちのもとにバタバタと()け寄ってきた。

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第46話 城塞都市オルソ⑦「ルシア隊長の正体とご褒美」


※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※毎日投稿していますので、ブックマークすると便利です

※活動報告もチェックしてもらえると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ