第41話 城塞都市オルソ②「金髪の王子様と錬金術師」
周りの女の子たちも同じ気持ちらしく、ガリオの答えをウズウズしながら待っている。
「あいにく、俺のレベルは低いんだ。冒険者レベル2だよ」
「えッ……」
ガリオの冒険者レベルを知った女の子たちは、彼のあまりのレベルの低さに、一様に絶句してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
信じられないものを見たかのような表情をする女の子たち。彼女たちはお互い顔を見合わせると、コソコソと内緒話を始めた。
そんな光景を白い目で見ていたティフォーネは、軽くため息をつくと、ガリオのほうに向き直る。
「冒険者登録の講義は明日の朝から始まるそうです。今日は受付で名簿に名前とか、契約精霊のことを書くだけでした」
「そうか。ティフォーネはこれからどうする?」
「えっと……ガリオ様のほうはどうするんですか?」
ティフォーネは、後ろのほうでコソコソと話している女の子たちから、一緒にオルソの街を観光しないかと誘われていたのだが、すでに乗り気ではなくなっていた。
一方のガリオのほうは、掲示板に張られたクエストの中に、いくつか興味を引いたクエストがあったものの、先に済ませておきたい用事があった。
「この街に知り合いの錬金術師がお店を出しててね。その人に売りたい物があるから、この後行ってみようと思っているんだ。ブングラスの町で売るよりも、いつも高値で引き取ってもらえるからね」
「私も行ってみたいです!」
サッと挙手するティフォーネに、ガリオは反対する理由もなかった。
冒険者を目指す彼女の、今後の勉強にもなるだろうと考えたからだ。
「じゃあ、皆さん。さようならッ!」
「え、ええ……」
「さ、さようなら……」
ティフォーネと一緒にいた女の子たちは、彼女がこの後の観光にも付き合ってくれると信じ切っていたため、オロオロと戸惑っていた。
彼女たちは、冒険者レベルが低いうえにすごく年上でパッとしないガリオに、ティフォーネのような美少女がなぜ護衛を依頼しているのか、まったく理解できなかった。
「……ティフォーネのほうは、彼女たちと一緒にいなくて良かったの?」
ガリオは、呆然とした表情でティフォーネのことを見送る、一緒にいた女の子たちのことが気になっていた。
その言葉を聞いたティフォーネは、一瞬キョトンとするが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「大丈夫ですよ。人のことを冒険者レベルで判断するような人たちとは、お友達にはなれません!」
胸を張って自信満々に断言するティフォーネ。
そんな15歳とは思えない彼女の言葉に、ガリオは心の中で感心していたのだった。
二人が協会の出入口に向かって歩いていると、その出入口近くにいる人たちが、にわかに騒ぎ始めた。
───わあ、素敵!
───ねえねえ! すごいカッコいいんだけど!
騒ぎの中心にいたのは、一人の青年だった。
後ろのほうで結ばれた長い金髪、細い眉にキリッとした碧眼、知性を感じさせる整った顔立ち。
羽織っているジャケットのデザインもお洒落で、傍目から見て上等な布を使っていることが分かった。
まるで、どこかの国の王子様が現れたかのようだった。
「ん? どうかしたのか、ティフォーネ」
「いえ……あの人……」
ロビーの中にいる多くの女性がその青年にボーッと見惚れている中、ティフォーネも足を止めてその青年のほうを見ていた。
しかし、その表情は真剣な面持ちで、他の女性のように浮かれている訳ではなさそうだった。
一方の女性たちの注目の的になっている青年のほうは、先ほどからキョロキョロと何かを探すようにロビーの中を見回している。
すると、さっきまでティフォーネと一緒にいた女の子たちが、素早い動きで青年に近づいていった。
「あ、あのー。どうかされたんですか?」
「お困りでしたら、わ、私たちに出来ることなら協力しますよ」
話しかけてくる女の子たちに、その青年はニコリと魅力的な微笑みを向ける。
その様子を遠目から見ていた他の女性たちは、青年と親しげに話す女の子たちに、激しい嫉妬の炎を燃やしていた。
「ありがとう。冒険者登録に来たんだけど、どこに行ったらいいのかな」
青年のセクシーなハスキーボイスに、女の子たちはすっかりメロメロになっていた。
彼女たちは一様に顔を真っ赤にして、受付の窓口のほうを指差す。
「偶然ッ! 私たちも登録に来たんですぅー」
「こっちですぅー! 私たちが案内しますね!」
女の子たちは青年の両脇に立つと、彼の腕を取って受付に案内し始めた。
青年のほうは苦笑しているものの、特に抵抗することもなく、彼女たちのやりたいようにさせていた。
青年と女の子たちがガリオの横を通り過ぎようとしたとき、何となしに周りを見ていた青年とガリオの目が合った。
「───えッ!」
青年はガリオを見てなぜか驚いた顔をして、急に立ち止まった。そして彼の綺麗な白い肌が、みるみるうちに赤く染まっていく。
すると青年の周りにいる女の子たちが、彼がティフォーネに見惚れていると思い込み、彼の視線を遮るように回り込んだ。
「どうしたんですか? 早くいきましょう!」
「そうそう。人が増えてきたから、早く列に並ばないとッ!」
「あ、ああ……」
青年は女の子たちに引きずられるように、ガリオたちから離れていった。
目の前で青年を見ていたティフォーネは、「ふーん」と一人で何かに納得したかのように頷いている。
「ティフォーネ、彼と知り合いなのか?」
「いいえ。あの人、ガリオ様のほうを見ていたみたいですけど」
「……いや、あんな青年を見るのは初めてだ」
ガリオは、何となくあの金髪と青色の瞳に見覚えがあるような気がしたが、あんなイケメンの青年は一度見たら忘れないはずなので、ティフォーネにそう答えたのだった。
冒険者協会を後にしたガリオとティフォーネは、街の中心部から離れるようにしばらく歩くと、用水路が流れる静かな街の一角に到着した。
「ここのお店だよ」
ガリオが立ち止まったのは、フラスコの絵が描かれた小さな看板のあるお店だった。
窓から見える店内は、薄暗くて人がいるかどうかも分からない。
しかしガリオは臆することなく、扉を開けて中に入っていった。
「こんにちはー」
カランカランと扉についたベルの音が、静かな店内に響く。中に足を踏み入れると、ムワッとした薬草の匂いが鼻についた。
店内には商品らしい商品はなく、受付のカウンターの上を除けば、木箱や大きな袋がいたるところに積み上げられており、あたかも荷物置き場のようになっている。
「ガリオか。よく来たな」
男性の声が聞こえたかと思うと、お店の奥から白衣を着た小柄な男性が出てきた。
しかし、その男性は疲れているのか、少しやつれて元気がなさそうに見える。
「ジョンさん、お久しぶりです。なんだか元気がありませんね。マリアさんはどうしたんですか?」
ガリオが心配そうに声をかける。前回この店を訪れたときは、彼は普通に元気そうにしていたからだ。
また、いつもなら彼の奥さんであるマリアが店番をしているのだが、今日はまだ姿を見せていない。
「今日は娘のカルマが、久しぶりに王都から帰って来ててね。今は二人で買い物に行ってるよ。ガリオ、その子は?」
「この子はブングラスの町から冒険者登録に来た、ティフォーネと言います。彼女から護衛の依頼を受けて、付き添ってきました」
「初めまして、ジョンさん。ティフォーネです」
「ああ。私は錬金術師のジョンだ。ガリオの父親とは、昔からの知り合いなんだ」
すると、ガリオの腰に下がった『虹切』を見たジョンが、急に何かを思い出したかのようにハッとした顔をした。
そして、彼はなぜか申し訳なさそうな様子で、話を切り出した。
「ガリオ、実はお前に相談があるんだ。冒険者協会で剣術担当の講師が不足しているらしくてな。急な話で申し訳ないが、やってみる気はないか?」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第42話 城塞都市オルソ③「ガリオのテストとルシア隊長」
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