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第40話 城塞都市オルソ①「魔石の指輪とガリオの不安」

 やがて間もなく、若者二人が無事に目を覚ましてから、一行はウート村への帰路(きろ)についた。


 ガリオと二人の少女たちは気付いていなかった。

 その身に『始祖精霊様(しそせいれいさま)奇跡(きせき)』とも言うべき、とんでもない加護(かご)が付与されていることに。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガリオたちの目的地である城塞都市(じょうさいとし)オルソは、川のそばの平野に広がった、西の王国屈指(くっし)の大都市である。

 その特徴(とくちょう)は、中央の小高い(おか)の上にあるお城を中心に、高い城壁(じょうへき)が何層も作られているところだ。

 

 大昔は、西からの魔物の進行を食い止める拠点(きょてん)として、この都市は多くの兵士や冒険者たちの犠牲(ぎせい)を払ってきた。

 だが今は西の地域も平定(へいてい)され、幾多(いくた)の城壁もその役割(やくわり)を失いつつある。


 ガリオとティフォーネがこの城塞都市に到着したのは、もうすぐ()()れる時間帯だった。そのため、この日はそのまま宿に入り、疲れた体をゆっくり(いや)した。

 翌朝、二人はガリオの部屋で朝食を取っていた。


「ティフォーネ、昨日は共同浴場に行かなくて良かったのか?」

「もう、ガリオ様。分かって言っているでしょ。しばらく共同浴場(きょうどうよくじょう)には行きませんから」


 宿場町(しゅくばまち)ピノトーで立ち寄った共同浴場では、ティフォーネは周りの女性たちから、美容(びよう)秘訣(ひけつ)やいつも食べる食事の内容などの質問攻めに()い、さすがの彼女も辟易(へきえき)したようだ。

 昨日ガリオたちが泊まった宿は、小さいながらもお風呂が付いたところだった。


「ガリオ様のほうこそ、昨日はウート村に()まらなくて良かったんですか? アリエルちゃんやクリスちゃんから、随分(ずいぶん)引き止められてたじゃないですか」


 ティフォーネにしては、珍しくガリオをからかうような表情をしていた。

 彼女が名前を出した二人は、昨日ウート村近くのダンジョンで一時(いちじ)行方不明(ゆくえふめい)になっていた、冒険者志望(しぼう)の少女たちのことである。

 本当だったら、今日は彼女たちもこの街で冒険者登録(ぼうけんしゃとうろく)をする予定だったが、大事(だいじ)を取って次回の機会(きかい)延期(えんき)すると言っていた。


 ガリオは、グッと言葉を()まらせると、少しばつの悪いような顔をして、右手で頭をポリポリとかいた。


「ダンジョンの中でのことは全く(おぼ)えてないから、彼女たちから感謝されてもピンと来ないんだ。村長から残りの報酬(ほうしゅう)をもらったけど、俺としては何だか悪い気がしたよ。それに───」


 そう言ってガリオは、左手の小指にはめてある漆黒(しっこく)魔石(ませき)が乗った指輪を見つめた。

 その指輪は、記憶(きおく)を失ったガリオがダンジョンの前で目を()ますまで、彼の知らない間に指にはめられていた物だった。

 昨日泊まった宿でガリオとティフォーネは、その指輪をなんとか(はず)そうと(こころ)みたが、結局失敗に終わっている。


「アリエルたちと話してると、何故(なぜ)かこの指輪がキリキリと()め付ける感触(かんしょく)があって、少し痛みを我慢(がまん)してたんだ。今は(なん)ともないけどね」


 ガリオはダンジョンの中でのことを必死(ひっし)に思い出そうとするが、記憶がスッポリ()け落ちており、何も思い出せなかった。

 すると、ティフォーネが心配そうに見つめているのに気付き、彼は気を取り直して、とりあえず昨日のことは忘れることにした。


「じゃあ、さっそく朝メシを食べようか。今日から協会で冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)があるから、ちゃんと食べないと体力が持たないぞ」

「はい! いただきます!」


 早めの朝食を済ませたガリオたちは、早速(さっそく)冒険者協会へ足を運んだ。

 オルソの街の冒険者協会は、ブングラスの町にあった協会より2倍以上も大きい立派な建物の中にあった。


 早朝にもかかわらず、協会のロビーには多くの人たちであふれている。

 普通の冒険者もいるが、新品の(よろい)やローブを着こんだ冒険者登録に来たと思われる若者たちの姿も、数多く見られた。


 ───冒険者登録の手続きに来られた人は、こちらに(なら)んでくださーい!


 協会のスタッフが手に看板(かんばん)を持って、窓口につづく列の最後尾(さいこうび)に若者たちを誘導(ゆうどう)していた。

 その列も、結構(けっこう)な長さになっている。


「ガリオ様、行ってきますね」

「ああ。俺はクエストの掲示板(けいじばん)のところで待ってるから」


 二人はそう言って別れると、ティフォーネは列の最後尾に、ガリオは多くのクエストが()られた掲示板のほうに、それぞれ向かっていった。

 掲示板の前には、大勢(おおぜい)の冒険者が()り紙を(なが)めていて、どのクエストを受けるか吟味(ぎんみ)している。

 クエストの張り紙は冒険者レベルごとに区分(くぶん)されており、レベル3から4のクエストの数が最も多いようだ。


 ガリオは冒険者レベル2のクエストを確認しつつ、窓口のほうで長い列に並ぶティフォーネの様子も横目(よこめ)で見ていた。

 ティフォーネのほうは、同じ年代の女の子たちに囲まれ、明るい表情で談笑(だんしょう)している。そんな中でも、ティフォーネの美しさは際立(きわだ)っていた。

 少し離れた所にいる若い男の子たちも、ティフォーネと話したくてソワソワしているのが分かった。


 そんな光景を遠くて見ていたガリオは、少しだけ(さび)しい気持ちになった。

 彼は数日ティフォーネと一緒にいて、誰かと旅をする楽しさを思い出したのだ。

 だが、それもブングラスの町に帰れば彼女との旅も終わり、また一人での冒険者生活に戻る。

 その未来予想(みらいよそう)が、ガリオを寂しい思いにさせていたのだ。


「……契約精霊(けいやくせいれい)か」


 ガリオがどんなに(ねが)っても願っても、(かな)わなかった精霊との契約。すべては、精霊が寄り付かない、自分の不幸な体質が原因だった。

 とうの昔に忘れ去った悲しみを再び思い出してしまい、ガリオは人知れず重いため息を()いた。

 彼は自分の心の中を、黒い液体が徐々に塗りつぶしていくかのような、不気味な感覚に(おちい)っていた。


 すると、ポンポンと誰かがガリオの肩を(たた)いた。


「すみません、遅くなっちゃいました」


 ガリオが顔を上げると、そこには笑顔のティフォーネが立っていた。

 彼女のキラキラと輝く(あか)い大きな瞳に見つめられると、心の中の黒いモヤモヤがスーッと風に流されるように消えていった。


「んんん?」


 ティフォーネがちょっと首を(かし)げて、ガリオの目をじっと(のぞ)き込む。

 誰もが(うらや)む美少女の小さな顔がグッと近づいてきたので、ガリオは思わず後ろにたじろいでしまった。

 ティフォーネの後ろのほうからは、女の子たちのキャーキャー(さわ)ぐ声が聞こえる。


「な、なに?」

「ガリオ様……泣いてました?」


 そんな彼女の指摘に、ガリオは苦笑(くしょう)して「いやいや」と首を小さく横に振った。

 彼の心の中にあった不安は、ティフォーネのおかげで全く残っていなかった。


「ティフォーネが若い子たちと楽しそうに話しているのを見て、もう友達ができたんだなって驚いてたんだ」

「そうだったんですね。彼女たちも冒険者登録に来たみたいで───」


 ティフォーネが後ろにいる女の子たちを、ガリオに一人ひとり名前を紹介していく。

 まさかの展開(てんかい)にガリオは驚いてしまい、緊張した様子で「よろしく」としか言えなかった。


「えっと、ガリオさんの冒険者レベルはおいくつなんですか? ティフォーネさんの護衛(ごえい)をされているのですから、きっと高レベルの冒険者の(かた)なんですよね」


 女の子たちの一人が、ガリオを(おそ)れるような、慎重(しんちょう)な態度で質問する。

 しかし、その表情の裏側(うらがわ)では、自分の想像どおりの答えが返ってくるのを期待していた。

 周りの女の子たちも同じ気持ちらしく、ガリオの答えをウズウズしながら待っている。


「あいにく、俺のレベルは低いんだ。冒険者レベル2だよ」

「えッ……」


 ガリオの冒険者レベルを知った女の子たちは、彼のあまりのレベルの低さに、一様(いちよう)絶句(ぜっく)してしまった。

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第41話 城塞都市オルソ②「金髪の王子様と錬金術師」


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