第4話 出会い④「契約精霊のいない戦い」
白い小鳥が近くの岩の上に留まるのを確認したジャンナは、急いで自分のバックアップの元に飛んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジャンナ!」
ケイル王子は、自分の契約精霊である風の四大精霊ジャンナが消えたのを見て、心臓が止まったかのような感覚に陥った。
満身創痍のコエ=ガスが放った強烈な咆哮は、止めを刺そうとしていたジャンナの他に、コエ=ガスの周りにいたケイル王子の仲間たちの契約精霊をもまとめて消し去ってしまったのだ。
それどころか───
「契約が切れている!」
これまで四六時中感じていたジャンナと魔力で繋がっていた感覚が、今はきれいさっぱりと消え失せていた。
ケイル王子の心の中では、自分が急に丸裸にされてしまったような、恥ずかしく恐ろしい不安が徐々に押し寄せてくる。
ケイル王子の周りにいる仲間たちの中にも、同じような状態に陥っている者がいるようだ。
最悪の魔物が目の前にいるのを忘れ、ひらすらに自分の契約精霊の名前を叫んでいる。
ケイル王子はそんな仲間たちの姿を見て、唇をグッとかみしめる。
そして、自分も泣きたくなるような不安と戦いながら、うろたえる仲間たちに大声で呼びかけた。
「皆、冷静になるんだ! コエ=ガスをもう少しで倒せるんだぞ!」
我に返った仲間たちがコエ=ガスのほうを見ると、巨大なドラゴンのような姿をしたその魔物は、痛みに耐えるようにうずくまってケイル王子たちを威嚇している。
先ほどまで大暴れしていた時とうって変わって動かなくなったコエ=ガスの姿に、仲間たちが徐々に冷静さを取り戻していった。
「僕たちはまだ戦える! 僕たちの手で、この最悪の魔物を倒すんだ!」
仲間たちの目に勇気の炎が戻ってきたのを見たケイル王子は、愛剣と盾をグッと握りなおす。
「皆、援護を頼む! うおおおおおおおおお!!」
ケイル王子は、自分より何倍も大きい魔物に一人で突撃していった。
コエ=ガスの咆哮の影響を逃れていた仲間たちとその契約精霊から、ケイル王子の身体能力を強化する魔法と、コエ=ガスを攻撃する魔法が飛んでいく。
魔法攻撃をまともに受けて、巨体の所々が燃え上がるコエ=ガス。
そして、雄たけびを上げて近づいてくるケイル王子に気づき、うずくまった姿勢から立ち上がった。
(でかいっ!)
見上げるまでに大きいコエ=ガスの巨体に、ケイル王子は狙いを魔物の太い手足に定める。
そして、コエ=ガスの攻撃に気を払いながら、切れ味鋭い愛剣で敵の前足を斬りつけた。
「グオオオオオオ!」
ケイル王子の一太刀により大木のように太い前足の半分以上が削り取られ、耳をふさぐような大きな悲鳴がコエ=ガスから上がった。
だが、更なる攻撃を加えようとしたケイル王子に、コエ=ガスが放った黒い魔法が直撃した。
「ケイル王子いいいッ!」
ドカンッ!
仲間たちの目の前でケイル王子の体が高々と宙を舞った。
黒い魔法を愛剣で切り裂いた姿勢で硬直していた彼の体を、コエ=ガスが無事なほうの前足で横に払ったのだ。
とっさに盾で防御したケイル王子だったが、そのあまりの衝撃の大きさに立っていられず、魔物から離れた場所で片膝をついてしまう。
だが、援護をしていた仲間の一人からすぐに回復魔法がかけられ、彼は再び立ち上がった。
一方の前足を傷つけられたコエ=ガスは、まともに立っていられない状態だった。
その弱々しい姿に、ケイル王子は勝利を確信した。
「やれる! やれるぞ!」
完全に勢いを取り戻したケイル王子は、愛剣を構えて再度コエ=ガスに突撃しようとする。
すると───懐かしい風が兜の隙間から流れ込んできたのを感じた。
(この感じは……)
荒野に吹く風は徐々に強くなり、ケイル王子たちの真後ろで天まで届くような竜巻に成長していった。
「ケイル王子!」
凛とした女性の声が戦場に響き渡る。
つい先ほどまで近くで聞いていた声なのに、ケイル王子にはとても懐かしく感じた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第5話 出会い⑤「ぽっかり空いた穴」
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