第34話 ウート村③「黒い狼との死闘」
少し足早にダンジョンを進むガリオの前に、横の壁が崩れている場所が現れた。
そしてその崩れた先には、さらに未知の空間が広がっていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオの目の前に広がる空間は、これまで歩いてきたダンジョンのそれとは全く異なっていた。
ガリオがランプを高く掲げると、そこはお城の中の広い廊下のように見えた。
その廊下は左右とも奥のほうにずっと続いており、ランプの明かりでは少し先までしか見通すことが出来ない。
予想外の光景に、ガリオは少しだけ思考が止まってしまった。
「な、なんだここは……」
呆然と立ち尽くすガリオの耳に、再びカタカタとスケルトンが近付いてくる足音が聞こえてきた。
その音は新たに発見した左側の廊下の奥から聞こえており、しかもその数はかなり多そうだった。
「ちッ!」
ガリオの進むべき道の選択肢は、3つあった。
スケルトンの足音がする左側か、それと反対側の右側か、元のダンジョンに戻るか。
すると、ガリオの脳裏に、先ほどのハンカチで顔を押さえている母親の姿がよぎった。
彼の足は自然と、スケルトンの足音がしない右側の廊下を駆け出していたのだった。
「……俺はまだ、若者たちの姿も見ていないしな」
そう独りごちると、ガリオはあまり音を立てることなく廊下を走っていた。
聞こえるのは自分の呼吸だけで、廊下の中は不気味なほどに静まり返っている。
しかも不思議なことに、ガリオが走れども走れども、廊下の景色に変化がなかった。
廊下の端にたどり着かないどころか、扉の一つも見当たらないのである。
少し疲れたガリオが走る速度を少し緩めた、ちょうどその時───
───タタタッ
「ん?」
微かな物音を聞いたガリオがランプを前に向けると、赤色と白色をした何かがすぐ目の前に広がっていた。
「うあああああああああ!」
ガリオは何も考えずに、即座に左側へ身を投げ出す。
しかし彼の両足には、凄い勢いで何かがぶつかったのだった。
ガシャンッ!
ランプが廊下に落ちて、ガリオは棒切れのように吹き飛ばされた。そして、そのまま横の壁に叩きつけられる。
「ぐわッ!」
全身を襲う衝撃にガリオの意識は遠くなりかけたが、彼は気力を振り絞って意識を引き戻した。
そして全身の痛みを我慢し、少しふらつきながらも急いで立ち上がる。
壊れたランプから漏れた油が、廊下の隅でメラメラと燃えていた。
ガリオはぶつかった何かが通り過ぎたほうに目を凝らすと、そこには───
ガルルルッ! ガルルルッ!
ガリオと同じ高さほどもある、巨大な黒い狼が彼のほうを睨んでいた。
先ほどガリオが見た赤色と白色というのは、その狼が口を大きく開けて彼に噛みつかんとしているところだったのだ。
「これは、間違ったほうに来てしまったかな……」
ガリオは少しため息をついて、愛剣『虹切』をスラリと抜き放った。
こんな凶暴な狼がいる方向に若者二人が来たとしても、無事に済む訳がない。
そして自分も、この黒い狼から戦わずに逃げられるとは思っていなかった。
「うおおおおおおおおお!」
先手必勝。ガリオは無詠唱の『身体強化』をかけ直すと、喉が潰れるほどの大声を上げて、狼に斬りかかっていった。だが───
ガリオが横に薙いだ刀が届く前に、黒い狼は後方へ大きく跳び去って、彼から距離を取った。
(なにッ!)
そんな狼の冷静な対応に、思わずガリオは目を剥いた。
接近戦に持ち込もうとした彼の思惑が、見事に外されたからだ。
十分な距離を取った黒い狼は、再び猛スピードでガリオに襲いかかっていった。
ガアアアアアアッ!
黒い狼はガリオの手前で高く跳躍し、全体重をかけて両方の前脚でガリオを押し潰そうとした。
狼の鋭い爪が自分に迫ってくる中、ガリオは冷静にその攻撃を見極めている。そして───
「ぬんッ!」
ガリオは左前方に体をずらしながら、右の上段から斜めに刀を全力で振り下ろした。
ギャアアアンッ!
着地した黒い狼は、自分の体重を支えきれずに、そのまま勢いよく右肩から廊下に叩きつけられた。
狼の右前脚の小指の部分が、ガリオの刀で切断されていたのである。
だが、この黒い狼はダンジョン由来の魔物なのか、血は全く流れていないようだった。
人間と敵対する魔物は大きく2種類あり、ダンジョンから生まれる魔物と、ダンジョンの外で繁殖する魔物がいる。
ダンジョンから生まれる魔物は、基本的にダンジョンから出ることはなく、倒されると魔石以外は死体が消えてしまう。
一方のダンジョンの外にいる魔物は、倒されると死体と魔石を残すものの、取れる魔石は小さいことが多い。
グルルルッ!
よろよろと立ち上がってガリオを威嚇する黒い狼だったが、すぐに襲い掛かってくることはなかった。
欠損した小指付近に黒い霧が集まっており、そこを修復しているようだった。
(させないッ!)
このチャンスを逃すガリオではなかった。彼はすぐさま黒い狼に斬りかかろうと姿勢を低くする。その時───
───もうよい。下がれ
突如廊下に女性の声が響き渡った。その声を聞いたガリオの全身に、ドッと冷や汗が流れた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第35話 ウート村④「闇の三大公」
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