第33話 ウート村②「名刀『虹切』」
ウート村から歩いて30分。
林の奥に続く細道を進んだガリオたちの目の前に現れたのは、小高い山にぽっかりと開いた洞窟の入口だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
洞窟の入口の周りは人の手が入っており、広場のように整備されていた。
「出現する魔物は、スケルトンやグールだと聞いてます。若いころ私も1度だけ入ったことがあるんですが、一緒に入った男の子たちでも簡単に倒せました。だから、あの子たちが帰って来ないのが不思議なくらいで……」
震える顔をハンカチで押さえている母親の肩に、ティフォーネがそっと手を乗せる。
「ガリオ様が二人を見つけてくれますから、私とここで待ってましょう」
「……はい」
ティフォーネが自分のほうを向いて頷くのを見て、ガリオも大きく頷き返した。
そしてカバンを一度背負い直すと、ここに残る二人に声をかける。
「じゃあ行ってくる」
「はい! 気を付けてくださいね!」
ティフォーネの励ましの声を背にして、ガリオは真っ暗なダンジョンの中へ足を踏み入れた。
すると、すぐに死体が腐ったような悪臭が鼻をついた。
ガリオは少し顔をしかめたが、その場でゆっくりと大きく深呼吸をして、自分の肺をダンジョンの空気で一杯にする。
「……よし」
彼は鼻の嗅覚をわざと麻痺させ、強制的に臭いを感じないようにした。
臭いを気にしているようでは、魔物とまともに戦えないからだ。
ガリオはランプを片手に、ダンジョンの中を進んでいった。
契約精霊がいれば、明かりの精霊魔法を使うことができるが、ガリオの場合は契約精霊がいないため、光源はランプの明かりに頼るしかなかった。
若者二人の痕跡を探しながらしばらく進むと、カタカタと渇いた音が前方から聞こえてきた。
ガリオは聞こえてくる音からスケルトンの接近を予測し、ランプを地面に置いて戦闘に備える。
(来たな……なにッ!)
姿を現したのは、3体のスケルトンだった。驚いたことに、その手には鈍く光る剣が握られている。
母親から聞いた話では、ここに出現するスケルトンやグールは武器など持っていないはずだった。
「白魔法『身体強化』」
予想外の光景に驚いたガリオだったが、彼は落ち着いて『身体強化』の魔法を無詠唱で自分にかけた。
体が一瞬だけぼんやりとした赤い光に包まれると、ガリオは全身が一気に軽くなったように感じた。
そして彼は、腰に下げた刀をスラリと一気に抜き放った。
───名刀『虹切』
ガリオが長年使っているその愛剣は、彼が13歳の時に冒険者登録をしたお祝いに、剣の師匠から贈られた逸品だ。
遥か遠い東の果ての国で、虹を斬ったと謂う剣豪の持っていたその刀は、長い年月を経ても、ずっと変わらぬ輝きを放っていた。
地面に置いたランプの光が、よく磨かれた刀に反射して、一瞬だけダンジョンの壁にキラッと一筋の光が走る。
次の瞬間───ガリオはスケルトンの目の前にいた。
獲物がすぐ目の前に現れたことに反応したスケルトンが、手に持った剣を振り上げようとする。
ザンッ!
しかしガリオの刀は、すでに上段から斜めに切り下ろされていた。そして彼は、すぐに2体目のスケルトンのほうへ視線を向ける。
ザンッザンッ!
ガリオは、2体目のスケルトンが剣を振り下ろそうとするその右腕を切り飛ばし、返す刀でその首の骨を横に断ち切った。
(3体目ッ!)
一番奥にいたスケルトンがガリオに反応した時には、眼窩から突き刺さった刀の半分ほどが、スケルトンの後頭部の骨を貫通して後ろに突き出ていた。
ガシャガシャガシャ!
ガリオの動きが止まると同時に、3体のスケルトンの骨格が渇いた音を立てて地面に崩れ落ちた。
フーッとガリオは一息つくと、刀を一度大きく振り下ろして鞘の中に納める。
そして、動かなくなったスケルトンの頭蓋骨の中から、小さな魔石を取り出した。
「どういうことだ。スケルトンが武器を持っているなんて……」
ゆっくりと消えていくスケルトンの骨格を見ながら、ガリオは事態がさらに悪化しつつあることを感じ取っていた。
そして、スケルトンが武器を持つようになった2つの可能性について、彼は考えていた。
一つは、ダンジョン内の魔物が何らかの拍子に強化されること。
しかし、これは長い間放置されたダンジョンでしか起こらない現象だと聞いている。もう一つは───
「……俺たちが村長たちに騙されている、か」
可能性としては一つ目よりもあり得る話だが、村長や母親の態度、ここまでの話の流れを考えると、彼らが自分たちを騙しているようには思えなかった。
「どちらにしても、これはますます先に進まなくてはいけないな」
捜索している若者二人の安否は別にして、ガリオにはこのダンジョンの魔物が強化された原因を調査する、別の理由があった。
それは、この情報を冒険者協会に持ち帰れば、第一発見者として高い報奨金が支給される可能性があるからだ。
───パタパタッ!
しばらくガリオが奥に進むと、微かな羽音とともに、小さな黒い影が一瞬だけ壁に映った。
それを感知したガリオは、サッと素早く体を右下に沈める。
「コウモリも出るのかッ!」
小さな影の正体は、コウモリの魔物だった。
その牙がちょっとでも直接体を掠めただけで、毒に犯されてしまう可能性がある、危険な魔物だ。
ガリオは刀よりも小回りが利く短剣を抜いて、神経を集中した。
───パタパタッ!
羽音が近くで聞こえたと思った瞬間、短剣を持ったガリオの右腕が消える。
そしてすぐに、真っ二つに切られたコウモリの死骸が地面に落ちた。
「……コウモリが出てくることを知らなかったら、初心者は絶対に太刀打ちできんぞ」
ダンジョンなどでコウモリを近寄らせないだけなら、簡単な方法があった。
町で普通に売られているコウモリ避けの音叉を、予め用意しておけばいいだけだ。
しかし、高速で空中を舞うコウモリを倒すとなると、初心者の冒険者では相当難易度が高かった。
少し足早にダンジョンを進んでいたガリオは、前方に横の壁が崩れて、ぽっかりと大きな穴が開いている場所を発見した。
そして、彼がその穴の奥を覗き込むと、さらに未知の空間が広がっていたのだった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第34話 ウート村③「黒い狼との死闘」
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