第32話 ウート村①「村長からの捜索願い」
『君が助けた女性は、どこかの貴族の御令嬢らしい。そして、君の拘束を命じたのは、彼女の周りを秘密裏に護衛している者だ』
そして手紙の最後には、こう記してあった。
『いつも君のことは見ているよ。黒猫より』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの、すみません……」
早朝に宿場町ピノトーを出発したガリオとティフォーネが、昼食休憩のためにウート村という小さな村で馬車を止めた時だった。
小ぎれいな服装をした老人が、二人に声をかけてきた。
「儂はこの村の村長をしている者です。見たところ冒険者のようですが、良ければお話を聞いてもらえませんか?」
「……はい。なんでしょうか」
ガリオはティフォーネのほうをチラリと確認すると、彼女が小さく頷いたのを見て、そのまま村長の話を聞くことにした。
村長はホーッと大きく胸をなで下ろして、額の汗をハンカチで拭いている。なぜか彼は、ソワソワと落ち着かない様子だった。
「実は、今朝早くに村の若者二人が近くのダンジョンに行ったっきり、この時間になっても帰って来んのです。もし良かったら、様子を見に行ってもらえんでしょうか」
「なるほど。その若者たちは、冒険者なのですか?」
「いいえ。実は……明日オルソの街で冒険者登録をする予定の二人で、今日の昼にもこの村を出発すると言っていたのですが……」
「……未登録ということなんですね」
ガリオは、予想していたより事態が深刻になっている可能性があることを考えた。
冒険者登録をしていれば、ダンジョンに潜る際の必要な知識や技術などを学ぶ機会があるからだ。
「あいにく、今この村でダンジョンに行けるような者は出払っていて、ここには私のような素人しかおりません。オルソの冒険者協会への遣いは先ほど出したばかりで、夕方までに来てくださるかどうか……」
ウート村から城塞都市オルソまで、馬を使っても往復で半日はかかるだろう。
若者二人の安否を気遣う村長は、必死な思いでガリオたちに頭を下げた。
「若者二人が無事でいるのか、確認するだけでも構いません。どうかダンジョンの中の様子を見に行ってもらえませんか」
そう言って村長は、小さな巾着袋をガリオに差し出した。
受け取ったガリオが中を確認すると、そこには金貨5枚が入っていた。
「こんなにッ!」
「こちらが無理を承知でお願いしておりますので」
予想を超える報酬の金額に、ガリオは思わず驚きの声を上げた。
彼がブングラスの町で薬草採取をしていた時は、1日で大銀貨1枚くらいを稼いでいた。金貨5枚は、その50倍ほどの価値がある。
ガリオは少し考え込むと、巾着袋から金貨1枚だけ取り出し、残りは村長に返した。
「俺はレベル2の冒険者です。微力を尽くしますが、残りの報酬は若者二人が無事に帰った時にいただきます」
「冒険者レベル2……」
村長はガリオのレベルの低さに少し落胆したが、彼の潔い姿勢に好感を持った。
そして、ガリオの両手をしっかり握り締めると、改めて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい、分かりました。時間もないので、ダンジョンまで案内してくれる人はいますか。魔物の情報も知っている人が好都合なのですが」
「しばしお待ちを。今呼んできます」
そう言って村長は、この場を離れていった。
ティフォーネと二人きりになったガリオは、彼女と向かい合う。
「そういう訳だから、ちょっとダンジョンに潜ってくる。ティフォーネはここで待っててくれ」
「ガリオ様、私も一緒に行きます!」
真っ直ぐにガリオを見つめるティフォーネだったが、ガリオは首を横に振る。
まだ冒険者でもない彼女を、危険なダンジョンの中に入れる訳にはいかなかった。
「駄目だ。ティフォーネはまだ冒険者じゃないからね。雇い主を危険な目に遭わせられないよ」
「でも……」
ティフォーネは何か言いたそうな顔をするが、悲しい表情をして俯いてしまう。
しばらくして、再び顔を上げた彼女の紅い大きな瞳は、少し涙で潤んでいるようだった。
「分かりました。でもダンジョンの入口まで一緒に行きますね」
「いや……分かった」
一度は断ろうとしたガリオだったが、ティフォーネの目の奥の固い決意を見た彼は、少し妥協することにした。
そして、村長が一人の女性を連れて戻って来た。若者二人のうちの片方の母親らしい。
「いつも子どもからダンジョンの話を聞いてますので、お役に立てれば」
「ありがとうございます。早速向かいましょう。案内してください」
「はい!」
歩きながら聞いた母親の話によると、問題のダンジョンは階層が1階しかなく、弱い魔物しか出現しないため、訪れる冒険者はほとんどいないらしい。
ウート村の若者たちがたまに潜って、魔石を集めてお小遣い稼ぎをしているような場所だった。
今回ガリオが探す二人も、冒険者になる前の最後の思い出に、ちょっとだけ潜るのだと母親に話していた。
「こちらです」
ウート村から歩いて30分。
林の奥に続く細道を進んだガリオたちの目の前に現れたのは、小高い山にぽっかりと開いた洞窟の入口だった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第33話 ウート村②「名刀『虹切』」
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