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第30話 宿場町ピノトー③「捕らわれたガリオ」

 しばらくして、女湯の方が(さわ)がしくなったのを感じたガリオは、女湯のほうを見てそっとため息をついた。


(……ティフォーネが共同浴場で落ち着いてお風呂に入るのは、到底不可能(とうていふかのう)だろうな。きっと、女性たちの視線も(すご)いだろう)


 そう自分で結論(けつろん)を出して、ガリオは頭からお湯を(かぶ)るのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 騒がしくなった女湯のほうを気にしながらも、しばらくお湯に()かっていたガリオは、早々(そうそう)に男湯を後にした。

 当然ながら、共同浴場(きょうどうよくじょう)の入口付近にティフォーネの姿はない。

 熱くなった体を冷やすために、いったん外に出るガリオ。そして彼は、そのまま外で(すず)みながらティフォーネを()つことにした。


「ふー。涼しい」


 夜風(よかぜ)に当たっているガリオの横を通って、多くの人が共同浴場に出入(ではい)りしていた。

 そんな中に冒険者のパーティと思われる集団が何組かいて、そのどれもが皆明るい表情をしていた。

 きっとクエストを無事にクリアして、(つか)れた体をここのお風呂で(いや)すのだろう。

 その光景を見て、ガリオは若い時のことを思い出していた。


『ぐうぐう。すやすや』

『わりーなー、ガリオ。いつもリーダーを背負ってもらって』

『……いえ、師匠(ししょう)。僕だけ何もしてないから……』

『キュウーン。ガリオちゃん可愛いッ! あとでお姉さんと一緒にお風呂に入ろッ!』

『はしたない……早く先導(せんどう)しろ。ダンジョンを抜けるぞ』


 10年以上昔のことだが、彼は剣の師匠のパーティに荷物持ちとして参加していたことがあった。

 正式なメンバーではなかったものの、契約精霊(けいやくせいれい)がいないガリオにとって、そのパーティで過ごした時間は、どんな宝石にも()えられない貴重(きちょう)なものだった。

 現在そのパーティは───もう存在していない。


「お前、ほんと汗臭(あせくさ)いなあ」

「うるせー! お前も同じじゃねぇか!」

「はいはい。さっさと風呂に入って、一杯やろうぜ」


 そこに、大柄(おおがら)な男たちが共同浴場に入ろうとしていた。

 彼らは仲間同士で大声で話しながら、ガリオの横を通り過ぎようとする。

 すると───


「キャッ!」


 共同浴場の中からフラフラとおぼつかない足取りで出てきた人が、大柄な男たちの一人にぶつかって、か細い悲鳴(ひめい)を上げた。

 なぜか頭から白いフードを(かぶ)ったその人は、体が小柄(こがら)だったために勢いよくガリオのほうに倒れ込んでくる。


「おっと」


 ガリオは倒れ込んできたその人を、左腕でとっさに抱きかかえた。

 受け止めたときに多少の衝撃(しょうげき)はあったが、その人の体重が軽かったため、ガリオはなんとかその場に()みとどまることできた。


「あ、悪いな」


 一方のぶつかった大柄の男は、ガリオに軽く謝罪(しゃざい)を済ませ、仲間と一緒に共同浴場の中に入っていった。

 共同浴場の入口付近は人通りが多かったものの、一瞬(いっしゅん)の出来事だったために、誰もガリオと倒れたその人のことを気にする様子はなかった。


 ガリオは左腕に抱えた人をしっかり立たせようと、グッと力を入れるが───


「大丈夫か?」

「……どこを触っている」

「え?」


 小さな声だったのでちゃんと聞き取れなかったガリオは、腕の中にいる人の顔を(のぞ)き込む。

 そして、その顔を見た彼はとても驚いた。


 フードが取れて(あら)わになったその顔は、ティフォーネと同年代くらいの美少女だった。

 街灯(がいとう)の明かりがキラキラと反射(はんしゃ)するサラサラの金髪(きんぱつ)。宝石のように青く美しい大きな瞳。しかしそこには、なぜか大粒の涙がたまっている。


 そしてガリオは自分の左手を確認すると、彼女の左胸のあたりを(つか)んでいることに気付いた。


「ご、ごめブワッ───!」


 バチィィィン!


 ガリオの左頬(ひだりほほ)に、強烈(きょうれつ)なビンタが炸裂(さくれつ)した。

 彼に支えられていた女性が、素早く体を(ひるがえ)してガリオの頬を(たた)いたのだ。


「変態変態へんたああああああい!」


 ガリオにビンタをしたその女性は、顔を真っ赤にして人ごみの奥に走り去って行った。

 一方のガリオは、目を白黒させて女性が消えた方向を見つめるのだった。


「なんだったんだ……」


 あまりの突然の出来事に、左頬を(おさ)えたままぼんやりと立ち尽くすガリオ。

 すると、彼の肩をトントン叩く者がいた。


「君きみ。ちょっと詰所(つめしょ)で話を聞かせてもらっていいかな?」

「え?」


 ガリオが後ろを振り返ると、満面(まんめん)の笑みを浮かべた二人の衛兵(えいへい)が、ガリオの腕を(つか)んでいるのだった。


「えええええええええ!」

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第31話 宿場町ピノトー④「謎の情報屋」


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