第3話 出会い③「体の変化」
二人の様子を眺めていた小精霊たちは、「私は何も見てませんよ」と言うように、スーッとその姿を消していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご、ごめんなさいっ!」
ジャンナが慌ててガリオの顔を拭こうとするが、キラキラした何かはガリオの顔や体に染み込むように、すぐに消えてしまった。
そんなガリオの表情は、まるで安心したかのように少し微笑んでいた。
ガリオの安らいだ表情を見て、ジャンナは少し引いてしまったが、すぐに自分の体にも急激な変化が訪れていることに気がついた。
「な、なんなの、この魔力はっ!」
ジャンナは自分の体から、魔力があふれ出ていることに驚愕した。
精霊界の階級の最高位である四大精霊になってから、これほどまでの魔力が体に宿ったことなど、一度もなかったからだ。
彼女の容姿も、10代前半から20代前半の美しい女性の姿に成長している。
マグマの如き熱い奔流の魔力が体中を巡っているため、色白のジャンナの肌は、全身ほのかに赤くなっていた。
「くぅ……体が熱い」
四大精霊に昇格した時以来の、全身が熱くしびれるような感覚に、ジャンナは己の体を抱いて我慢していた。
少しでも油断すると、その場に倒れてしまいそうになる。
「はっ! あの人はっ!」
ジャンナは全身を覆う甘いしびれをグッと我慢して、自分のキラキラをぶっかけてしまったガリオのほうに視線を戻す。
すると、先ほどまで血の気が無かったガリオの顔色は良くなっており、ただ眠っているだけのようだ。
また、飛び散った血液が彼の体や周辺の岩肌にこびり付いているものの、彼自身の体には大きな傷は消えていた。
「無事に契約できたのは良かったけど、この人は一体何者なの……」
ガリオの魔力回路を通じて精霊界から流れ込んできた魔力は、尋常な量ではなかった。
今は魔力回路を閉じて魔力が流入してくるのを止めているものの、あの魔力の奔流を制御するのは、風の四大精霊であるジャンナといえども時間がかかりそうだった。
そして、ガリオから漂う生理的に受け付けない気色悪いオーラは、ジャンナと契約を交わしたあとも変わっていない。
「この人のことも気になるけど、急いでケイル王子のところに戻らなきゃ」
ガリオの正体を詮索していたのも束の間、ジャンナはまだ最悪の魔物と戦っているであろう仲間のことを思い出した。
彼女は戦場の後方の安全な場所に残していた、自分のバックアップの無事をすぐさま確認する。
「良かった。まだちゃんと残ってる。でも、状況は最悪みたい……」
バックアップを通して戦場の様子を見ると、ケイル王子のそばにいる仲間たちの契約精霊の姿が見当たらない。
おそらく、ジャンナと同じように契約を解除され別の場所に飛ばされたのだろう。
今まさしく、ケイル王子たちが最悪の魔物コエ=ガスに、身一つで挑まんとしていた。
もう一刻の猶予もない。
ジャンナはバックアップの元に瞬間移動しようとしたが、目の前のガリオが無防備な状態であることを思い出した。
「ケイル王子、もう少しだけ待ってて」
ジャンナは周囲の状況を探るべく、己の魔力を少しだけ解放した。
幸い、この近くには森の獣がうろついている程度で、強力な魔物やガリオ以外の人間の姿は見当たらず、今のところ脅威は少なそうだ。
念のために、ジャンナは可愛がっている配下の精霊を使って、眠っているガリオを守ることにした。
「権風精アルキュオネ、この人間を守って」
ジャンナのすぐ隣の何もない空間に魔法陣が現れ、中から尾羽の長い真っ白な小鳥が現れた。
精霊界の階級で7番目の位階に属する権風精は、周辺の獣が束になっても傷一つ付けられないほどの強さを持っている。
白い小鳥が近くの岩の上に留まるのを確認したジャンナは、急いで自分のバックアップの元に飛んだ。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第4話 出会い④「契約精霊のいない戦い」
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