第29話 宿場町ピノトー②「宿決めとお風呂」
そうして二人は陽がもうすぐ沈む頃に、ブングラスの町と城塞都市オルソの中間にある宿場町ピノトーに到着したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオたちが立ち寄ったピノトーの町は、ブングラスの町よりも規模が小さいものの、宿泊施設は充実していた。
彼らと同じように、城塞都市オルソに向かう途中にあるこの宿場町で、体を休めていく人が多いからだ。
今晩泊まる宿を決めるに当たり、ガリオはティフォーネの身の安全を第一に考え、セキュリティーのしっかりした宿を利用することにした。
「ありがとうございます。ちなみにそのお宿は、一晩どれくらいするんですか?」
「おそらく銀貨2枚か3枚くらいだろう。少し高いけど警備は万全だから、ティフォーネは安心して一晩過ごせると思うよ」
普通の冒険者は銀貨1枚程度の宿に泊まっているが、ガリオが提案した宿は相場の倍以上はする。
彼の話を聞いて、不思議そうな表情をしたティフォーネの首が、少し右に傾く。
「警備? 護衛なら、ガリオ様がいるじゃないですか」
「ああ。俺はこの馬車の中で寝泊まりするよ。この町は治安がしっかりしているから、ちゃんとした宿に泊まればティフォーネ一人でも十分安全なんだ」
「えッ!」
彼らは今日一日ずっと御者台の上にいたが、馬車の中は広い作りになっている。
ガリオが言うように、馬車の中は彼が横になれるくらいのスペースは十分にあった。
しかし、ティフォーネのほうはガリオの提案に納得していないようだった。
「何を言っているんですか、ガリオ様! ガリオ様もちゃんとした宿に泊まってください!」
「でも、俺の分の宿代がもったいないよ」
今回の護衛クエストに必要な経費は、彼の雇い主であるティフォーネが支払わなければならない。
ガリオは彼女の負担を心配して、少しでも経費を抑えようと思った上での発言だった。
「お金の問題じゃありません。ガリオ様にも私と同じ宿に泊まって、しっかりと体を休めてもらいたいんです!」
ティフォーネはちょっと怒ったように頬を膨らませて、自分のお財布から銀貨4枚を取り出してガリオに差し出す。
「それに、ガリオ様は馬車の中に泊まっても、護衛のことが気になってちゃんと寝れないんじゃないですか?」
「う……」
図星を指されたガリオは、気まずそうに頭をポリポリとかいた。
彼は自分よりも大分若いティフォーネに諭されてしまったことを反省し、自己嫌悪気味にハーッと大きなため息をついた。
そして、自分のことをこんなに心配してくれるティフォーネに対し、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「……ありがとう。じゃあ、衛兵に宿の場所を聞いてくるから、ちょっと待っててくれ」
スッキリと気持ちを切り替えたガリオだったが、ティフォーネから銀貨を受け取ろうとしたその腕が、スカッと宙を切る。
ティフォーネがサッと銀貨を持ち上げたのだ。
「それとも一緒の部屋に泊まりますか、パパ?」
「ちょッ! ティフォーネッ!」
顔を真っ赤にして、ガリオは素早く銀貨を奪い取る。しかし、ずっとソロで冒険者をやってきた彼にとって、ティフォーネの冗談は小気味よかった。
「ここでしばらく待っててくれ!」
「ウフフ。よろしくお願いしますね」
馬車を下りたガリオは、町の入口にある衛兵の詰所でお勧めの宿の名前と場所を確認した。
その後二人は、馬と馬車を有料で預かってくれる駐馬場に行き、一晩だけ馬の世話と馬車の保管を依頼した。
衛兵から勧めてもらった宿は、町の中心部から少し離れた静かな路地の中にあった。
近くに大きな共同浴場があることから、なかなか人気の宿らしい。
「ガリオ様。早く荷物を片付けて、一緒にお風呂に行きましょう!」
「ああ。分かった」
宿を確保したガリオたちは、身軽な服装に着替えて、早速宿の近くの共同浴場に向かった。
夕暮れの中、多くの人が買い物をしていたり家路を急いだりと、思い思いに町の中を歩いている。
精霊魔法が発達したこの西の王国では、各家庭や宿泊施設で気軽にお風呂に入ることができる。
この国に住む人は、精霊教会に行って少しの献金をすれば、誰でも精霊と契約することができ、王国自体もそれを推奨している。
そして、精霊が寄りつかないガリオは例外として、誰もが子どものころから精霊とともに暮らし、生活する上で便利な精霊魔法を使うことができる。
水の精霊と火の精霊とそれぞれ契約した者が二人揃っていれば、家庭のお風呂くらいは簡単に用意することが出来るのだ。
しかし、たっぷりのお湯に浸かれる共同浴場は、どこの町でも人気があった。
「共同浴場に行くのは初めてなんです。だからすごく楽しみ!」
「珍しいね。ティフォーネの家の近くには、共同浴場が無かったんだ」
「そ、そうなんです!」
ティフォーネは昼間着ていた魔法使いのような白を基調とした衣装から、さっぱりとしたピンク色のワンピースに着替えていた。
そして、彼女はワクワクする気持ちが表情に出ており、とても上機嫌な明るい笑顔になっていた。
一方、彼女の横を歩くガリオのほうは、周りから集まる視線に居心地の悪さを感じていた。
なぜなら、ガリオたちとすれ違う多くの人が、特に男性が後ろを振り返ってティフォーネに見惚れていたり、周りから「可愛い」とか「綺麗」などと声が聞こえてくるからである。
「ガリオ様、どうしました?」
どんよりとした暗い表情のガリオを見て、ティフォーネが不思議そうに尋ねてくる。
彼女のほうは、自分が多くの人から注目されることに、特に何も感じていないようだった。
「あ、いや……」
そんな美少女のティフォーネからじっと見つめられて、ガリオは年甲斐もなくドキドキしてしまう。
そんな自分を見透かされるのが恥ずかしくて、ガリオはぶっきらぼうに「何でもない」と答えて早足になった。
ティフォーネはクスッと小さく笑うと、少し前のガリオを追いかけた。
ガリオたちの目指す共同浴場には、彼らと同じように冒険者らしき人の出入りがチラホラ見られた。
入口をくぐった玄関の奥から、男女別の浴場に分かれていくようだ。
「ティフォーネはゆっくり入っててくれ。俺は先に上がって、入口近くで待ってるから」
「ありがとうございます。でもガリオ様もゆっくり入ってきてくださいね」
いつもお風呂はサッと済ませているガリオは、ティフォーネの言葉に苦笑いを浮かべながら、しかし何も言わずに大きく頷いた。
「ああ。じゃあ、またあとで」
「はい!」
ガリオたちは受付で入浴料を払うと、共同浴場特有の匂いと喧騒に包まれながら、それぞれ男湯と女湯の入口に入っていった。
しばらくして、女湯のほうが騒がしくなったのを感じたガリオは、そっとため息をついた。
(……ティフォーネが共同浴場で落ち着いてお風呂に入るのは、到底不可能だろうな。きっと、女性たちの視線も凄いだろう)
そう自分で結論を出して、ガリオは頭からお湯を被るのだった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第30話 宿場町ピノトー③「捕らわれたガリオ」
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