表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/125

第27話 勝負の後始末⑤「二人の旅立ち」

「まあ待て。さっきも言ったが、俺も聞いたばかりでよ。詳しい話はうちのスタッフにしてもらうが───」


 グラドス支部長の発した言葉を、ガリオはすぐには理解(りかい)できなかった。


「───アーノルドたちが消えたらしい」

「えッ?」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 グラドス支部長は、驚きのあまり声も出ないガリオの顔を見て、面白(おもしろ)がるようにニヤリと笑った。


「驚いただろう? 俺も最初に聞いたとき、(わけ)が分からなかったぜ」


 まだ立ったままのガリオにソファーに座るよう(うなが)すと、グラドス支部長は女性の秘書(ひしょ)にコーヒーを2つ()れるように頼んだ。

 そして、自分もドッカリと深くソファーに座る。


 一方のガリオは、グラドス支部長の「消えた」という言葉を聞いて、深刻(しんこく)そうな顔をしてジッと固まっていた。


「……昨日、あの勝負のあと、アーノルドたちに会ったか?」

「いいえ、あれからは会ってません」

「そうか。ところで、あのお(じょう)ちゃんとは、昨日からずっと一緒だったのか?」

「ティフォーネさんですか? 彼女とは昨日の昼過ぎに、冒険者協会の前で別れましたよ。それから俺は家に帰って、旅の準備をしていました。彼女とまた会ったのは、今朝になってからです」

「そうか……」

「グラドス支部長。ティフォーネさんがどうかしたんですか?」

「うーむ」


 グラドス支部長は太い両腕を組み、思案顔(しあんがお)になって(だま)り込んでしまった。

 ガリオも何かを考えている彼の邪魔(じゃま)にならないよう、静かに言葉の続きを待っていた。


「ガリオ、あのお嬢ちゃんは───」

「お待たせしました」


 グラドス支部長が何か言いかけたちょうどその時、二人のスタッフが部屋の中に入ってきた。

 女性秘書のほうはコーヒーを2つテーブルに並べて部屋を出ていったが、もう一人の男性スタッフはジャラジャラと音がする赤い袋を持って、そのまま待機(たいき)している。

 グラドス支部長は部屋に残ったスタッフにも、ソファーの空いている所へ座るよう促した。


夜勤明(やきんあ)けで()てないのにすまんな。アーノルドたちのこと、詳しい状況を俺たちに聞かせてくれるか?」

「はい。今日の未明(みめい)なんですが、突風騒ぎがあってしばらくしてから、アーノルドさんのパーティーの3人が協会に来られたんです」

「えッ?」


 驚くガリオをよそに、グラドス支部長の横に座ったスタッフが、ゆっくりと説明を続けた。

 彼は一晩中(ひとばんじゅう)働いていたらしく、疲れている様子がありありと見える。


「アーノルドさんたちは、なんだか(あわ)てているようでした。それで、俺たちはこの国から消えるからガリオさんに渡してほしいと、これを(あず)かりました」


 そういってスタッフは、(ひざ)に抱えていた赤い袋をテーブルの中央に置いた。

 ガチャガチャとたくさんの金属(きんぞく)がこすり合わさる音がする。


「一応こちらで中身を確認したんですが、金貨(きんか)がおよそ100枚入ってました」

「ほほう?」

「はあッ! なんでそんな大金を俺に渡すんですかッ!」


 金貨100枚といえば、普通の家族が数年働かずに生活できるほどの大金(たいきん)である。

 実際にアーノルドたちと話したスタッフのほうも、彼らの態度(たいど)にかなり困惑(こんわく)しているようだった。


「私たちもアーノルドさんに理由を聞いたんですが、詳しい事情(じじょう)も教えてくれず、ガリオさんへの迷惑料(めいわくりょう)だとしか言わなくて……。それで町を(はな)れる手続きだけ済ませると、早々に出て行ってしまいました」

「迷惑料って……」


 ガリオはとても混乱していた。昨日の勝負で、彼らは立派な馬車をガリオに取られている。

 そのうえ、大量の金貨までガリオに渡すように言い残して国を出て行ってしまったのだ。

 3人組が何を考えているのか、ガリオにはまったく理解(りかい)できなかった。


 「以上です」と言ってスタッフは手元(てもと)のメモ帳を閉じると、二人に一礼(いちれい)をして支部長室を出て行った。

 グラドス支部長はフンッと鼻息(はないき)を鳴らすと、テーブルの上に残された金貨入りの袋を見ながら言った。


「良かったじゃねえか。あの3人組はもうこの町にはいないようだし、この金貨100枚は正式にお前のもんだ」

「……アーノルドたちは、なぜこんなことをしたんでしょうか」

「さあな。昨日大勢のギャラリーの前で冒険者レベル2のお前に負けて、プライドがズタズタになったっていうのが、一番分かりやすいんだが……」

「でも、この金貨を残していく理由が分かりません」

「そこだよなあ」


 グラドス支部長はいったん言葉を打ち切って、天井を(あお)ぎ見る。そして、ボソリと一言(つぶや)いた。


「あのお嬢ちゃんが何かしたのかもな」

「え? ティフォーネさん?」


 グラドス支部長はそれ以上何も言わずに、コーヒーを一口飲んだ。

 ガリオもグラドス支部長の重苦しい雰囲気(ふんいき)()まれてしまい、無言のままコーヒーをすべて飲み()した。


「ガリオ、この後どうするんだ?」

城塞都市(じょうさいとし)オルソまでティフォーネさんを送ってきます。送った後にどうするかは、まだ決めていません」

「ああ。あのお嬢ちゃん、冒険者登録をするって話だったな。なあ、ガリオ……」


 グラドス支部長は途中まで言いかけて、そのまま口を閉じる。また何か考え事をしているようだ。


「支部長?」

「……いや、何でもねえ。ああ、そうそう。オルソに行ったら当然ジョンの店にも寄るんだろ。あいつにもよろしく言っておいてくれや」

「はい、分かりました。じゃあ行ってきます」


 はっきりしないグラドス支部長の態度に首を(かし)げながら、ガリオは部屋を出て行った。

 グラドス支部長は残ったコーヒーを飲み干し、窓の外を見ながら(ひと)りごちた。


「『精霊殺し(エレメンタルキラー)』のガリオと、それを知ってか知らでかガリオを護衛(ごえい)(やと)ったティフォーネとかいう女。ガリオの奴も苦労(くろう)するんだろうなあ」


 ガリオが美少女に振り回される光景を思い浮かべ、苦笑(くしょう)するグラドス支部長。

 だが、自分と親しかったガリオの両親のことを思い出し、グラドス支部長は予想(よそう)とは異なる未来の可能性も考え始めた。


「……いや、振り回されて苦労するのは、案外(あんがい)あのお嬢ちゃんのほうかもな」


 支部長室を出たガリオは、すぐにティフォーネの()つ馬車に向かった。

 馬車の前には男性冒険者たちが集まっており、御者台(ぎょしゃだい)の上にいるティフォーネと談笑(だんしょう)しているようだった。

 

「お待たせ、ティフォーネさん。遅くなって、申し訳なかったね」


 ガリオは男性冒険者たちの隙間(すきま)()って、ティフォーネがいる御者台に素早(すばや)(のぼ)った。

 彼の座るスペースを開けて待っていたティフォーネは、明るい笑顔で出迎(でむか)えた。


「いいえ。皆さんと楽しくおしゃべりしてました。もういいんですか?」

「ああ。すぐに城塞都市オルソに出発するとしよう」

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第27話 宿場町ピノトー①「名前の呼び方」


※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※毎日投稿していますので、ブックマークすると便利です

※活動報告もチェックしてもらえると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ