第27話 勝負の後始末⑤「二人の旅立ち」
「まあ待て。さっきも言ったが、俺も聞いたばかりでよ。詳しい話はうちのスタッフにしてもらうが───」
グラドス支部長の発した言葉を、ガリオはすぐには理解できなかった。
「───アーノルドたちが消えたらしい」
「えッ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
グラドス支部長は、驚きのあまり声も出ないガリオの顔を見て、面白がるようにニヤリと笑った。
「驚いただろう? 俺も最初に聞いたとき、訳が分からなかったぜ」
まだ立ったままのガリオにソファーに座るよう促すと、グラドス支部長は女性の秘書にコーヒーを2つ入れるように頼んだ。
そして、自分もドッカリと深くソファーに座る。
一方のガリオは、グラドス支部長の「消えた」という言葉を聞いて、深刻そうな顔をしてジッと固まっていた。
「……昨日、あの勝負のあと、アーノルドたちに会ったか?」
「いいえ、あれからは会ってません」
「そうか。ところで、あのお嬢ちゃんとは、昨日からずっと一緒だったのか?」
「ティフォーネさんですか? 彼女とは昨日の昼過ぎに、冒険者協会の前で別れましたよ。それから俺は家に帰って、旅の準備をしていました。彼女とまた会ったのは、今朝になってからです」
「そうか……」
「グラドス支部長。ティフォーネさんがどうかしたんですか?」
「うーむ」
グラドス支部長は太い両腕を組み、思案顔になって黙り込んでしまった。
ガリオも何かを考えている彼の邪魔にならないよう、静かに言葉の続きを待っていた。
「ガリオ、あのお嬢ちゃんは───」
「お待たせしました」
グラドス支部長が何か言いかけたちょうどその時、二人のスタッフが部屋の中に入ってきた。
女性秘書のほうはコーヒーを2つテーブルに並べて部屋を出ていったが、もう一人の男性スタッフはジャラジャラと音がする赤い袋を持って、そのまま待機している。
グラドス支部長は部屋に残ったスタッフにも、ソファーの空いている所へ座るよう促した。
「夜勤明けで寝てないのにすまんな。アーノルドたちのこと、詳しい状況を俺たちに聞かせてくれるか?」
「はい。今日の未明なんですが、突風騒ぎがあってしばらくしてから、アーノルドさんのパーティーの3人が協会に来られたんです」
「えッ?」
驚くガリオをよそに、グラドス支部長の横に座ったスタッフが、ゆっくりと説明を続けた。
彼は一晩中働いていたらしく、疲れている様子がありありと見える。
「アーノルドさんたちは、なんだか慌てているようでした。それで、俺たちはこの国から消えるからガリオさんに渡してほしいと、これを預かりました」
そういってスタッフは、膝に抱えていた赤い袋をテーブルの中央に置いた。
ガチャガチャとたくさんの金属がこすり合わさる音がする。
「一応こちらで中身を確認したんですが、金貨がおよそ100枚入ってました」
「ほほう?」
「はあッ! なんでそんな大金を俺に渡すんですかッ!」
金貨100枚といえば、普通の家族が数年働かずに生活できるほどの大金である。
実際にアーノルドたちと話したスタッフのほうも、彼らの態度にかなり困惑しているようだった。
「私たちもアーノルドさんに理由を聞いたんですが、詳しい事情も教えてくれず、ガリオさんへの迷惑料だとしか言わなくて……。それで町を離れる手続きだけ済ませると、早々に出て行ってしまいました」
「迷惑料って……」
ガリオはとても混乱していた。昨日の勝負で、彼らは立派な馬車をガリオに取られている。
そのうえ、大量の金貨までガリオに渡すように言い残して国を出て行ってしまったのだ。
3人組が何を考えているのか、ガリオにはまったく理解できなかった。
「以上です」と言ってスタッフは手元のメモ帳を閉じると、二人に一礼をして支部長室を出て行った。
グラドス支部長はフンッと鼻息を鳴らすと、テーブルの上に残された金貨入りの袋を見ながら言った。
「良かったじゃねえか。あの3人組はもうこの町にはいないようだし、この金貨100枚は正式にお前のもんだ」
「……アーノルドたちは、なぜこんなことをしたんでしょうか」
「さあな。昨日大勢のギャラリーの前で冒険者レベル2のお前に負けて、プライドがズタズタになったっていうのが、一番分かりやすいんだが……」
「でも、この金貨を残していく理由が分かりません」
「そこだよなあ」
グラドス支部長はいったん言葉を打ち切って、天井を仰ぎ見る。そして、ボソリと一言呟いた。
「あのお嬢ちゃんが何かしたのかもな」
「え? ティフォーネさん?」
グラドス支部長はそれ以上何も言わずに、コーヒーを一口飲んだ。
ガリオもグラドス支部長の重苦しい雰囲気に呑まれてしまい、無言のままコーヒーをすべて飲み干した。
「ガリオ、この後どうするんだ?」
「城塞都市オルソまでティフォーネさんを送ってきます。送った後にどうするかは、まだ決めていません」
「ああ。あのお嬢ちゃん、冒険者登録をするって話だったな。なあ、ガリオ……」
グラドス支部長は途中まで言いかけて、そのまま口を閉じる。また何か考え事をしているようだ。
「支部長?」
「……いや、何でもねえ。ああ、そうそう。オルソに行ったら当然ジョンの店にも寄るんだろ。あいつにもよろしく言っておいてくれや」
「はい、分かりました。じゃあ行ってきます」
はっきりしないグラドス支部長の態度に首を傾げながら、ガリオは部屋を出て行った。
グラドス支部長は残ったコーヒーを飲み干し、窓の外を見ながら独りごちた。
「『精霊殺し』のガリオと、それを知ってか知らでかガリオを護衛に雇ったティフォーネとかいう女。ガリオの奴も苦労するんだろうなあ」
ガリオが美少女に振り回される光景を思い浮かべ、苦笑するグラドス支部長。
だが、自分と親しかったガリオの両親のことを思い出し、グラドス支部長は予想とは異なる未来の可能性も考え始めた。
「……いや、振り回されて苦労するのは、案外あのお嬢ちゃんのほうかもな」
支部長室を出たガリオは、すぐにティフォーネの待つ馬車に向かった。
馬車の前には男性冒険者たちが集まっており、御者台の上にいるティフォーネと談笑しているようだった。
「お待たせ、ティフォーネさん。遅くなって、申し訳なかったね」
ガリオは男性冒険者たちの隙間を縫って、ティフォーネがいる御者台に素早く上った。
彼の座るスペースを開けて待っていたティフォーネは、明るい笑顔で出迎えた。
「いいえ。皆さんと楽しくおしゃべりしてました。もういいんですか?」
「ああ。すぐに城塞都市オルソに出発するとしよう」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第27話 宿場町ピノトー①「名前の呼び方」
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