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第26話 勝負の後始末④「消えたアーノルド」

「それでは、皆さん───消えてください」


 その夜、ブングラスの町で突風(とっぷう)が吹き荒れ、家の窓が大きな音を立てて()れたり、風で飛ばされやすい道具などがガラガラと転がった。

 その音に(おどろ)いて飛び起きた住民も多く、そのほとんどが寝不足(ねぶそく)になったのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふぁあああ~、眠いな」


 アーノルドとの勝負に勝った翌日、ガリオは日が(のぼ)るより早く起きて、旅の準備を行っていた。ときどき、大きなあくびが()れている。

 昨晩(さくばん)、真夜中に吹いた突風の音でガリオは一度目が覚めたため、少し寝不足になっていた。


「よし、行くかッ!」


 ガリオは気合いを入れ直し、昨日新たに手に入れた馬車に乗って家を出発した。

 早朝の誰もいない田舎道(いなかみち)を、ガリオの馬車は順調(じゅんちょう)に進む。

 いくつもの大きな畑の横を通り過ぎると、川の向こうにあるブングラスの町並みが見えてきた。


 ブングラスの町に入るには、川に()かる大きな橋を渡らなければならず、橋の入り口には衛兵(えいへい)詰所(つめしょ)があった。

 詰所では、衛兵が町を出入りする人間を見張(みは)っており、不審人物(ふしんじんぶつ)が町に入らないように昼夜(ちゅうや)を問わず警戒(けいかい)している。


「ガリオ様ああああああ!」


 早朝にも関わらず、詰所の前でティフォーネが大きく手を()っていた。

 見るからに元気いっぱいの様子だ。

 彼女のそばには若い衛兵が立っており、その顔はなぜか真っ赤だった。


 ガリオの馬車が橋に近づくと、ティフォーネがタタタッと()け寄ってくる。

 そして彼女は馬車の前で立ち止まると、ガリオに向かって頭を下げた。


「おはようございます、ガリオ様」

「ティフォーネさん、おはよう。今日も元気みたいだね。待ち合わせは冒険者(ぼうけんしゃ)協会(きょうかい)の前だったはずだけど?」

「すみません。さっきまでいたんですけど、待ち切れなくてここまで来ちゃいました」


 ()ずかしそうに笑うティフォーネ。

 一方の若い衛兵は、さきほどまで一緒に話していた美少女が魅力的(みりょくてき)な笑顔をガリオに向けているのを見て、(くや)しそうに舌打(したう)ちしていた。


「そういえば、さっき冒険者協会の中がバタバタしてて、スタッフの人がグラドス支部長とガリオ様を探してるみたいでしたよ」

「えッ? なんだろう。昨日のことで何かあったのかな」


 冒険者協会には後で寄るつもりだったので、ガリオは早速向かうことにした。彼の隣には、ティフォーネが(おさ)まっている。


「そういえば、昨日の真夜中に突風(とっぷう)が吹いてね。音が(すご)くて飛び起きたんだ」

「へー。そうだったんですね……」

「ブングラスの町のほうはどうだった? やっぱり風が強かった?」

「えーっと、どうだったかなあ……。そうそう! ぐっすり寝てて気が付きませんでした!」


 ガリオの問いかけに、なぜかティフォーネの目はどこか泳いでいるようだった。

 ガリオとティフォーネは冒険者協会の前に到着(とうちゃく)すると、馬車を降りて建物(たてもの)の中に入った。

 すると、先ほどティフォーネが言ったように協会の中はザワザワしていて、スタッフが走り回っていた。


「あ、ガリオさん! 良かったあ、こんなに早く来てくれて……」


 二人を見つけたスタッフの女性が、ホッとしたような顔をしてパタパタと近づいてきた。

 ガリオは、昨日のことで何かお(とが)めを受けるのではないかと、少し緊張(きんちょう)している。


「シェリーさん、おはようございます。一体何があったんですか? 随分(ずいぶん)(さわ)がしいですね」

「そうなんですよ。でもここではマズイので、支部長の部屋に来てもらっていいですか?」

「分かりました」


 ガリオは受付係のシェリーの後ろに付いて行こうとしたが、後ろにいるティフォーネのことが気になった。


「彼女が一緒にいても大丈夫ですか?」

「えっと……確か、ティフォーネさんはガリオさんのパーティーメンバーとして登録(とうろく)されていませんよね?」

「ええ。ずっとソロでやってます」

「そうですよね。すみませんが、ティフォーネさんは同席(どうせき)できません」


 申し訳なさそうに頭を下げるシェリーに、ガリオが慌ててそれを止める。

 そして後ろを振り返ると、ティフォーネに馬車で待つように言った。


「ティフォーネさん、しばらく馬車で待っててもらえる? 話が長くなるようなら、後で伝えるようにするから」

「はい、分かりました!」


 ティフォーネは手を上げて元気よく返事をすると、表に()めてある馬車に戻っていった。

 冒険者協会の出入口から出ていったティフォーネと入れ違いになるように、今度は受付の奥からグラドス支部長が姿を現した。

 自宅から大急ぎで出勤(しゅっきん)してきたのか、彼はまだ手荷物を持ったままで、大きく肩で息をしている。


「おお。ガリオ、早かったな。俺もさっき聞いたばかりでよ。詳しい事情は俺の部屋で説明するから、ついてこい」

「あ、はい」


 グラドス支部長はガリオに手招(てまね)きをすると、先に階段を上がっていった。

 ガリオも急いでグラドス支部長の後を追う。彼は冒険者協会の2階に上がるのは、久しぶりのことだった。

 いくつかの部屋の前を通り過ぎて、二人は廊下の一番奥にある支部長室に入った。


「そこに座ってくれ。コーヒーでいいよな」

「ありがとうございます。一体何があったんですか?」

「まあ待て。さっきも言ったが、俺も聞いたばかりでよ。詳しい話はうちのスタッフにしてもらうが───」


 グラドス支部長の(はっ)した言葉を、ガリオはすぐには理解(りかい)できなかった。


「───アーノルドたちが消えたらしい」

「えッ?」

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第27話 勝負の後始末⑤「二人の旅立ち」


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