第25話 勝負の後始末③「真夜中の衝突」
そして、真夜中を過ぎたころ───
真っ暗な村の中を、ガリオの家に向かう3つの人影があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ガリオのおっさんの家は、この先で間違いないな?」
3人組の正体は、ガリオとの勝負に負けたアーノルドたちだった。
アーノルドが地図を持った仲間のイエーガーに、ガリオの家の場所を確認する。
彼らは暗視の魔法を使っており、暗闇の中でも手元の地図や周りの景色がよく見えていた。
アーノルドたちは、各々が得意とする武器を手に持つなど、完全に武装している。
もし、昼間にそんな姿で歩いていたら、村中が大騒ぎになるところだ。
「ああ。だけど、本当にティフォーネちゃんも一緒にいると思うか?」
「盗賊のお前が調べても、居場所が分からなかったじゃねーか。だとしたら、残るはガリオのおっさんの家しかないだろ」
盗賊であるイエーガーは、ブングラスの町にあるすべての宿を調べた。
しかし不思議なことに、他の町から来たであろうティフォーネが、ブングラスの町にある宿に泊まっている様子はなかった。
あの目立つ容姿のティフォーネである。もし宿にいれば、必ず情報が出てくるはずだ。
アーノルドたちの目的は、ガリオに奪われた馬車を取り戻し、さらにティフォーネを誘拐していこうという魂胆だった。
「ティフォーネちゃんのせいで、僕たちは大恥をかいたんだ。奴隷にして、一生こき使ってやる」
「ああ。まったくだ」
もう一人の仲間のウィリアムが憎々しい顔でつぶやくと、アーノルドたちも同意した。
彼らはあの美しいティフォーネを、思う存分辱めることしか考えていなかった。
「ガリオのおっさんさえ黙らせれば、あとはあの子一人だ。手早く済ませて、さっさと他の国に移動するぞ」
「アーノルドの言うとおりだ。明日になれば、ブングラスの町は大騒ぎになるだろうしな」
「くっくっく。ティフォーネちゃんと愛の逃避行というわけだ」
3人組は黒い笑みを顔に浮かべながら、村の中を静かに進んでいった。
そして、ガリオの家がもう少しで見えるところまでやってきた時だった。
「しッ!」
突然、イエーガーが身をかがめて左手を横に突き出し、二人を停止させる。前方に鋭い視線を向ける彼の頭上には、白い燐光が出現した。
燐光は、契約精霊が召喚される前兆である。
「そこにいるのは誰だ」
イエーガーが道の脇の木立に向かって声をかけた。
それと同時に、彼の目の前に白い魔法陣が出現し、中から灰色の2匹の大きな狼が姿を現した。
その狼の姿をした精霊の名前は、能風精グレーター・ウルフ。ともに3メートルほどの大きさで、鋭い牙をむき出しにして威嚇している。
「こんばんは」
女性の声がして林の中から出てきたのは、アーノルドたちが探していたティフォーネだった。
彼女はゆっくりとした足取りで、3人の前に立ち塞がる。
3人組は、ギョッと驚いて顔をこわばらせる。真夜中過ぎのこの時間に、まさかティフォーネが一人で現れるとは、まったく予想していなかったからだ。
白いマントに身を包んだ彼女の姿は、暗闇の中でも輝いているように見えた。
「ガリオのおっさんもいるのか?」
「いいえ。私一人だけですよ」
アーノルドが周囲を警戒するが、それを否定したティフォーネの声は明るかった。
笑みを浮かべる彼女の様子は、昼間と変わることなく3人を恐れる様子がない。
───それは、異様な光景だった。
真夜中の田舎の村で、完全武装した男3人に対して美しい少女が1人で向かい合っているのだ。
しかも、弱い立場のはずのその少女は、逃げることも誰かに助けを求めることもしていない。
「もしかしたらアーノルドさんたちが来るんじゃないかなーって、ずっと待ってました」
彼氏と待ち合わせをする女の子のように話すティフォーネ。
屈託のないその笑顔に、アーノルドたちは寒気を覚えた。
自分たちはレベル4の冒険者で、彼女はこれから冒険者登録をしようとする新人だ。
しかも彼女の周囲には、契約精霊を召喚する予兆となる燐光も見当たらない。
それにも関わらず、あの余裕は何だ。
「おい、イエーガー。本当に周りに誰か隠れていないのか?」
「……いや、感じられない。本当にあの女一人みたいだ」
「マジか……」
アーノルドがイエーガーに改めて確認するが、やはりティフォーネは一人で待っていたらしい。
ガリオがいないという事実に、アーノルドの中に少しだけ安堵の気持ちが広がった。
だが、こんな状況にも怯える様子がないティフォーネに対して、次第に苛立つ気持ちがフツフツと湧き上がってくる。
「何なんだよ、お前。何がしたいんだよ」
「おしゃべりしに来ました……といっても、信じてもらえませんよね」
3人組の怖い顔を見て、ティフォーネはふうっと小さくため息を吐いた。
「帰ってもらえませんか?」
「……なに?」
「ガリオ様から馬車を盗んでいく予定だったんですよね? でもほら、こうして私にバレちゃったわけだし」
ティフォーネの能天気とも取れるその言葉に、アーノルドのイライラは頂点に達した。
彼は腰に差していた剣をスラリと抜いて、ティフォーネに向ける。
「そんな甘いもんじゃねえよ。なめてんのか、てめえ」
他の二人もアーノルドにならって、武器を構える。彼らもティフォーネの言葉にイラついていた。
ティフォーネに見つかったからといって、「はい分かりました」と帰る3人ではない。
こちらは大人の男性が3人で、向こうは少女1人なのだ。ティフォーネに今の状況をどう覆せようか。
「痛い目にあいたくなかったら、さっさと降参しな」
「そうだぜ。その白い肌をあんまり傷つけたくないんだけど」
「僕たちが、大人の世界ってやつをたっぷり教えてあげるよ」
忠告に耳を貸さない3人組に対して、ティフォーネは冷たい笑みを深めた。
そして、体の前のほうに流れていた銀色の髪を、優雅な仕草でパッと後ろに払った。
「精霊魔法『風の支配域』」
ティフォーネの両腕がほのかに白く光るのを見て、アーノルドたちはパッと散開する。
精霊魔法に対して、固まっているのは危険だからだ。
「なッ! 無詠唱だとッ!」
「聞いたことない魔法だぞッ!」
ティフォーネが魔法を使ったのを確認したものの、聞いたこともない名前だったため、どんな効果があるのか誰も分からなかった。
3人はお互いの無事を確認し合い、ティフォーネを睨みつける。
「悪ふざけが過ぎるな、ティフォーネちゃん」
「本当に痛い目を見ないと、分からないみたいだね」
すでにこの一帯は、ティフォーネの手のうちにある事を理解できないアーノルドたち。
ティフォーネは彼ら3人を、ゆっくりと一人ずつ指差していった。
「それでは、皆さん───消えてください」
その夜、ブングラスの町で突風が吹き荒れ、家の窓が大きな音を立てて揺れたり、風で飛ばされやすい道具などがガラガラと転がった。
その音に驚いて飛び起きた住民も多く、そのほとんどが寝不足になったのだった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第26話 勝負の後始末④「消えたアーノルド」
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