第23話 勝負の後始末①「おとぎ話の勇者とお姫様」
ガリオの脳裏に、遠き日の父親の姿が浮かんでいた。その父親が何度も繰り返し言っていたことがある。
「人の強さは……困難にぶつかっても、何度も立ち上がる強い気持ちで決まるんだッ!」
ガリオは右手の木剣を手放すと、アーノルドの横っ面を思い切りぶん殴った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオの拳を顔面にまともに食らったアーノルドは、一瞬で意識が刈り取られた。
だが、意識を失う寸前、以前告白して振られた女の子の言葉が頭の中に浮かんだ。
『あなた自身が変わらない限り、ガリオさんには一生勝てませんよ』
(───俺はまた負けるのか)
もんどりうって、大の字になるアーノルド。彼は完全に意識を失い、白目を剥いていた。
「アーノルドオオオ!」
「しっかりしろー!」
土手のほうから、アーノルドの仲間の二人が彼のところに駆け寄っていく。
ガリオはその様子を横目で見ながら、土手のほうへ戻っていった。
───パチパチパチ パチパチパチ
───ピューピュー! すげーよ、あんた!
ガリオが戻ってくると、大勢のギャラリーから拍手と歓声が上がった。
木剣1本であんな強そうな能火精ファイア・リザードに挑んだ勇気あるガリオの姿に、皆が興奮していた。
そんな状況の中に戻ってきたガリオは、恥ずかしそうにペコペコと頭を下げる。
「ガリオ様、凄く強かったですッ! びっくりしましたッ!」
「ありがとう。心配かけたね。なんとか勝つことができたよ」
ティフォーネがパチパチパチと懸命に拍手をしながら、ガリオを出迎えた。
そして、彼女の横には見覚えのない5歳くらいの小さな女の子が、目をキラキラさせて立っていた。
「ゆうちゃしゃまー! だっこおー!」
「え? え?」
その女の子はガリオの前にパタパタと走って来ると、両手を精一杯上に伸ばしている。
ガリオが戸惑っていると、ティフォーネがプッと吹きだして笑いながらフォローする。
「マリーちゃんです。ファイア・リザードと戦うガリオ様をずっと応援してたんですよ」
「そうか、ありがとうね」
ガリオが後ろのほうを見ると、母親らしき優しそうな女性が「お願いします」と頭を下げていた。
彼はニコリと笑ってひとつ頷くと、マリーちゃんと軽々と持ち上げた。
「ママーママー、みてー! マリー、おひめしゃまだよー!」
「マリー、良かったわね」
和やかな空気がガリオたちの周りを包み込んだ。嬉しそうに笑うマリーちゃんを皆が暖かい目で見守っている。
そこに、冒険者協会のスタッフと打ち合わせを終えたグラドス支部長が戻って来た。
「人気者だな、ガリオ。さしずめ、勇者ニルヴァーナとローザ姫ってところか?」
「そうだよー! マリーねー、ローザひめだよー!」
「可愛いお姫様だね」
大喜びのマリーちゃんの頭を、ティフォーネが優しくなでていた。
ローザ姫とは、有名なおとぎ話に出てくる『勇者ニルヴァーナとローザ姫』のことだ。
おとぎ話では、悪いドラゴンに攫われたローザ姫を勇者ニルヴァーナが助け出し、最後に二人は結婚して幸せに暮らすという内容になっている。
「ガッハッハ。ガリオも早くローザ姫みたいな嫁さんを見つけないと、俺も安心できんぞ」
「ちょッ! 支部長ッ!」
顔を真っ赤にするガリオを見て、周りのギャラリーたちも楽しそうに笑っていた。
そして、グラドス支部長は訓練場に残っているギャラリーに、さっさと解散するように呼びかけ始める。
「ガッハッハ。さあ、解散するぞ! 町に戻らんと、そろそろ昼メシの時間だ!」
「ゆうちゃしゃま、またねえー!」
訓練場に残っていたギャラリーがそれぞれに明るい顔をして、ブングラスの町に戻っていった。
特にグラドス支部長は、冒険者協会のスタッフに引きずられるように出ていったのだった。
あとに残っているのは、ガリオとティフォーネの二人だけだ。
「これ、どうしよう……」
ガリオが呆然とした表情で、アーノルドたちの残していった立派な馬車を眺めていた。購入しようとすれば、恐らく金貨100枚以上するはずだ。
いきなりこんな物をもらっても、彼の気持ちは嬉しさよりも戸惑いの方が勝っている。
もともと、この馬車を賭けの対象にしようと言い出したのは、ガリオではなくティフォーネのほうだったからだ。
「ガリオ様、大丈夫です。城塞都市オルソまでの足が必要だったので、この馬車で私を連れて行ってもらえませんか?」
ティフォーネが嬉しそうにガリオにお願いする。彼女は大きな2頭の馬の頭をなでなでしたり、広い馬車の中を見てキャーキャー喜んでいた。
そんな彼女のはしゃぐ姿を見ながら、ガリオは護衛クエストのことを考えていた。
「もちろん構わないよ。ただ、ティフォーネさんに確認しておきたいことがあるんだ」
ガリオが神妙な面持ちでティフォーネに話しかける。
それを見たティフォーネは、馬車の見学を中断してガリオの前に戻ってきた。
「はい。なんですか?」
「ティフォーネさんは冒険者登録をするために、城塞都市オルソに行きたいんだよね」
「そうです」
「その護衛クエストを俺に依頼したいって話だけど、お金のほうは大丈夫なのか?」
護衛クエストとは、指定された期間中、冒険者が依頼主を危険から守るクエストである。
そのため、護衛クエストの成功報酬はもちろん、冒険者の食費や宿泊費などの必要な経費も、基本的には依頼主が負担することになっている。
護衛する冒険者のレベルや人数によってまちまちだが、護衛クエストにかかる費用は、薬草採取や魔物討伐などの他のクエストに比べて高い傾向にあった。
「実はそのことでガリオ様に相談があって……」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第24話 勝負の後始末②「不審な影」
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