第22話 ガリオの実力⑪「人の強さ」
彼女は両手を後ろに組んでマントの中に隠し、スーッと息を吸い込んで意識を集中する。
「精霊魔法『風の支配域』」
すると、訓練場全体に一陣の涼やかな風が吹き抜けていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
訓練場全体を自分の魔力の支配下に置いたことを確認したティフォーネは、さらに集中するために目を閉じる。
彼女の脳裏は、『風の支配域』内にある膨大な情報であふれていた。この訓練場は、さながらティフォーネの箱庭みたいなものだ。
(ガリオ様の邪魔はさせません)
ティフォーネは膨大な情報の中から、アーノルドの仲間二人が精霊界から魔力を受け取っている魔力回路を見つけた。
そして、『風の支配域』内に満ちた自分の魔力を操作し、ためらうことなくその回路を封鎖する。
「あ、あれ?」
「お、おい。魔力が切れちまったぞッ!」
突然起こった異常事態に、あたふたと狼狽する二人。
何度も精霊魔法を使おうとするが、魔法の発動に必要な魔力が精霊界から供給されて来なかった。
精霊と契約した人間は、精霊の力の一部を精霊魔法として使うことができ、それは自分の魔力を使う白魔法や黒魔法に比べると難しくない。
だが、魔力回路が途切れてしまえば、精霊魔法はおろか契約精霊も召喚することができなくなる。
「くそッ! どうなってんだッ!」
「おい、アーノルドがやばいって!」
そんな二人を、遠くからティフォーネが冷たい目で見ていた。
すでに彼女は『風の支配域』を解除しているが、彼らの魔力回路はしばらくの間封鎖したままにしてある。
「ん? どうかしたのか?」
グラドス支部長はガリオのほうを見ていなかったティフォーネに、声をかけた。
パッと顔を上げたティフォーネは、小さな頭をフルフルと横に振るとグラドス支部長にニコリと微笑んだ。
「いえ、なんでもないです」
アーノルドが再度放った精霊魔法『ファイア・ランス』を悠々と回避したガリオは、そのまま攻撃に転じた。
彼の体調は、ほぼ元通りになっている。
「だから、おそいって言っただろッ!」
「くっそおおお! どうなってんだッ!」
いつまでたっても仲間の援護が来ないアーノルドは、絶望的な気持ちで木剣を構えた。
頼みの契約精霊は勝手にいなくなり、仲間の援護もなく、ガリオがこんな近くにいては精霊魔法も使えない。
一瞬で目の前に迫ってきたガリオに、アーノルドは全力で木剣を振り下ろした。
「うわああああああ!」
『身体強化』がかかったアーノルドの木剣は相当早かったが、ガリオには十分に対応できるものだった。
ガリオは、攻撃目標をアーノルドの木剣に切り替える。
ガーンッ!
アーノルドが振り下ろした木剣に、ガリオが横に振り抜いた木剣がぶつかり合うひときわ大きな音が、訓練場に響き渡った。
ガリオが狙ったのは、アーノルドの木剣の手元に近い部分だった。
予想していなかった大きな衝撃がアーノルドの両腕に伝わり、彼はそれに耐えきれずに木剣を手放してしまった。
「ぐわあッ!」
両腕がしびれて悲鳴を上げるアーノルド。そしてガリオの目の前には、アーノルドの無防備な胴体がさらされていた。
ガリオは左に流れた木剣を切り返し、その隙だらけの胴体に思い切り叩きこんだ。
「かはッ!」
アーノルドの体はくの字に折れ曲がって、そのまま地面に跪いた。
彼は呼吸もままならず、両手でお腹を押さえている。
そんなアーノルドの目の前に、煤や泥で薄汚れたガリオが、木剣の先端を突き付けた。
「もう降参しろ、アーノルド」
ガリオの言葉にアーノルドはハッと我に返ると、自分の木剣をキョロキョロと探した。
しかし、彼の木剣は少し離れた場所に落ちていて、手を伸ばしても簡単に届きそうにない。
グッと右手で地面の砂を掴むアーノルド。
「くそッ! おっさんが冒険者レベル2なんて嘘だろ! 卑怯じゃねーかッ!」
アーノルドは叫ぶと同時に、右手の砂をバッとガリオの顔にかけた。
そしてすぐに、激しく痛むお腹を我慢して勢いよく立ち上がると、素手でガリオに殴りかかった。
バシッ!
しかしその拳は、やすやすとガリオの左手に受け止められた。
ガリオは掴んだアーノルドの拳を、そのまま握りつぶすように力を込める。
「俺は確かに冒険者レベル2だ。だけどな……」
「ちょッ! 放せよッ!」
殴りかかった拳をガリオに掴まれて、引き剥がすことができないアーノルド。
さらに足でガリオの体を蹴ったりするが、まるで石の柱を蹴っているかのように硬くてビクともしなかった。
「人の強さは契約精霊では決まらない」
「いだだだだだだッ!」
アーノルドの拳を掴んだ左手に、いっそう力を込めるガリオ。
彼はそのまま腕をひねると、アーノルドがあまりの苦痛に顔を歪めて片膝を地面につく。
ガリオの脳裏に、遠き日の父親の姿が浮かんでいた。その父親が、彼に何度も繰り返し教え聞かせていた言葉があった。
「人の強さは……困難にぶつかっても、何度でも立ち向かう強い気持ちで決まるんだッ!」
ガリオは右手の木剣を手放すと、アーノルドの横っ面を思いっきりぶん殴った。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第23話 勝負の後始末①「おとぎ話の勇者とお姫様」
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