第21話 ガリオの実力⑩「精霊アレルギー反応」
避けた尻尾がまた戻ってくるよりも早く、ガリオはファイア・リザードの横っ面を思いっきりぶん殴った。
ガンッ!
しかし彼の拳は、ファイア・リザードの硬い鱗に阻まれて、傷一つ付けることができなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
まさか素手で自分の契約精霊に殴りかかってくるとは、夢にも思っていなかったアーノルド。
殴ったままの姿勢で固まっているガリオを見て、彼は驚きの表情からゆっくりと引きつった笑みを浮かべていった。
「ば、馬鹿じゃないのか? そんなパンチで俺のファイア・リザードを倒せるわけないだろ」
ガリオの耳に、アーノルドのつぶやきが風に乗って聞こえてきた。
そして、彼はなぜか真っ青になった顔で、無理やりに口を歪めて笑ってみせる。
「いいや。俺の狙いは最初から能火精を倒すことさ」
「嘘つけッ! おっさんのパンチなんか全然効いて───」
グウウウゲエエエエエエーーー!
ガリオのパンチを受けても微動だにしなかったファイア・リザードが、突然大きな鳴き声を上げた。
ブルブルッと大きな震えの波が、ファイア・リザードの頭から尻尾の先に向かって駆け巡る。
「ど、どうしたッ! ファイア・リザード!」
これまで一度も聞いたこともなかったファイア・リザードの鳴き声に、慌てふためくアーノルド。
気が付けば、勢いよく燃えていたファイア・リザードの背びれの炎も、今はすっかり消えてしまっている。
「出たな、ガリオの『精霊殺し』」
土手のほうで勝負を見守っているグラドス支部長が、クックックと笑いを堪えていた。
その隣では、ティフォーネがガリオを応援しながらも、アーノルドの二人の仲間たちのほうにも目を配っている。
震えが収まったファイア・リザードは、パチパチッと数回まばたきをすると、予想外の行動を起こした。
自分の真後ろに赤い魔法陣を出すと、バタバタと逃げるようにその中に入ってしまったのだ。
そして魔法陣は、そのままスーッと消えてしまう。
「は、はあああああああああ?」
アーノルドは愕然としてその場に立ち尽くしている。
ファイア・リザードと契約をして何年も経つが、ファイア・リザードが自分から精霊界に帰ってしまうことなど一度もなかったからだ。
契約精霊を退場させられてしまったアーノルドは、その原因となったガリオのほうに恐々と目を向けた。
するとそこには、顔面が蒼白になって苦しそうな呼吸をするガリオの姿があった。
「はあ……はあ……」
薄い手袋ごしではあるものの、ファイア・リザードに直接触れたガリオの右腕は、力なくだらんと下がっていた。
そして、アーノルドに見られていることに気づくと、ガリオは左手に持つ木剣をゆっくりと構えた。
「さあ、最後の勝負だ。かかってこいッ!」
ガリオは力が入らない右腕をそのままに、自分の体に無詠唱の『身体強化』をかけてアーノルドを睨みつける。
だが、彼は自分から動こうとはしなかった。
「ファイア・リザード!」
ガリオが動かないことを好機とみたアーノルドは、再び契約精霊を召喚しようとするが、ガリオの木剣の一振りでそれも上手くいかなかった。
さらに、アーノルドは短い呪文を唱えると、ガリオのほうに木剣の先を向ける。
「精霊魔法『ファイア・ランス』!」
すると、ぼんやりと赤く光った木剣の先から槍状の炎が伸びて、ガリオに向かっていった。
だが、『身体強化』のかかったガリオは、その炎の槍をヒラリと跳んで躱す。
「おそいッ!」
着地した先でガリオは、少し血色の良くなった顔にニヤリと笑みを浮かべると、右腕をゆっくり持ち上げて、手の平を上してクイクイッと手招きした。
ガリオの挑発にカチンときたアーノルドは、木剣をギュッと握り締める。
「精霊魔法『身体強化』! おらああああああ!」
自分の体を精霊魔法で強化したアーノルドは、全力でガリオに斬りかかっていった。
ガリオも動くようになった右手を木剣に添えて、防御の姿勢でアーノルドを迎え撃つ。
カンッカンッカンッカンッ!
アーノルドが左右から勢いよく木剣を叩きこむが、ガリオはその攻撃をうまく受け流していた。
契約精霊に頼ってきたアーノルドと違い、ガリオは剣術の稽古もずっと欠かさなかったため、剣の扱いではガリオのほうに軍配が上がっている。
「フーッ、フーッ」
精霊アレルギーのせいで調子が落ちていたガリオだったが、剣を打ち合っている間に体が元に戻りつつあった。
アーノルドにも、次第にガリオの木剣に力が入っていくのが分かる。
ファイア・リザードがいない状態では、この勝負に勝てない。そのことを察したアーノルドは、最後の手段に打って出ることにした。
「おらああああああ!」
「ぬおッ!」
最後に体当たりするような渾身の一撃をガリオに打ち込むと、アーノルドは後方に飛びすさる。
そして、また精霊魔法『ファイア・ランス』の詠唱を始めた。その際、彼は一瞬だけチラリと土手のほうに視線を送る。
「よし、やるぞッ!」
「ああッ!」
アーノルドの視線を受け取った二人は、周りにいるギャラリーが勝負に集中しているのを確認すると、小さな声で精霊魔法の詠唱を始めた。
周りに見えないように隠した彼らの手の平は、ガリオのほうを向いている。
すると、彼らの手の平がぼんやりと光り出した。
アーノルドの考えた作戦は、仲間の二人の精霊魔法でガリオが逃げられないようにすることだったのだ。
しかし、そんな彼らの動きを遠くから見つめる者がいた。ティフォーネだ。
彼女は両手を後ろに組んでマントの中に隠し、スーッと息を吸い込んで意識を集中する。
「精霊魔法『風の支配域』」
すると、訓練場全体に一陣の涼やかな風が吹き抜けていった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第22話 ガリオの実力⑪「人の強さ」
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