第2話 出会い②「ジャンナ、しす」
(すまないな。もう限界みたいだ)
目の前にいる人に申し訳なく思いながら、俺は意識の手綱をパッと手放す。
ただ、最後の瞬間、俺は何か温かいものに全身が包まれたような気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こ、ここはどこなのッ!」
風の四大精霊であるジャンナが目を開けると、そこは見覚えのない薄暗い場所だった。
ジャンナは数秒前まで、仲間たちと一緒に最悪の魔物コエ=ガスと戦っていたのである。
コエ=ガスとの数時間に及ぶ長い戦いの末、全員で止めを刺そうとした瞬間、その魔物がいきなり咆哮を上げた。
不意を突かれて魔物の咆哮を不用意に浴びてしまったジャンナは、次の瞬間にはこの見覚えのない場所に瞬間移動したようである。
「他の皆はッ!」
ジャンナが周りを見回すが、先ほどまで一緒にいた仲間たちの姿がない。また、最悪の魔物コエ=ガスの巨体も。
その代わりに、目の前には全身血だらけのおっさんが倒れていた。
どういう訳か、その姿を見ているとブルッと悪寒が走る。
そしてジャンナは、自分の体から急速に魔力が抜けていくのを感じ取った。
「あああ! ケイル王子との契約が切れてる!」
風の四大精霊であるジャンナは、西の王国のケイル王子と契約をしていたのだが、今はなぜかその契約が解消されていた。
通常はケイル王子の魔力回路を通じて、精霊界から魔力の供給を受けることにより、ジャンナは人間界に存在することができる。
しかし、その契約が切れてしまっては、精霊界からの魔力が途絶えてしまい、このままではジャンナは消えてしまう。
「コエ=ガスの仕業ね。ケイル王子のところに戻って契約を結び直したいけど、魔力が足りないし……」
コエ=ガスとの戦いで大量の魔力を失ったうえ、ケイル王子との契約を切られた今のジャンナには、彼のところに戻るだけの魔力が残っていなかった。
「……このおっさんとの契約に賭けるしかないわね」
このおっさんは冒険者のような恰好をしているのに、精霊と契約をしている様子がなかった。
それはラッキーなのだが、残る問題はこのおっさんが四大精霊に魔力を供給できるほどの、人並み外れた魔力回路を持っているかどうかである。
四大精霊と契約できた人間は、歴史上でも数が少ない。
今代、四大精霊と契約できた人間は、西の王国のケイル王子ただ一人だと言われている。
そのため、精霊の階級の中で最も位階の高い四大精霊のジャンナが、今代の最強精霊と謳われているのだ。
どうやらこの付近に、このおっさん以外の人間の姿はないようだ。しかし───
「なんでこんなに気持ち悪いのよぉ!」
ジャンナの紅い大きな瞳に、大粒の涙があふれ出す。おっさんの見た目が問題なのではない。
彼女には、おっさんの全身から四大精霊をも寄せ付けない、気持ち悪いオーラが漂っているように感じられるのだ。
ジャンナの姿は、10代前半の少女の姿まで小さくなっている。残された時間は少ない。
「ううう……」
半泣きになりながら、恐る恐る両手をおっさんの顔に近づけるジャンナ。
遠目からこの森の小精霊たちが、二人の様子を眺めていた。
おっさんの顔に添えた彼女の両腕には、サブイボがびっしりと生えている。
ジャンナは、どちらが死にかけているのか分からないほど真っ青になった顔をおっさんの顔に近づけ───
───チュッ!
「んっ!」
キスをした瞬間、ジャンナの両目が限界まで見開かれる。
これまで感じたことが無いほどの魔力が、怒涛の如くジャンナの全身に流れ込んできたのだ。
「んんんんんん!」
その膨大な魔力は一瞬でジャンナの体を満たすと、留まるところを知らずに、そして───
「ヴッ───! おえええええええええ!」
ジャンナの可愛い口から、キラキラしたものが勢いよくあふれ出し、ガリオの全身にビチャビチャと降り注いだ。
二人の様子を眺めていた小精霊たちは、「私は何も見てませんよ」と言うように、スーッとその姿を消していった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第3話 出会い③「体の変化」
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