第19話 ガリオの実力⑧「能火精ファイア・リザード」
「確かに契約精霊もいない冒険者レベル2のおっさんに、アーノルドのファイア・リザードをどうにかできると思えないな」
「けどよ。アーノルドがそんな作戦でくることは、当然ガリオのおっさんも想定してるだろ」
「……ああ。だから、お前らにやって欲しいことがある」
アーノルドは暗い笑みを浮かべると、自分の考えた作戦を他の二人に伝えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おいおい、ガリオ。もう勝負はついたんだから、どこに再戦する必要があったんだ? お前ひとりの問題じゃないんだぞ」
訓練場の土手のところに戻って来たガリオに、グラドス支部長が呆れた表情で声をかけた。
彼の隣に立つティフォーネがニコニコと曇りのない笑顔を浮かべるのを見て、ガリオの顔がサッと青ざめた。
「すまない! ティフォーネさんに何の断りもなく、アーノルドと勝手にあんな約束をしてしまって!」
両手を合わせて頭を下げるガリオに、ティフォーネは笑顔をそのままに首を左右に振る。
そして、彼に頭を上げるように言った。
「大丈夫ですよ、ガリオ様。私は反対してるわけじゃないんです」
「そ、そうか」
ガリオは彼女が怒っていないことに安心して、ホッと息をついた。しかし、それも一瞬のことだった。
ティフォーネは右手の人差し指を自分の頬に当てて、軽く頭を傾ける。
「でも、ちょっとくらい私のことを気にかけて欲しかったなーって」
「も、申し訳ありませんッ!」
ガリオは全身に大汗をかきながら、先ほどよりも腰を深く曲げて頭を下げた。
それを見たティフォーネは、慌ててガリオを止める。
「じょ、冗談ですよ、ガリオ様! すみません! 本当に何にも思ってませんから!」
二人のやり取りを見ていたグラドス支部長は、ハァーッとひとつ大きなため息を吐いた。
そして、真剣な顔をしてガリオに鋭い視線を向ける。
「それで、冒険者レベル4のアーノルド相手にあんな大胆な提案をしたからには、何か勝算があるんだろうな」
「あー、それなんですが……」
グラドス支部長の迫力に押されて、ガリオは少し恥ずかしそうにポリポリと頭をかいた。
「実は、あんまり考えてないんですよ」
「はあああ?」
「ウフフッ!」
大きく口を開けて呆気にとられるグラドス支部長と、両手を口に当てて笑いを吹き出すティフォーネ。
そんな彼らを見てガリオは苦笑しながら、話し合いを続けるアーノルドたち3人組のほうに顔を向けた。
「彼らはとても優秀すぎて、これまで人生の中で失敗も挫折も知らないんでしょう」
ガリオはアーノルドたちを見ながら、過去に自分が味わった辛酸を嘗めるような絶望した日々のことを、少しだけ思い出していた。
「そんな明るい道ばかり歩んできた彼らの、乗り超えるべき困難な壁というやつに俺がなってやろうかなと……」
グラドス支部長はフッと鼻で笑うと、ガリオの背中をドンッと思いきり叩いた。
「ゴホゴホッ」と咳き込むガリオを見て、彼はニヤリと口の端を持ち上げる。
「言うようになったじゃねえか、ガリオも。まあ、せいぜいお嬢ちゃんを泣かせないようにな!」
ガハハと大声で笑うグラドス支部長の横で、ティフォーネが両手の拳をグッと握ると、ガリオに元気よく声援を送った。
「ガリオ様! 私のことは気にせず、思い切りやっちゃってください!」
「ありがとう、ティフォーネさん」
ティフォーネのキラキラと輝く紅い瞳に見つめられ、力強く頷くガリオ。
こんなに綺麗な美少女に応援されるなら、男として絶対に負けるわけにはいかなかった。
───くっそー、いいなあ
───爆発しろ
ガリオたちの近くにいた男性のギャラリーから、怨嗟の声が上がる。
手を伸ばせばすぐ届くような、あんな間近に美少女を侍らせているガリオを、彼らはものすごく羨んでいた。
グラドス支部長はガリオの心意気を見届けると、一方のアーノルドたちのほうへ目を向けた。
「どうするんだッ! やるのかッ! やらないのかッ!」
「……やるに決まってるだろッ!」
───ピューピュー! 次は絶対勝てよ!
───あんな奴に負けんじゃないぞお!
アーノルドたちが勝負の再戦を宣言すると、ギャラリーの一部から彼らを応援する声が上がった。
応援しているのは、アーノルドの勝利にお金を賭けている人たちと、清楚な美少女と一緒にいるガリオに嫉妬している人たちだ。
アーノルドは歩き出す前に顔だけ振り返って仲間の二人のほう見ると、その二人は彼の視線を受けてコクッと無言で頷き返した。
そんな3人組の様子を、ティフォーネが笑顔を浮かべたままで横目で見ていた。
そして、深呼吸をしているガリオの服をチョンチョンと軽く引っ張る。
「ん?」
「ガリオ様。何かあっても、必ず私が守りますから」
「……ありがとう。じゃあ行ってくる!」
ニッコリと魅力的な笑みを浮かべるティフォーネに、ガリオは少し赤くなった顔で頷いてみせた。
アーノルドとの一騎打ちでティフォーネが何か手助けできるはずなかったが、そこはガリオは何も言わないことにした。
「出てこい! ファイア・リザード!」
再び訓練場の中央に立ったアーノルドは、早速自分の契約精霊を召喚した。
彼の声に反応して赤く輝く魔法陣が出現し、中から精霊が姿を現した。
能火精ファイア・リザードは、全長5メートルほどもある巨大なトカゲの姿をしていた。
その全身を覆う固い鱗は真っ赤で、背びれからはオレンジ色の炎が燃え上がっている。
───お、おっきい!
───なんだあれ! あんなのと戦うのか!
ギャラリーから次々と驚愕の声が上がる。一般の人にとって能火精クラスの精霊を見ることは珍しいからだ。
無事に精霊を召喚できたアーノルドは、圧倒的な存在感を放つ自分の契約精霊を見て、ホッと安心の息を漏らした。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第20話 ガリオの実力⑨「再戦開始」
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