第17話 ガリオの実力⑥「再戦の要求」
そして、アーノルドは近くで佇んでいるガリオのほうを見て、ニヤリと口の端をゆがめて笑う。
彼は何が何でも、早くこの訓練場から離れたい一心だった。
「だから、この原因が判明するまで、俺たちの勝負は延期ってことでいいだろ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
───ザワザワ ザワザワ
───アハハハ クスクス
アーノルドの主張を聞いていたギャラリーから、戸惑いの声が広がるとともに、一部から彼を嘲笑うかのような笑い声も上がった。
笑っているのは、おもにガリオの勝利に賭けたベテランの冒険者たちだった。
「ガッハッハッハ!」
怒っていたグラドス支部長も、アーノルドの話を聞いているうちに怒りが薄れていき、ついには大声で笑いだした。
グラドス支部長やギャラリーからなぜ笑いが起こっているのか分からないアーノルドは、顔を真っ赤にして喚く。
「な、なにがおかしいんだッ!」
「ハッハッハ! あー、すまんすまん。久しぶりにそんな初々しい反応をする奴を見たもんだから、懐かしくてつい笑ってしまった」
グラドス支部長は「ゴホンッ」と咳払いをして目元を少し拭うと、真面目な表情に戻った。
先ほどまでの激しい怒りは、とっくに収まっているようだ。
「アーノルドの言いたいことは分かるが、この俺が断言しよう。お前の契約精霊が出てこなかったのは、異常事態でも何でもない!」
「ふ、普通あり得ないだろ! 俺は見たことも聞いたことないぞ!」
「それはだな、ガリオが『精霊殺し』という能力を持っているからだ」
グラドス支部長の言葉にショックを受けたアーノルドは、目を大きく見開いて一歩後ろによろめいた。
そして、そばに立つガリオをキッと睨みつける。
「あれは───俺の契約精霊が魔法陣から出てこれなかったのは、おっさんのせいだというのかッ!」
「そうだ」
「ぐっ……!」
ガリオがはっきりと頷くのを見て、アーノルドは悔しそうに下唇を噛んだ。
あれが異常事態でも何でもなければ、自分の主張は無意味なものになってしまうからだ。
───ザワザワ ザワザワ
グラドス支部長たちのやりとりを聞いていたギャラリーから、驚きの声が上がる。
アーノルドの仲間の二人は、周りのギャラリーの様子が一変したことにオロオロとうろたえていた。
「あ、アーノルド……」
「これからどうすんだよ、一体……」
まさかこんな事態になるとは、想像だにしなかったアーノルド。
冒険者協会が正式に立会人となったからには、ガリオとの間で交わした賭けは必ず履行され、決して覆すことはできない。
「……マジであり得ねえ。おっさんがそんな力を持っているのが分かってたら、こんな勝負絶対に受けなかったっつうの」
「アーノルド。もうグラドス支部長の裁定が出ているんだ。そんな言い訳が通用しないことは、お前にだって分かってるだろう」
諭すようにガリオに話しかけられたアーノルドは、悔しそうな顔を上げる。
そして、何の犠牲もなしにこの場をしのぐことができないと理解した彼は、別の作戦に変更する。
アーノルドは声のトーンを落とし、ガリオだけに聞こえるように切り出した。
「なあ、おっさん。俺たちはティフォーネちゃんの口車に乗せられただけなんだ。頼むからこの勝負、無かったことにしてくれよ。もちろん無料でとは言わねえからさ」
「このとおりッ!」と両手を合わせて、ガリオに懇願するアーノルド。
彼はもう、ガリオの人の甘さに付け込むしかなかった。
頭を下げるアーノルドを見て、ガリオは少し何かを考えているようだった。
「……言いたいことは分かった」
ガリオの言葉にパッと顔を上げるアーノルド。その表情は明るく期待に満ちていた。
しかし彼は心の中では、ガリオの性格の甘さを嘲笑しているのだった。
「感謝するぜ、おっさん。あとでお金をいくら───」
「もう一度お前にチャンスをやろう」
「───は?」
予想もしなかったガリオからの一言に、アーノルドはとっさにその言葉を理解できず、口を半開きにしたまま固まっている。
そんな彼の少し間抜けな表情を見たガリオは、フッと一瞬だけ口元を緩めた。
だがすぐに真面目な顔に戻ると、手に持った木剣をアーノルドに向けて、はっきりと宣言した。
「もう一度勝負しようじゃないか。なんだったら、今度は最初から契約精霊を召喚しててもいいぞ」
「はああああああ?」
───ザワザワ ザワザワ
ガリオからのまさかの再戦の提案に、アーノルドもそして多くのギャラリーが驚いた表情でガリオのほうを見ていた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第18話 ガリオの実力⑦「秘策」
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