第16話 ガリオの実力⑤「異議の申し立て」
すると突然、訓練場の中央から大声ががった。
アーノルドが大勢のギャラリーがいる土手のほうに向かって、両手を大きく振っている。
「おかしいだろ、この勝負! 絶対おかしいって!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
───ザワザワ ザワザワ
訓練場にいる全員がアーノルドのほうに注目していた。
たった今勝負に負けたばかりの彼が、これから何を言おうとしているのか皆が気になるのだった。
アーノルドは全員が注目していることを確認すると、今度はギャラリーの中にいる二人の仲間に向かって声を張り上げた。
「お前らだってそう思うだろッ! なあッ!」
「そ、そうだ、おかしいぞ!」
「アーノルドの言うとおりだ! おかしい、おかしい!」
呆然としていた仲間の二人も、アーノルドの呼びかけを聞いて我に返り、戸惑ったように彼に追随する。
だが彼らは、アーノルドがなぜグラドス支部長の判定に異を唱えようとしているのか、まったく分かっていなかった。
訓練場の真ん中にいるガリオも、目の前にいるアーノルドが何を言いたいのか、肩で息をしながら耳を傾けている。
「……何がおかしいんだって、お前ら」
自分の判定に異論を唱えられたグラドス支部長が、不機嫌になった顔でアーノルドたち3人組をぐるっと見回した。
彼のこめかみには青筋が浮き出ており、今にも怒りが爆発しそうな様子が見て取れる。
そんなグラドス支部長の顔を見た3人組は少したじろいだが、アーノルドはグッと歯を食いしばって踏み止まり、大げさな身振りで自分の主張を続けた。
「皆も見ただろう。俺は契約精霊を召喚しようとしたけど、出てこなかったんだ。あり得ないって、こんな状況ッ! こんなおかしな勝負、無効にして当然だろッ!」
アーノルドは自分の意見を言いながら、仲間の二人にチラチラと視線を送る。
彼の真意に気づいた二人は、ハッとして顔を見合わせた。そして、全力でアーノルドに付いていくことにした。
「お、おお! そうだ! これは異常事態だ!」
「この勝負は無効だ! 無効!」
アーノルドたち3人は必死だった。
自分たち3人が大金を出し合って購入したばかりの立派な馬車を、こんなあっさりとガリオなんかに取られたくなかったのである。
───ふざけるなよ、お前ら!
───支部長が負けと言ったら負けなんだよ! 見苦しいぞ!
すると3人組の主張を聞いたギャラリーの一部が、一斉にブーイングの声を上げた。おもに賭け事に勝って、大金を手にした者たちだ。
勝負を無効にされてしまっては、賭け事のほうも無効になってしまうので、彼らも必死だった。
しかし、事態はさらに混迷を深めていくのである。
───いや、アーノルドたちの言い分にも一理あるぞ!
───無効にしてもいいぞお! む・こ・お! む・こ・お!
今度は、賭け事に負けた者たちが、アーノルドたちの意見に賛成し始めた。
3人組とギャラリーたちの中で、「負けだ」「無効だ」の激しい応酬が繰り広げられ、収拾がつかなくなっていった。
賭けに参加しなかったギャラリーの多くは、グラドス支部長たち冒険者協会がこの騒ぎをどう抑えようとするのか、彼らのほうに注目していた。
「お前ら、黙れええええええッ!」
強烈な怒気を含んだ声が、訓練場の空気をビリビリと震わせた。
黙って3人組の反論を聞いていたグラドス支部長の堪忍袋の緒が、とうとう切れたのだ。
凶悪な表情をしたグラドス支部長は、訓練場の中央で押し黙ったアーノルドをギロリと睨みつける。
「アーノルドッ! 俺の判定にケチを付けるつもりかッ!」
元冒険者レベル5の凶器のような視線に射貫かれたアーノルドは、顔面を蒼白にしながらも、なんとか言葉を吐き出そうとする。
彼は、ここで簡単に折れるわけにはいかなかった。
「し、支部長の判断に、い、異議を唱えているわけじゃないんだ」
「……ほう?」
「確かに俺はガリオに負けたかもしれない。そ、その判断には何も言わない」
「何が言いたいんだ? お前は」
「この勝負の中で、俺の契約精霊が魔法陣から出てこなかった。しかもその後、魔法陣のほうが勝手に消えてしまった。だから……だから……そうッ!」
グラドス支部長に説明している間に、アーノルドは徐々に落ち着きを取り戻していった。
たどたどしかった言葉が、次第に流暢になっていく。
「グラドス支部長が判定を下す前に、普通ではあり得ない異常事態が起こったんだから、俺はこの勝負の結果は公正じゃないって言いたいんだ!」
そして、アーノルドは近くで佇んでいるガリオのほうを見て、ニヤリと口の端をゆがめて笑う。
彼は何が何でも、早くこの訓練場から離れたい一心だった。
「だから、この原因が判明するまで、俺たちの勝負は延期ってことでいいだろ?」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第17話 ガリオの実力⑥「再戦の要求」
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