第15話 ガリオの実力④「精霊殺し」
アーノルドは手に持っている木剣を前に突き出し、いつものように契約精霊を召喚しようとした。
彼の言葉に反応して、赤く輝く魔法陣が目の前に出現する。
しかし、アーノルドの予想に反して、いつまでたっても彼の契約精霊は姿を現すことはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
───時間は数秒前にさかのぼる。
アーノルドのところまで、あと少しという距離まで走り寄っていたガリオ。
ところが、行く手を阻むかのように出現した赤い魔法陣を見て、ガリオは最後のカードを切った。
「カアアアアアアアアアッ!」
裂帛の気合いとともに、木剣を鋭く横に薙ぎ払ったガリオ。
その声は、訓練場の遠くにいてもビリビリと体を震わせるほどの、恐ろしい殺気が込められていた。
しかしよく見ると、ガリオの木剣の先端は、アーノルドはおろか赤い魔法陣にも届いていない。
だが、アーノルドはすぐに異変に気づいた。
本来であれば、魔法陣が現れたら中から契約精霊がすぐに出てくるのだが、今回はいつまでたっても出てこないのだ。
「おい! どうした! 早く出てこいよッ!」
アーノルドは焦って魔法陣に向かって叫び続けるものの、彼の契約精霊は姿を見せないどころか、赤い魔法陣はそのままスーッと消えてしまった。
「はああああああ?」
目の前で起こっている状況に、頭が追いつかないアーノルド。
彼はガリオが迫っているのを忘れ、消えてしまった魔法陣を見て呆然と立ち尽くしている。
「うおおおおおお!」
魔法陣が消えたのを確認したガリオは、再び突進を始める。
我に返ったアーノルドは慌てて剣を構えたが、彼の目の前にはすでに鬼のような形相をしたガリオが、高々と木剣を振りかざしていた。
「ぬおおおおおおおおおッ!」
「ちょッ! うわッ───!」
アーノルドは思わず首を縮めて、とっさに木剣を盾にして顔への攻撃を防ごうとする。
次の瞬間、ガリオは木剣を思い切り横に振り抜いた。
バキィィィーッ!
固い木材が折れるような大きな音が、訓練場に響き渡った。
固唾を飲んで勝負の行方を見守っていたギャラリーの皆は、その激しい音を聞いて最悪の光景を想像をしてしまう。
ガリオとアーノルドのどちらかが、大怪我をして地面に倒れるのではないかと。
やがて、宙に舞っていた1本の木剣が、カランと地面に落ちた。
その木剣は、真ん中からくの字に折れ曲がっている。
「……」
「……」
訓練場の真ん中では、ガリオが木剣の切っ先をアーノルドの首元にピタリと押し当てていた。
一方のアーノルドの手には、木剣が無くなっているのだった。
「そこまでえええッ! ガリオの勝ちだッ!」
ニヤリと笑ったグラドス支部長が、勝負の終わりを大声で告げた。
その声と同時に、ティフォーネが誰よりも早く歓声を上げる。
「やったあああ! ガリオ様! すごおおおい!」
───冒険者レベル2のほうが勝ったあああ!
───すげえええ! すげえええ!
───魔法陣が消えたぞ! いったい何が起こったんだ!
グラドス支部長とティフォーネの声を聞いた大勢のギャラリーが、一斉に騒ぎ出した。
今回の勝負が、ギャラリーの大半の予想を裏切る結果となったからだ。
そして、ギャラリーの中では賭け事に勝った人と負けた人で、喜びと悲しみが入り乱れていた。
ガリオの勝利のほうにお金を賭けた数少ない人たちは、たった数分で所持金が何倍にも増えて大喜びしている。
「良かったな、お嬢ちゃん。ガリオが無事に勝ってくれて」
ギャラリーが大騒ぎする中、グラドス支部長は隣に立つティフォーネに声をかけた。
もしガリオが負けてしまえば、彼女はアーノルドたち3人組のパーティーに入る約束になっていた。
もしそうなったら、彼女はおそらく悲惨な目に合っていたことだろう。
しかし彼女は、首を横に振ってグラドス支部長にニッコリと微笑みかける。
「私はガリオ様の勝利を信じていましたから、心配なんかしていませんでしたよ」
「わははッ! お嬢ちゃんは若いのに人を見る目があるじゃねえか!」
見た目に反してティフォーネの度胸が据わっている様子に、グラドス支部長は目を丸くしながらも大きな笑い声を上げた。
「さっきアーノルドさんの魔法陣が消えたのは、ガリオ様が何かをしたせいですか?」
「ああ。あれはだな───」
首をかしげるティフォーネの声を聞いて、笑いが収まったグラドス支部長は訓練場に立つガリオのほうを見る。
「ガリオは昔から精霊に嫌われる体質でな。そのせいか、あいつが睨みつけただけで契約精霊が怖がって魔法陣から出てこようとしないんだ。冒険者の中にはガリオを『精霊殺し』と呼んでる奴もいるよ」
「『精霊殺し』……。なるほど、そういうことだったんですね」
普通は起こり得ないような突拍子もない話を聞いても、ティフォーネは驚いた様子を見せず、どこか納得したように頷いていた。
そんな彼女を、グラドス支部長は目を細めて見ていた。
すると突然、訓練場の中央から大声が上がった。
アーノルドが大勢のギャラリーがいる土手のほうに向かって、両手を大きく振っている。
「おかしいだろ、この勝負! 絶対おかしいって!」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第16話 ガリオの実力⑤「異議の申し立て」
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