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第14話 ガリオの実力③「ガリオの切り札」

 そして彼は、先ほどティフォーネを前にして言えなかった、この勝負から逃げない本当の理由を口にした。


「ティフォーネさんが───俺の半分も生きていないような若いあの子が、俺の()わりに真剣に怒ってくれた。戦ってくれた。だったら今度は───大人の俺が頑張(がんば)る番じゃないか」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 訓練場の真ん中にあるそれぞれの指定位置(していいち)に着いたガリオとアーノルドは、お互いに向かい合って立った。

 相手までの距離(きょり)は、およそ20メートル。すぐに剣で打ち合えるような距離ではない。


 ガリオは目を閉じて大きく深呼吸(しんこきゅう)をすると、ゆっくりと木剣(ぼっけん)をアーノルドに向けた。


「ひとつ、お相手願おう」

「……へっ、格好(かっこう)つけたって、結果は変わらないっつうの」


 姿勢(しせい)を低くして(かま)えるガリオに対し、アーノルドは無防備(むぼうび)に立ったままだ。

 しかし、アーノルドの頭上(ずじょう)にはオレンジ色の燐光(りんこう)(ただよ)っており、彼はいつでも自分の契約精霊(けいやくせいれい)召喚(しょうかん)できる状態にあった。


(やっぱり、おっさんには契約精霊がいないじゃないか)


 遠くに立っているガリオの周囲に燐光(りんこう)が漂っていないのを確認して、アーノルドは内心(ないしん)ホッとしていた。

 契約精霊のいない相手に、冒険者レベル4の自分が負けるはずないのだ。


 アーノルドは、契約精霊と自分の精霊魔法(せいれいまほう)の両方を駆使(くし)して、距離を()めてくるであろうガリオを近寄(ちかよ)らせずに勝つつもりでいた。

 気持ちに余裕(よゆう)が出てきたアーノルドは、土手のほうで応援するティフォーネのほうをチラリと横目(よこめ)で見る。


「おっさんには感謝するぜ。この勝負に勝てば、あんな美少女が俺たちのパーティに入ってくれるんだからな」


 アーノルドは勝負が終わったあとのことを想像(そうぞう)して、ペロリと舌なめずりをする。

 他の二人の仲間も、ギャラリーの中からティフォーネのほうを見てニヤニヤと笑っていた。


「……やっぱり君は何も知らないんだな」

「何のことだ?」


 軽口(かるくち)ばかり(たた)くアーノルドの姿に、ガリオは少し(あき)れた表情を見せていた。

 そして、普通に考えれば自分が絶対に勝てないであろうこの勝負に、勝機(しょうき)が見えてきたことを確信(かくしん)する。


「俺がベテランの冒険者たちから、なんて呼ばれているかをさ」

「なんだって?」


 ガリオの言葉は訓練場を吹く風に流されて、アーノルドの耳にはっきりと届かなかった。

 アーノルドがその言葉を聞き直そうとした、次の瞬間───


「はじめええええええ!」


 グラガス支部長の勝負開始(しょうぶかいし)を告げる大声が、訓練場全体に(ひび)き渡った。

 その声を聞いた直後、ガリオは猛然(もうぜん)とアーノルドに向かって()け出した。


「うおおおおおおおおお!」


 思い切り前傾姿勢(ぜんけいしせい)で走るガリオの姿は、まるで獲物(えもの)(おそ)いかかる(けもの)のようだった。

 契約精霊がいないガリオには、遠く離れたアーノルドを攻撃(こうげき)する手段がない。

 そのため、彼は剣が届く範囲(はんい)まで距離を()める必要があった。


 ガリオは、勝利のために必要なカードを一枚切る。それは───


白魔法(しろまほう)身体(フィジカル)強化(ブースト)』」


 ガリオの体が一瞬(いっしゅん)だけほのかに赤い光に包まれると、彼の走る速さが一段と早くなった。


 白魔法とは、(おのれ)の体に宿(やど)魔力(まりょく)を使って、自分の体の能力(のうりょく)を上げる魔法のことだ。

 ガリオが使った『身体(フィジカル)強化(ブースト)』は、全身の筋力(きんりょく)を魔法の力で向上(こうじょう)させる効果を持っている。


「あり()ないッ! 無詠唱(むえいしょう)だとッ!」


 アーノルドの目にも、ガリオが走ったままの状態で無詠唱で『身体(フィジカル)強化(ブースト)』を使うのが分かった。

 その事実を知り、アーノルドの心の中に初めて(あせ)りが生まれた。


 事前に呪文(じゅもん)を唱えずに無詠唱(むえいしょう)で魔法を使うのは、精霊か魔法の(あつか)いに()けた上級の魔法使いくらいなものだからだ。

 契約精霊のいないガリオが、(なん)らかの白魔法を使うことは予想(よそう)していたが、まさか無詠唱で『身体(フィジカル)強化(ブースト)』を使うのは、さすがに想定外(そうていがい)だった。


(ま、まだ大丈夫だッ!)


 しかし、アーノルドはまだ心の中に余裕(よゆう)を残していた。

 ガリオの持っている剣がアーノルドに届くまでには、まだ多少の距離が残っており、契約精霊を召喚(しょうかん)するには十分だった。


「出てこい! 能火精(エクスシア)ファイア・リザード!」


 アーノルドは手に持っている木剣を前に突き出し、いつものように契約精霊を召喚しようとした。

 彼の言葉に反応して、赤く(かがや)く魔法陣が目の前に出現(しゅつげん)する。


 しかし、アーノルドの予想に(はん)して、いつまでたっても彼の契約精霊は姿を(あらわ)すことはなかった。

次話は、明日の夕方5時に投稿します。

第15話 ガリオの実力④「精霊殺し」


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