第12話 ガリオの実力①「前哨戦」
「それは……」
これまでずっとハキハキと会話していたティフォーネが、初めて言いよどんで顔を下を向けてしまう。だがすぐにパッと顔を上げて、きっぱりと言い切った。
「それは、乙女の秘密です!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオとティフォーネは多くの冒険者たちを引き連れて、ブングラスの町の外れにある訓練場へ向かっていた。
多くの冒険者たちが大挙して町中を歩いていたため、それに興味を持ったこの町の住民たちも結構な数が列についてきている。
近いうちにこの国の王都で、勇者ケイル王子と風の四大精霊ジャンナの凱旋パレードがあると噂になっていて、期待に胸を膨らませていた住民たちだ。
これから何か楽しいことが始まるんじゃないかと、皆のテンションはかなり上がっていた。
「とんでもないことになった……」
今回の騒動の主役でもあるガリオは、自分たちの後ろに長く伸びる人の列を見てガックリと首をうなだれた。
そんな彼の後姿に、ティフォーネがプッと吹きだした。その声を聞いたガリオは、後ろを振り返って彼女を軽く睨む。
「……ティフォーネさん」
「ごめんなさい。でもガリオ様は、これからアーノルドさんたちと勝負することにはまったく怖がってないですよね? なんだかそのギャップがおかしくって」
ティフォーネに指摘されて、ガリオは「そうかな?」とちょっと顔を赤くして誤魔化すように空を見上げた。
綺麗な顔をしたティフォーネから、間近に下から覗き込まれて恥ずかしかったというのもある。
ガリオは子どもの頃から一度も精霊と契約したことがなく、そのため冒険者レベルもずっと2のままだ。
そんな彼が、少なくとも精霊界の階級で第6位にあたる能精霊クラスの精霊と契約しているアーノルドたちと勝負をするなんて、普通に考えれば勝ち目などない。
「絶対に勝てるっていう自信があるわけじゃないんだ。でも、ティフォーネさんが───」
「えッ?」
ティフォーネは自分の名前が出たことに反応したが、ガリオは途中で言葉を止め、少し何か考えているようだった。
「……いや、アーノルドたちは俺の精霊アレルギーのことをよく分かっていないと思うんだ。そこに、俺はわずかに勝機があると考えててね」
ポリポリと頬をかきながらも、静かに闘志を燃やすガリオを見て、ティフォーネは嬉しそうに大きく頷いた。
「そうなんですねッ! 私も全力で応援しますから」
「あ、ああ」
ティフォーネのキラキラと輝くはじけるような笑顔に、ガリオは赤くなった顔を前方に向けた。
そのため、その後に彼女が小さくつぶやいた言葉は、彼の耳に届くことはなかった。
「それでこそ、私の……」
ガリオたちが到着した訓練場は、雑草が生える土手に囲まれた、だだっ広い原っぱのようなものだった。
おもに冒険者やこの町の衛兵が、戦いの訓練や魔法の練習などで使っている場所である。
訓練場の中にひとり入ったガリオは、早速体を動かし始めた。
ティフォーネのほうは、ウォーミングアップをするガリオを土手の上から見守っている。
すると、どこからともなく尾羽の長い白い小鳥が飛んできて、彼女の肩に止まった。
「おかえり。君もガリオ様を応援してね」
ティフォーネがそう言って小鳥の頭をひと撫でしたが、小鳥はガリオのほうを見るとブルッと体を震わせて、バサバサッとまたどこかへ飛び去ってしまった。
「もうっ!」
ティフォーネはプクッと頬を可愛く膨らませるものの、少し悲しい表情をして小鳥が飛んでいったほうを見つめていた。
しばらくガリオが体を動かしていると、土手の上にいたギャラリーが急に騒ぎ始めた。
その騒ぐ声を聞いたガリオがティフォーネのところに戻ると、到着したばかりの新品の馬車の中から、アーノルドたち3人組が降りてきたところだった。
彼らの乗ってきた馬車は、まるで2頭の馬が小さな家を引いてきたのかと思うほど、立派なものだった。
「やあ皆さん、お待たせしたね。ティフォーネちゃん、どうだい? 俺たちの馬車を見た感想は」
「僕たちがこの馬車で、君を素敵な場所に連れて行ってあげるね」
「これが終わったら、皆で中でゆっくり話そうか」
馬車から降りたアーノルドたちは、土手の上にいるティフォーネを見つけると、馴れ馴れしい声で彼女に話かけてきた。
そんな彼らに、ティフォーネはニコニコと凍った笑みを浮かべて、強烈な口撃を放つ。
「とても立派な馬車ですね。これでガリオ様と旅をするのが、すごく楽しみになりました!」
アーノルドたち3人の顔が一瞬ゆがんだが、すぐにニヤケ顔に戻った。
明るい陽射しの下でますます輝いて見える美少女をもうすぐ手に入れる期待に、彼らは胸を躍らせているからだ。
「そんな軽口を叩いていられるのも、今のうちだからね。あとでじっくりと冒険者の初心者向けレッスンをしてあげるから」
「ありがとうございます。でも私はそんなことより、冒険者レベル4のアーノルドさんたちが、ガリオ様に負けたときにどんな言い訳をするのか、そっちが気になります」
バチバチと激しい火花を散らすティフォーネとアーノルドたち。
到着した早々にお互いに口撃する彼らを見て、ガリオはもう苦笑するしかなかった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第13話 ガリオの実力②「大人の責任」
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