第11話 銀髪の美少女⑤「彼女の信頼」
「いい加減にしてください」
小さかったが、しかし圧倒的な存在感のある凛とした声を、協会のロビー内にいる全員が確かに聞いた。
しかし誰がその声を発したのか、とっさに全員が分からなかった───ガリオを除いて。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ハラハラしながらティフォーネの様子を見ていたガリオは、彼女の背後から立ち上っていた不機嫌なオーラが、一気に噴き上がるのを目撃したのだった。
(ひいいいいいい!)
怒れるグラドス支部長とは異質のティフォーネの秘めた迫力に、青ざめた顔で思わず1歩後ずさるガリオ。
あくまでも笑顔を崩さないティフォーネは、スーッと右腕を持ち上げて、ビシッとアーノルドを指差した。
「そんなに私の護衛をしたいなら、ガリオ様と勝負してください!」
「ええええええ───!」
───うおおおおおおおおお!
驚愕したガリオの叫び声は、周囲にいた冒険者たちの盛り上がる声に掻き消された。
一方のアーノルドたち3人組は、ティフォーネの提案を聞いてさすがに目を丸くしたが、すぐにニヤついた表情に戻った。
「へえ。ティフォーネちゃん、話が分かるね」
「そんな簡単な条件でいいんだ」
「楽勝楽勝。俺たち冒険者レベル4なんだぜ?」
ガリオに負けることなど露ほども思っていない3人組に対し、ティフォーネは凍った笑みをいっそう深めて、さらなる条件を出してきた。
「お兄さんたち、随分と余裕なんですね。じゃあガリオ様が勝った場合の条件として、買ったばかりだという自慢の馬車をもらっていいですか?」
ティフォーネからの想像を超えた提案に、アーノルドたちの表情が一気に不機嫌なものへと変わった。
彼女が本気で、冒険者レベル2のガリオにレベル4の自分たちが負けると信じていることが、とても不愉快だからだ。
腹の虫がおさまらないアーノルドは、逆にティフォーネの鼻をあかしてやろうと、ある一つの条件を思いついた。
「……だったらさあ、ティフォーネちゃん。俺たちが勝った場合は、オルソまでの護衛なんて生易しい条件じゃなくて、ティフォーネちゃんには俺たちのパーティーに入ってもらおっかな」
「お! それナイスアイデアじゃん!」
「ちょうど仲間の女の子がパーティを抜けたばかりで、新しい子を探そうとしてたところだったんだよね」
アーノルドたち3人組のティフォーネを見る目が途端に下劣なものに変わり、無遠慮に彼女の整った顔やつつましく膨らんでいる胸、短いスカートから伸びる細い足を見回している。
ぽつんと一人会話から取り残されていたガリオだったが、アーノルドたちの卑劣な条件を聞いて、さすがにいても立ってもいられなかった。
「そんな条件呑めるわけが───」
「じゃあ決まりですね!」
「───はいいいいいい?」
ガリオは背中を見せているアーノルドの肩に手を伸ばそうとするが、その手はスカッと宙を切る。
ティフォーネは紅く大きな瞳を爛々と輝かせながら、胸の前で腕組みをしてアーノルド3人組と堂々とにらみ合っていた。
───うおおおおおおおおお!
ティフォーネたちのやり取りを聞いていた周囲の冒険者たちは、これからお祭りでも始まるかのように大騒ぎをしていた。
今回の勝負で、どちらが勝つか賭け事を始める者までいる。
「がっはっはっは!」
一連のやり取りを黙って聞いていたグラドス支部長は、怒りも忘れて大きなお腹を抱えて大笑いをしていた。
その横では、ガリオが暗い表情で立ち尽くしている。
「良かったなあ、ガリオ。ここで勝たなきゃ、男が廃るってもんだぜ」
「はあ……どうしてこんなことになっているんでしょう」
ガリオはのろのろの足を動かし、ティフォーネの隣に移動する。
初対面であるにも関わらず、どうしてティフォーネがあんな条件を呑むほど自分の勝利を信じているのか、ガリオには不思議でならなかった。
「君。どうしてあんな提案をしたの?」
「君ではありません。ティフォーネです」
「ごめん、ティフォーネさん。どうしてこんな無謀な勝負を始めたんだい?」
ガリオの言葉を聞いて、ティフォーネの細く美しい眉がキュッと吊り上がる。
彼女は初めて、笑顔以外の表情をガリオに見せた。
「彼らがガリオ様のことを弱い弱いと何度も言ってたからです。あんなことを言われて、ガリオ様は悔しくないんですかッ!」
アーノルドたちに一歩も引かなかったティフォーネの紅い瞳に大粒の涙が浮かんでいるのを見て、ガリオは大きなショックを受けた。
(この子は───この子はどうして───)
「───ティフォーネさんは初対面のはずなのに、どうして俺のことをそんなに信じられるんだ? どうして君は……」
「それは……」
これまでずっとハキハキと会話していたティフォーネが、初めて言いよどんで顔を下を向けてしまう。だがすぐにパッと顔を上げて、きっぱりと言い切った。
「それは、乙女の秘密です!」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第12話 ガリオの実力①「前哨戦」
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