表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/125

第109話 生き残りを賭けた戦い②「加速した世界で」

 これから何が起こるかを想像(そうぞう)したガリオの顔が、真っ青になった。そして───最悪(さいあく)事態(じたい)が訪れる。


 ドドドドドドドドド───


 地面が()れるかのような地響(じひび)きが聞こえ始め、屋敷(やしき)の外に浮かんでいた光球(こうきゅう)(あわ)ただしく動き出す。

 ケイル王子は、この戦いに王国軍の第1軍団を投入(とうにゅう)することを決断(けつだん)したのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 中庭の向こうにある正門から、大勢(おおぜい)の兵士たちが濁流(だくりゅう)のように次々になだれ込んできた。

 彼らは屋敷(やしき)敷地内(しきちない)を取り囲むように左右に別れ、外壁沿(がいへきぞ)いに規則正しく整列(せいれつ)していく。

 全員が身長より高い長槍(ながやり)を持ち、腰に帯剣(たいけん)をしていた。そして、最後に現れたのは───


「いやあ、待ちくたびれて()てしまうところでしたぞ。がっはっは」


 大柄(おおがら)な第4軍団長を先頭に、6人の軍団長たちが続々(ぞくぞく)とその雄姿(ゆうし)を現す。

 昼間の凱旋(がいせん)パレードでは儀礼用(ぎれいよう)の長剣を持っていた6軍団長たちだったが、今は各々(おのおの)が愛用している武器(ぶき)装備(そうび)していた。

 剣、槍、弓、杖、そして第4軍団長の持つ槍斧(ハルバード)。彼の槍斧(ハルバード)には、ドラゴンの首も切断(せつだん)できそうなほどの巨大な(おの)が取り付けられている。


 そんな中、赤い髪を持つ女性の第1軍団長がケイル王子の前に()け寄ってくると、魔法の杖を(かま)えて彼の壁役(かべやく)となる。


「ケイル殿下(でんか)合図(あいず)が遅いので心配いたしました」

「予想外のアクシデントがあったが、もう大丈夫だ。あの(ねずみ)始末(しまつ)せよ」

「風の四大精霊(セラフィム)ジャンナ殿(どの)は……」


 彼女の質問に、ケイル王子は(あご)をクイッと動かし上空を(しめ)す。

 屋敷の(はる)か上空では、風の四大精霊(セラフィム)アネモネとティフォーネによる(はげ)しい戦闘(せんとう)()り広げられており、二人がぶつかり合う爆音(ばくおん)や光の乱舞(らんぶ)が地上からもよく見えた。

 人間など足元(あしもと)にも及ばないそのハイレベルな戦闘に、第1軍団長はゾッと背筋(せすじ)(こお)らせる。

 もしあの戦闘がこの地上で行われていれば、王都周辺(おうとしゅうへん)壊滅的(かいめつてき)被害(ひがい)が出ることは、間違いなかったからだ。


 そして、風の四大精霊(セラフィム)ジャンナと互角(ごかく)に勝負をする精霊と契約しているであろう目の前の冒険者(ぼうけんしゃ)に、全員の注目が集まる。


「彼は確か……」

詳細(しょうさい)は後で説明するが、あいつは危険(きけん)な奴だ。早く殺せ」

「かしこまりました」


 ケイル王子の命令(めいれい)に、第1軍団長は右手に持つ魔法の杖をスッと上に(かか)げた。すると、屋敷の壁沿いに並んでいた兵士たちが、ザザッと一斉(いっせい)に槍の先端(せんたん)をガリオに向ける。

 そして彼女自身も、自分の隣に契約精霊を出現(しゅつげん)させた。主火精(ドミニオン)ファイア・ドラゴン。

 精霊界の階級(かいきゅう)で第4位の位階(いかい)(ぞく)するその真っ赤なドラゴンは、近づく者を圧倒的(あっとうてき)な火力で焼き(ほろ)ぼす、猛々(たけだけ)しい魔力がその身からあふれ出していた。


「くッ!」


 ガリオは滅多(めった)対峙(たいじ)することのない高位(こうい)の精霊を前にして、全身がガタガタ(ふる)えるほどの寒気に(おそ)われていた。

 彼は『虹切(にじきり)』を前に(かま)えているが、あまりの恐怖(きょうふ)に気を抜けば倒れそうなくらいだ。

 そんなガリオを、ケイル王子は()めた目で見つめている。


「やれ」

「はいッ!」


 ケイル王子の合図に、()つん()いになっているファイア・ドラゴンの顔の前に、ポッとオレンジ色の火球が現れると、徐々(じょじょ)にその大きさを増していった。

 精霊界第4位の主火精(ドミニオン)行使(こうし)する精霊魔法。ガリオはとても逃げられる気がしなかった。

 絶望(ぜつぼう)した彼は、(くや)しそうに(くちびる)()むと、助けを呼ぼうと自分の契約精霊の名前を口にしようとする。その時───


(ガリオ様ッ! 自分を信じてッ!)

(───ッ!)


 ガリオの心の中に、ティフォーネの彼を(はげ)ます声が(ひび)き渡る。

 彼はハッとなって上空を見ると、一瞬だけティフォーネが自分に向かって微笑(ほほえ)んだような気がした。

 この危機的(ききてき)な状況で自分に何が出来るか分からなかったが、ティフォーネの言葉を信じて、ガリオは全力を出すことを決意(けつい)する。


白魔法(しろまほう)身体強化(フィジカルブースト)』───ッ!」


 彼は自分の得意(とくい)とする『身体強化(フィジカルブースト)』を(とな)えた瞬間だった。


 ───ドプンッ!


 全身が突然、洪水(こうずい)に飲み込まれたような感覚(かんかく)(おちい)り、「えッ」と一瞬困惑(こんわく)するガリオ。

 自分の魔力回路(まりょくかいろ)から、あり()ないほどの大量の魔力が怒涛(どとう)のごとく押し寄せてきて、水におぼれてしまったのかと錯覚(さっかく)したのだ。

 その大量の魔力は、彼の全身の隅々(すみずみ)まで行き渡り、細胞(さいぼう)の一つ一つまでガリオの想定以上(そうていいじょう)の強化を(うなが)す。その結果───

 

(こ、これは、『加速(アクセル)』ッ!)


 気が付くと、世界が動きを止めているかのように、時間が非常(ひじょう)にゆっくりと流れていることが分かった。

 その時間の流れる(さま)は、以前黒い(けもの)と戦った時に自分が(とな)えた白魔法(しろまほう)加速(アクセル)』と比べて、(はる)かに遅くなっているようだ。


(どういうことだ……)

(ガリオ様ッ!)

(て、ティフォーネ?)

(はいッ!)


 そんな時間が(ゆる)やかに進む世界にいるガリオの脳裏(のうり)に、自分の契約精霊の声が飛び込んできた。


(どうして俺が加速している状態で、ティフォーネは話しかけられるんだ?)

(はい。私もガリオ様のように加速して戦っているからです。私の場合は、もっと早い加速状態にあるんですけど、思考の一部分だけガリオ様の加速に合わせました)

(さ、さすが元四大精霊(セラフィム)だけあるな……)

(エヘヘ。そうでもないですよ。でも、ガリオ様も十分(すご)いですよッ! 人間の身で加速できる人は、本当に少ないと思います)

(そうなのか。まあ今の状態(じょうたい)は、俺が前に自分で使った白魔法(しろまほう)の『加速(アクセル)』の時よりも、ずっと時間の流れが(おそ)いようだけどな)

多分(たぶん)、ガリオ様の魔力回路(まりょくかいろ)に、精霊界からもの(すご)い量の魔力が流れ込んできているせいだと思います)


 その言葉を聞いて、ガリオは(あせ)りを覚えた。

 彼自身はこれまで契約精霊がいなかったものの、魔力回路は使い続けると消耗(しょうもう)するものだという知識(ちしき)はあったからだ。


(そ、それはまずいんじゃないか? このままだったら、俺の魔力回路は消耗(しょうもう)してしまうんじゃ……)

(その心配は無用です)

(え?)

(だって、ガリオ様の魔力回路は、川のように広いんですから。こんな魔力回路をした人間、私は今まで見たことありません。それこそ、ケイル王子の何倍もあります)

(ええええええッ!)


 ティフォーネのとんでもないカミングアウトに、ガリオは驚愕する。


(ど、どうして、俺の魔力回路はそんなことになってるんだ……)

(それは(おそ)らく、ガリオ様が『人』属性の精霊を誕生(たんじょう)させるために生まれた人間だからだと思います)


 一瞬言葉に詰まるガリオ。


(……俺が『人』属性の精霊を?)

(はい。もしかしたら、過去(かこ)にガリオ様と同じような人間がいたのかもしれません。だけど、残念ながらその人間は、『人』属性の精霊を誕生させることは出来なかったんでしょう)

(そうなのか)

(ガリオ様のような人間が普通の精霊と契約を結ぶのは、それこそ奇跡(きせき)と呼べるほどの出来事が起こらないと、到底不可能(とうていふかのう)ですから)

(奇跡?)

(だって、ガリオ様は精霊に(きら)われる体質(たいしつ)なんですよ?)

(───ッ!)


 ガリオはショックを受けたものの、彼女の言っていることに心のどこかで納得(なっとく)しているところがあった。


(普通の精霊は、そんな人間に近づくこともできません。だけど、それを乗り()えて契約できた精霊こそが、初めての『人』属性の精霊となれるんだと思います)

(そうか。俺のこんな体質にそんな意味があったなんてな……)

(ガリオ様……)


 そしてガリオは、自分と同じ体質で生まれながら、精霊と契約できずに死んでいった過去の人間たちに対して、深い同情(どうじょう)を覚えた。


(ありがとう、ティフォーネ。君という契約精霊に出会えた奇跡に、本当に感謝(かんしゃ)するよ)

(はいッ! だけど、まずはこの試練(しれん)を乗り越えないとッ!)

(ああ。すまないが、ちょっとだけ手伝ってくれ)

(分かりましたッ!)


 ガアアアアアアアアアッ!


 ファイア・ドラゴンの放った巨大な火球(かきゅう)が、もの(すご)いスピードでガリオに(せま)っていく。

 その火球(かきゅう)のあまりの大きさとスピードの前では、回避(かいひ)することは到底(とうてい)出来そうになかった。

 しかし、『虹切(にじきり)』を上段(じょうだん)(かま)えたガリオは───


「ぬんッ!」


 刀身(とうしん)が白く輝いている『虹切(にじきり)』を全力で()り抜くと、巨大な火球(かきゅう)は左右に真っ二つに()けて、彼の両脇(りょうわき)にあった屋敷(やしき)と中庭の一部を()いたのだった。

※「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、評価するボタン(☆☆☆☆☆)を押してもらえると嬉しいです。レビュー、感想もお待ちしております。

※作者の連載を書き続けるモチベーションが上がります!

※こまめに更新していますので、ブックマークをすると便利です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ