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第100話 王都の夕闇⑨「ガリオの伝えたいこと」

「あの人たち?」


 カルマの指差した先には、精霊魔法で作られた光球(こうきゅう)()らされて、3人の若者たちが立っていた。

 彼らの顔を見て、ガリオの顔には信じられない物を見たような驚愕(きょうがく)の表情が浮かぶ。

 何故(なぜ)なら、ガリオは彼らはもうこの西の王国から消えたと聞いていたからだ。


「アーノルド……?」

「よお、ガリオのおっさん。()いご身分だな」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「いや、これはッ!」


 ()ずかしい場面を見られたガリオは、(あわ)ててその場に立ち上がると、体に付いた(よご)れをバタバタと(はら)い落として身なりを整えようとしていた。

 だが、アーノルドは何故(なぜ)(けわ)しい顔をして、ズンズンとガリオたちの所に歩み寄っていく。


「あ、アーノルド。助けてくれてありがと───うぐッ!」

「……ガリオさんッ!」


 アーノルドはガリオの目の前で立ち止まると、いきなり彼の襟首(えりくび)を両手で(つか)んで、ググッと持ち上げる。

 首を圧迫(あっぱく)されているガリオは、その手を外そうとするが、ビクともしなかった。先ほど危ないところを助けてもらった手前、アーノルドを傷付けてまで強引に外すことは躊躇(ためら)われる。


「……んッ! んッ!」


 隣にいたカルマがアーノルドの手にすがりつくが、彼女の力が加わっても全く動かなかった。

 アーノルドが冷たい目で、ガリオを(にら)みつける。


「どうして、ガリオのおっさんはこんな所にいるんだ?」

「ぐぐぐ、えッ?」

「どうして、あの子を見捨てて出て行こうとしてるんだよ」

「それは───ッ!」


(───またこいつも俺を責めるのかッ!)


 息苦しさも忘れるほど、ガリオの頭にカーッと血が(のぼ)る。

 先ほど宿(やど)でやり合ったばかりのジョシュアの顔が、目の前のアーノルドと重なって見えた。

 ガリオは(くや)しさと(いか)りがゴチャゴチャに混ざった目で(にら)み返すと、アーノルドの両手の手首を(つか)み、強引に()()がそうとする。


「同じことを何度も何度も言わせるなッ! この俺に何ができるって───」

「ティフォーネちゃんは、おっさんの契約精霊だろうがッ!」


(───は?)


 アーノルドの予想外の(さけ)びに、ガリオは一瞬何も考えることができず、頭の中が真っ白になった。


「ちょ……アーノルド。な、何を言ってるんだ? 俺に契約精霊なんて……」


 ガリオの頭の中はグチャグチャに混乱(こんらん)していて、目の前のアーノルドが何を言っているのか理解できなかった。

 全身の力がストンと抜けて、アーノルドの両手の手首に(つか)まっているのが精一杯(せいいっぱい)だった。


「だからッ! ティフォーネちゃんは、おっさんが契約した精霊なんだろうがッ! あんたは、自分の契約精霊がどうなってもいいのかよッ!」


 (つば)(はげ)しく飛ばして、ガリオの目の前で(さけ)ぶアーノルド。

 (うそ)を言っているとは思えない彼の力強い言葉に、ガリオはこれまで感じたことのない、とてつもない大きな衝撃(しょうげき)を受けた。


「ティフォーネが……俺の契約精霊……」


 怒りに()えるアーノルドの真剣な眼差しを間近(まぢか)で見ているガリオは、そこに昔の自分の幻影(げんえい)(うつ)っているのを見た。


 ───そこはとある精霊教会(せいれいきょうかい)


『僕は精霊と契約できないの?』

『残念だけど、君には精霊が近寄(ちかよ)ってこないんだ。だから、何度やっても出来ないものは出来ないんだよ』


 ───そこはとある家の中


『僕は精霊と契約できないの?』

『私たちの可愛い子。今はまだその時じゃないの。いつか始祖精霊様(しそせいれいさま)が、あなたのことを必要とする精霊を必ず(みちび)いてくださるわ』


 ───そこはとある学校


『僕は精霊と契約できないの?』

『お前は精霊の(てき)なんだよッ! 僕たちがお前をやっつけてやるッ!』


 ───そこはとあるパーティの野営地


『僕は精霊と契約できないの?』

『大丈夫よ、ガリオ君。私の破壊竜(バハムート)に負けないくらいのすっごい精霊を見つけてあげるわ』

『契約精霊がいなくても、おめーが剣で勝ったときには、それはまぎれもなく自分の力だけで勝ったって、胸を()って言えるじゃねえか』

『人の肉体の神秘(しんぴ)(きわ)めたいのなら、契約精霊はむしろいないほうが好都合(こうつごう)だな』

『キュウーン、ガリオちゃんッ! お姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるからねッ!』


 ガリオを(きら)った人たち、ガリオが嫌った人たち。

 ガリオを(にく)んだ人たち、ガリオが憎んだ人たち。

 ガリオを助けた人たち、ガリオが助けた人たち。

 ガリオを愛した人たち、そして、ガリオが愛した人たち。


 契約精霊がいないガリオに対して、様々な人が投げかけた、様々な言葉。

 ガリオはそんな人たちに、たった一つだけ言いたい言葉があったのだ。

 そのたった一つの言葉を言いたくて、伝えたくて、この長く苦しい人生を自分は何とか生き抜いてきたのだ。しかし───


 アーノルドの腕に()れているだけだったガリオの手に、グググッと力がこもる。

 そして彼の瞳の奥に、メラメラと力強い光が戻ってきた。


「……どうして」

「いててててててッ!」


 ガリオに手首を(つか)まれているアーノルドの顔が、今度は逆に苦痛(くつう)(ゆが)み始める。

 彼はその腕を()り払おうとしたが、ガリオの握力(あくりょく)のあまりの強さに、それも(かな)わなかった。


「どうして、ここに───俺の契約精霊(ティフォーネ)がいないんだああああああッ!」

「知るかあああッ! いい加減(かげん)、手を離せよおおおッ! おっさあああんッ!」

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