第1話 出会い①「ガリオ、しす」
(俺、ここで死ぬのか)
粉々に砕けた回復ポーションの瓶の感触に、俺は張りつめていた気持ちが急速に冷えていくのを自覚した。
日課の薬草採取を終えて町に帰ろうとした俺は、運悪く森の獣に出くわしてしまい、そのまま追いかけられてしまった。
毎日薬草を取りに来ている山なので、地形を把握している俺は森の獣から逃げられそうだと思っていた矢先、昨日まで無かった崖から転落してしまった。
どうやら先日の大雨で川沿いの崖が崩落し、拡大してしまったようである。
(まったく、今日はついてないな)
普通の冒険者であれば、契約している精霊が危険な場所を事前に知らせてくれるのはもちろん、森の獣など簡単に撃退してくれるので、今回のような事故に遭うことはない。
しかし、俺は精霊アレルギーという不幸な体質なので、一度も精霊と契約をしたことがない。
それでも俺は、精霊の助力無しに、10年以上冒険者を続けることができた。
だが、ここにきてとうとう始祖精霊様に見放されたらしい。
(最近は、精霊教会にも行ってなかったからな)
始祖精霊を崇め奉る精霊教会は世界中にあり、ガリオの住んでいる町にも昔からあった。
若い頃は、精霊と契約したくて毎日のように精霊教会に通い、司祭様に相談したり、始祖精霊様の像にお祈りをした。
結局、俺は精霊と契約できないことが分かると、精霊教会から足が遠のいてしまった。
体が徐々に冷えていくのは、決して夕暮れのせいだけではないだろう。
体中の痛みが激しく、右手以外は動かせない。
一方で、俺の心の中は、不思議と落ち着いていた。
精霊教会の司教様の話では、死んだ人間の魂は、すべて精霊界に転生するらしい。
俺は、死んだおやじとおふくろに精霊界で久しぶりに会えるかもしれないと思うと、少し楽しみな気分になっていた。
(ずっと冒険者と続けてきたんだ。ちょっとは褒めて欲しいもんだね)
徐々に遠くなっていく意識に身を任せていると、俺は目の前がチカチカと光っているのを感じた。
(なんの光だ?)
全身の痛みに辟易しながらまぶたを開けると、そこにはぼんやりと輝く人影があった。
だが、俺の目はもうかすんでいて、目の前の輝く人影も周りの景色もまともに見ることができない。
「……! ……!」
目の前の人が必死に何か言っているようだが、その声もくぐもって聞こえて、俺にははっきりと聞き取ることができなかった。
(すまないな。もう限界みたいだ)
目の前にいる人に申し訳なく思いながら、俺は意識の手綱をパッと手放す。
ただ、最後の瞬間、俺は何か温かいものに全身が包まれたような気がした。
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