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マスターと助手  作者: 佐久サク
プレシャス・ジャンク
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第七話

 広い部屋に入れられて椅子に座るオレとダイアン。

 大きなテーブルを挟んだ先には、最初に見た時よりも座った目をした女がいる。


「あのね、ワタシら怪しい者じゃないの。獲って食おうとか、そういう事もないの」


 女はテーブルに指をトントンと当てながら疲れたように漏らす。

 オレはここまでの事でそうは思ってはいなかった。

 隣に座るダイアンも自分が悪かったとの顔を出して座っている。


「まあ、いいよ。今の話は終わりにして、先の話をしよう」


 そこに男が戻ってくる。

 どうやら一日に二度も同じ個所に攻撃を喰らって痛いのか、足の動きはゆっくりとしていた。

 男はテーブルの傍まで来ると、両手で抱えていたトレイから飲み物を四つテーブルに置く。

 その次には何か丸い小さな物が入っている小皿も四つ。

 それが終わると男は女の隣の席に移動して座った。


「まずはそのお菓子でもどうぞ」


 男はそう言うがオレの手は伸びない。

 菓子を怪しんでいるわけではなくて、そういう気分になれなかった。

 横を見ればダイアンも手を伸ばしていない。

 興味は持った目をしているが、本当に良いのかと探っているような様子。


「わー、美味しいな、これー」


 オレらが静まり返る反対側で女が小皿の上の菓子を摘まんで言う。


「そりゃどうも。だけど、まずはこの娘らが食べてから食えよ」

「ワタシも魔力を使ってお腹が減ってたし我慢できなくてさあ。それにしてもコレいいね。何で出来てんの?このしゅわっと口の中で柔らかく溶ける物は」

「卵と砂糖とカタクリの粉で作ってある。卵ボウロというやつだ」

「ほー。カタクリ粉はトロミを付けるのに良いけど、こんな風にもなるんだなあ。ほら、あんた達もさ、食べてみて感想をどうぞ」


 勧められて迷いが無くなったのか、ダイアンが菓子に手を伸ばす。

 一つ食べると余程美味しかったのか、二つも三つも口に入れていく。

 オレもそれを見て小さな一つを摘まんで食べる。

 それは女の言う通り柔らかく口で溶けて、甘過ぎない所がオレ好みの旨い菓子だった。 







「それで……と、まず名前を聞いて良いかな」


 菓子を食べて場が落ち着いた頃、男はオレへと掌を向けた。 


「オレはシャウラ。こっちはダイアン」

「そうか。それなら一度シャウラさんには言ったんだけど、あの空き地はゴミ捨て場ではあるんだけど、後でゴミを再利用するためにあるんだ。だから、勝手に持っていかれるのは困る」


 男の言葉の反応して隣のダイアンが俯いてしまう。

 真下を向くようにがっくりと。 


「ああ、うん、そこについては責める気は無いし、今後は止めてほしいって分かってくれればいいから。それで聞きたいんだけれど、今日来た理由について教えてもらっていいかな?」


 それはオレが全部言った方が良いと受け持つ。

 カリーナとの約束と、適した物がここにあるかもしれないと期待して来た事を順番に伝える。

 

「なるほどね~。それならワタシは良い考えがあるかも」

「なんだよ、考えって……」


 オレの話を聞き終えると女はニヤリと笑い、男は何か難しそうな顔をして女を見る。


「ワタシの生まれ故郷の里にもそういう物はあるなと思って。山で青く光る石が取れるんだよね。それを飾るだけでも良い物だけれど、磨き上げた物はこれまた綺麗でねえ」

「そ、それ。そういうの。頼む、それを是非譲ってくれないか」

「ん~、ここらじゃ貴重でも里では珍しい物でもないし構わないけれど、タダってわけにもねえ」

「オレだって無償で貰おうとは思わない。こういう物は交換条件があって当然だ」

「俺もお小遣い出すから」


 オレもダイアンも身を乗り出して頼む。

 しかし、女は顔を横に振るだけだった。


「金はいいや。その代わりお金を稼ぐお手伝いをして欲しいかな。ワタシで町でアイスキャンディ―やアイスクリームを売ってるんだ。それを一緒にやってくれればね」

「おー、知ってる。お土産で買ってきてもらったことある、すげえ美味しかった」

「あら、そう。ダイアン君はお客さんだったんだ。でも、君は小さいからね、一緒に仕事するにも大変だ。だから、そっちのシャウラちゃん。あんたにやってもらいたい」


 女はオレに力の入った眼差しを向けて言う。

 アイスとは何なのかは知らないが、ダイアンの様子を見るに美味しい食べ物らしい。

 そして、その商売の何を手伝うかも分からなくても、次の作戦も思いつかないまま帰るよりはいい、そう思って力強く頷いた。


「よし、じゃあ、シャウラちゃんはここに泊まりながらワタシの手伝いをして、ダイアン君はお家に帰って他の子達にもこの事を教えてあげなよ」


 女が元気よく放った言葉にオレは驚きを込めて女の顔を見た。

 そりゃ家からここに通うよりは手っ取り早くていいかもしれないが……。

 と、考えていると、男がオレよりも衝撃を受けた表情で女を見ているのに気づいた。


「え、お前、何を勝手に……」

「まあ、いいじゃないの。主の帰還まで時間もある事だし。助手だって賑やかでいいだろう」

「…………………………は~、もう知らねえ」


 男は腕を組み暫く悩んでいたが、やがて大きく息を付き諦めた様子で言葉を吐いた。

 このやりとりから考えると、どうやら魔導士は留守であり、この男は手伝いというところか。


「それでは話が決まった所で、まず助手はこのダイアン君を街まで送り届けてきなよ。ワタシはシャウラちゃんと今後について話すから」

「はいはい、分かりましたよ。そろそろ暗くもなるからな」


 そうして男は立ち上がりダイアンへと手招きをする。

 ダイアンはオレの顔を見上げてきたが、オレとしてもダイアンは早く帰った方がいいだろうと「行ってきな」と小さく伝える。

 そうすればダイアンは椅子から降りて、男と二人で部屋から出て行った。






 テーブルを挟んで女と二人きり。

 女は男が残していった菓子を摘まんでいる。   


「なあ、オレは手伝いはやるけれど、一体何をやればいいんだ?」

「そうだねえ。アイスを作るのはワタシと助手がいればいいから、シャウラちゃんには町で一緒に売って欲しいかな」


 町……。

 その響きに少々前まであったやる気というものが削られていく。

 住処の町もこの塔から近い町にも川での戦利品の引き換えに行く場所はあるが、それは町外れのほんの一角だけで、それ以外には正直あまり近寄りたくない場所だ。

 そう考えるだけで気持ちが重くなり顔は下へと向いていく。


「でも、それはまだやらないよ。まずはこの塔の中でそのための準備からだ。このヒイナさんにしっかりついてくるんだぞ」


 今すぐ町に行けというわけではないのか。

 それなら心の準備も出来るかと、今となってはやるしかないのだと顔を上げる。


「分かったよ、ヒイナね」 

「ヒイナ”さん”だ。もう一人の男は魔導士の助手であり、今日からもまたワタシの助手ということで”助手さん”だ」

「おう、”ヒイナさん”と”助手さん”……」

「よし、最初はそのくらいで良いだろう」


 オレが言われた通りに言うと、ヒイナという女は満足そうに頷いていた。

 そんな様子や部屋を見渡して思うのは、魔導士が住む塔に入ったからと、変な術に掛けられる事などは無くて良かったという事、

 けれど、代わりにどうもおかしな事になっている点は疑いようがない。

 だからといってオレはその場から動けもせずに椅子に座り続けていた。

 

 


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