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マスターと助手  作者: 佐久サク
夜の訪問者
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第一話

夢魔の女子との耳かき話。

 国の中心部からは外れた町のその外れ、広場に一つの石造りの塔が建つ。

 そこにはかつて栄えた古代文明の遺跡発掘において有名な若き偉大な魔導士と、それを手伝う助手が住んでいる……。


 最適な条件だった。

 街中と違って他の邪魔者が入り辛い。

 下見の時に確認した見た目だって悪くなかった。

 だからこそ私の夢魔としての大人への第一歩、”はじめて”には相応しい。

 そう決めて今日のこの夜に遂にここへとやって来たのだ。


 自分には魔力も魅力も足りないのは分かっている。

 学校の成績は悪いし、背丈はあまり伸びないし、出る所はちょっとしか出ていないし。

 髪は伸ばすとボサボサになり易くて、こんな肩に届くか届かないか程度が限界で。

 周りの娘よりも有る部分といえば、耳がちょっと長くて尖ってるくらい。

 だからって声がよく聞き取れるってわけじゃなく、何の役にも立っていない。

 

 このままじゃ他の娘達から後れを取り続け、お姉ちゃん達にもバカにされていくだけ。

 それは嫌だと早く大人になるために、周りの娘達に先立って経験を得る事を選んだ。

 しかも一度に二人と、こんな経験をする娘は少ないだろうって。

 そのための力が自分に無いのなら他の力を借りるしかないと、向こう三か月のただ働きと引き換えに手に入れたのは超高性能の誘惑・催淫の霧。

 これをあの塔に流し終えたから、後は飛んで窓から飛び込めば!

 頭はそういう事しか考えられなくなっていて!何だってしてくれるっ!!


 そうして準備は整ったと、とっておきの革製ヘソ出し紅色スーツを着けて、颯爽と大地を蹴って飛び立ったのに!

 部屋に入った私を迎えたのは、確かにこの場所に住んでいる二人だったのに!

 その視線は魅惑状態じゃなくて、だからと警戒するわけでもなくて、戸惑いしかないものだった。


「な、なんで効いてないの!」


 その筋の確かな所からの物だと思っていたのに騙された!騙された!!

 悔しくなって頭に血が上り、行き場所の無い怒りから地団駄を踏んでいた所で、自分へと刺さる視線に気がついた。

 今の状況の悪さに背中の翼のその先までもが冷えてくる。

 とりあえず今は撤退だ、それしかない。

 後は逃げ出してから考えようと、さっき入って来たばかりの空いた窓へと向かって身体を翻し……。


 バタンッ!!


 その瞬間、大きく音を立て窓は閉じられた。

 ただ閉められたってわけではなくて、魔術によって固く閉められているって事は私でも分かった。

 どうすればいいのかと焦りで一杯になりながらも、背中を見せているのは危険かと思って振り向くと、そこではローブを来たお兄さん、つまり魔導士の人が掌を大きく広げてかざしていた。

 今、その手によって窓が閉じられて、どうも逃してくれる気はないみたい。

 ここに飛び込んでさえしまえば、後は流れのままに上手くいく想像しかしていなかった自分に、混沌の混乱が訪れる。

 霧の効果が出ていなくても、結果そーいう事になれば構わない……と思いたかったけれど、そうはならないって直感が働く。


 私は一体どうなってしまうのか。

 特大効果のある道具が効かないなんて、もしかしたらとんでもない相手に手を出してしまったのかも。

 というか、こんな絶好の場所に居るのに相手に丁度良いという噂を全く聞かなかったのも、考えてみると可笑しかったような、もしかして罠にかけるつもりで掛かっちゃったのは自分じゃないかって気がしてきた。


 なんて考えていると、様子は穏やかにも見える魔導士のお兄さんと、もう一人の町中のどこにでも居そうな雰囲気の助手のお兄さんがゆっくりと近づいてくる。

 他の魔法が掛けられたというわけでもないけれど、私の身体は震えて動かない。

 このまま捕まって目的は達成されず、拷問とか実験だとか酷いことになる想像だけが頭を埋める。

 何かしなければと、私が出来る事と言えば……と考えるけれど、風の刃を繰り出したり火の矢を飛ばしたりしたところで今の状況を打破できる想像は続かない。


 では、どうするか。

 私に残された、たった一つの方法。

 それを繰り出す!


 









「すみませんでした!だから、命だけは!」

 

 次の瞬間には両膝を石造りの床に付けて座り込み土下座をした。

 この降伏の恰好だけでは足りないだろうからと、ひくつく喉も振り絞って思いを伝える。

 何度も連続して繰り返すけれど反応はなく、響くのは自分の声だけ。


「あ~、あのね……」


 ちょっと時間が経ってから恐る恐るといった声がして、ビクビクと怯える心を抱えながら、そ~~っと顔を上げる。

 すると、二人はすぐ近くまで寄ってきていて、魔導士さんは身体を屈めて私を見るように、助手さんは立ったまま見下ろしていて、どちらもそれぞれ困ったという様子を大きく出していた。


「とりあえずね、起きてもらえないかな」


 その魔導士さんの声は優しかった。

 だからと、私の恐怖心が消え去る事は無くて、でも、今は言う事を聞くしか無いとそれに従った。




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