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マスターと助手  作者: 佐久サク
助手の休暇
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第二話

 荷物預り所に併設されていた休憩所。

 俺は背もたれ付きの椅子に座らされ、まずは声を掛けてきた眼鏡姿の男性に傷を負った左腕の様子を見られた。

 痛みは殆ど無い肉が少々抉れた痕の確認だけでなく、反対の腕や目や口と各所を触れられていく。

 俺よりも10歳以上は上か、落ち着いた雰囲気とテキパキと身体を探っていく姿にそういう仕事の人なのだろうと安心して任せていた。

 それが終わると彼は連れていた人狼族の青年へと小瓶を渡して休憩所の奥へと姿を消した。

 

「これで麻痺が取れるので飲んでください」

 

 人狼族の彼から見せられた小瓶に薬が入っているのは分かった。

 しかし、今の俺には了承の動きすら取れず、そのまま口元まで小瓶を運び顔も動かしてもらい何とか中の液体を飲み込む。

 それから段々と効果が出てきて足元の麻痺が解けた事に気付いた頃、先程いなくなった眼鏡の彼が帰ってきた。


「あひがほうほはいはふ」


 お礼を言おうとしたが、口の状態は少しは治っていたとはいえ完全ではなく情けない声が出た。


「お礼を言うのはこちらの方だ。助けてくれてありがとう。暫くそうしていると良い。長引きはしないだろう」 


 と、彼からは先程の出来事を休憩所へと報告した事などの説明を受けながら回復を待つ。

 彼の言う通り少しの後には麻痺は随分と消えた。

 上半身に僅か残っているのを感じながら、そろそろ帰る予定の時間だと気づく。

 これなら帰れない事はないが後一歩を踏み出す勇気が……と、この身体について悩む。

 すると、「どうしたね?」と彼に気付かれたようで、この判断の付かない事情を説明する事にした。


「それは完全に回復するまで行うべきではないね。私達さえいなければ君もこうはならなかった。今日の事はこちらに任せて欲しい」


 俺としては放っておくわけにもいかずに手を出して、薬を貰った事でそれはチャラというものではあった。

 けれど、こう言ってくれるのならば、旅先で勝手が分からない事も多いしと甘えさせてもらう事を決める。

 マスターからは遊行費用を多めに貰っており、一日や二日なら滞在が長引いても構わないとも言われていて、帰りが遅くなることにも問題はなかった。




 



 荷物は人狼族の”フィル”君に任せて運行再開された列車に乗って二駅ほど進んだ後、今はもう一人の眼鏡の男性”クライン”さん馴染みのホテルへと向かう道程に、俺は”ジョシュ”さんとして存在していた。

 俺が麻痺している間のやりとりで名前が必要だったらしく、俺が喋られる状態ではない中で事を急ぐと荷物を開けられ、そこにあった当選封筒に記してあった名を見られたようだったが、「この際はもう”ジョシュ”でいいか」と訂正する事もなく過ごす事にした。


 

 そうして着いたホテルは、自分が知る中で最も豪勢な造りをしていた。

 外観を口を開いて見て、中に入って口を開いて高い天井を見上げて、その高級さに俺みたいなのが居て良いのかとすら思った。

 そんな口あんぐりで立ち尽くす俺の肩が叩かれ、横を見ればチェックインを終えたクラインさんがいた。



「荷物は運んでおくよ。君のその様子で中に入るわけにもいかないから、まずは風呂に入ってくるといい」


 そう言われて、これは確かに……となる。

 砂の上を転がり回り、大部分は手で払われたが未だに衣服には砂汚れがあり、髪には細かな砂が絡みついて自分でも気持ち悪さがある。


「フィル。彼の着替えを持って君も入ってきなさい」

「分かりました」


 着替え入りの紙袋を受け取りフィル君が一礼して、クラインさんはその場から離れて行く。


「そのくらいなら持てるからいいよ」

「いえ、そういうわけには。何かあるといけませんから。僕が頼まれた事ですので全うします」


 少し話しただけだけど真面目な青年だ。 

 クラインさんにせよお堅さが伝わるというか、どういう間柄かはまだ聞いていないけれど、きちっとした世界で生きているのだろう事が伝わる。

 そして、青白い毛並みが格好良く体格も俺より大きく逞しいフィル君をまるで召使のように後ろに従えて、それには「俺の柄じゃないな……」と身体を小さくしながら浴場へと向かった。




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