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マスターと助手  作者: 佐久サク
彼の旅路に祝福を
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第三話

 夕飯は森で採れる木の実や俺の為にと用意された動物の肉入りのスープなど豪勢な物。

 もてなしはそれだけに終わらず、大きく背の高い桶に湯を沸かしてもらって汗を流す事も出来て、その後はアルセイさんだけでなく、この森に住む彼女達の仲間も含めて語らう事になった。

 彼女達は森にある植物で薬や道具を作っては森の外に住む者達との交友している。

 その者達が森に訪れた時には外の世界の話を聞くのが楽しみだという。

 特に俺は別の国からの来訪者というだけでなく、俺自身が様々な場所に旅に出ているからと世界各地の物事を知りたいとの彼女達からの希望があった。


 アルセイさんを含めてこの森に棲んでいるドリアード族は八名。

 その誰もが見た目麗しく、近づきたい雰囲気を纏っているものだった。

 けれども一見そう思えるというだけで、旅の話を聞くその表情は興味深そうに輝いて、俺も調子良く話せるものだった。

 特にアルセイさんは各地の風土や文化の話だけでなく、旅という物自体に興味があるようだった。

 彼女に請われ、聞いて楽しい話だけでなく危険な経験までも伝えもした。

  

 そうして日々は忙しくも充実して過ぎていったある日、俺は他の事をしようと思い立つ。

 用意したのはカメラ。

 この森に滞在中に気になった綺麗な花や珍しい木々の姿を写真に収めようと思い至る。

 

 綺麗な花には毒もあるという事で、花粉やらを取り込んで具合を悪くしないようマスターから貰っていた薬も飲み準備は万端。

 最後に出かける事をアルセイさんに伝えると、身の心配をされて共に行く事を申し出られた。

 しかし、彼女が道具作りに忙しくしている事も知っていたので、それは有難いながらも断り、家屋から近い所に行くだけなので……と行き先を伝えて外に出た。

 

 





 家屋から離れるとどこからか呼び止められ、見回した近くの木々の間から出てきたのは、この森のドリアード族の中でも最も年若い”パラス”という娘。

 その身体は人間でいう5歳児ほどの大きさだが、実際は俺以上の年齢を重ねている。

 その精神の成長は体格に合わせてといった所で、俺の対応も人間の子供を相手にするように。


「助手さん」

「何?」


 見上げて俺を呼んだパラスちゃんに対して屈んで要望を聞く。

 しかし、彼女は何か言いたげなままの姿が続く。

 後少しで言い出す勇気は出そうな様子に急かしはせずに待つ。

 すると、彼女も心が決まったようだった。


「あのね、助手さん、もう帰るんでしょ?」

「うん、用事が終わりに近いからね」

「それで、それで、アルセイと一緒にお外に行っちゃうの?」


 俺は確かにこの森から連れて行くものがある。

 しかし、それはアルセイさんや他の人達が作った道具のみだ。

 マスターから頼まれた物だけでなく、「他の装飾品といった物も知り合いに分けて欲しい」、「この森の物を広く伝えて欲しい」と頼まれているだけであり、これはどこかで話の行き違いがあったのだろうか。


「俺は一人で帰るだけだよ。アルセイさんを連れて帰ろうなんて事はないから心配しなくて良いよ」

「ほんと?」

「本当の本当」


 優しく念を押して伝えると、パラスちゃんは花が咲き開いたように満面の笑みを浮かべた。

 きっと慕うお姉さんが居なくなってしまうと思って不安だったのだろう。

 納得した彼女は大きく手を振りまた森の中で去って行って、分かってもらえて良かったと胸を撫で下ろし俺はまた独り目的の場所へと向かった。

 

 写真を撮っては現像し出来を確かめ作業を続けていく。

 気楽に行き来は出来ない場所を記録に残す事には神経を使うもので、数枚撮った所で一度休む事にする。

 近くの空き地には休憩用の木のテーブルと椅子が置かれてあり、その椅子へと座りテーブルへとカメラを置く。

 

 そこで背の高い木々を見渡していれば気持ちも安らいでいくもので、良い場所だな……と、つくづく思いながら居ると近づく足音に気づいた。

 振り向いた先に居たのはパラスちゃんより少し年上に見える、短髪姿が印象的な”シュケー”という名の娘で、俺の旅の話にはそれほど興味がないのか、他の仲間の輪から外れて座っている姿も強く残っていた。

 彼女は手に長い何かを持って俺に近付き、テーブルの傍まで来てから確認できたそれは竹で出来た水筒だった。


「ん」


 そこから更にシュケーちゃんは手を目一杯伸ばして俺に水筒を押し付けるように。

 「くれるの?」との俺の言葉には、こちらは見ないようにしつつも頷く彼女。

 とりあえずと水筒を受け取ると、彼女はぷいっと顔を背け身体も翻して去って行ってしまった。

 丁度喉が渇いていたので有難い贈り物だった。

 贈り主は照れ屋な所があるようだが、後でこの気遣いにお礼を言おうと水筒の栓を外す。


 入っていたのは甘い水。

 滞在中には何度も作られた甘さのある飲み物を何種類も貰った。

 今回の水はそれらに比べて少しトロリとしていたが、飲み難い程ではなくごくごくと一気に飲み切る。

 空になった水筒をテーブルに置き、暫くは周りの木々の緑や飛び回る小さな鳥の声の中で休んでいたが、そろそろまた撮影へと気合を入れ直すかと、テーブルに手を付き立ち上がった。


 その途端に頭がふらりと揺れて視界がぼやけた。

 このままでは後ろに倒れてしまうと、何とか体勢を持ち直し最悪の事態は避ける。

 しかし、足には力が入らずにしゃがみ込み、座っていた椅子に寄りかかる。

 そこから俺を襲う強烈な気持ち悪さ。

 単なる立ち眩みのせいではない何か。

 目の前がぐるぐる回るようで、先程まで楽しんでいた景色などまるで見ていられない。

 だからと目を瞑っていても、ぐねぐねと様々な色彩が踊るようで、何が……どうして……と、考える事もままならない。




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