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マスターと助手  作者: 佐久サク
彼の旅路に祝福を
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第一話

助手視点の耳掃除話。

 北の他国への一人旅。

 けれども越境に苦労はなく、国内の怪しい地域に乗り込むよりも問題は少ない行き先だった。

 規定ルートを通る馬車を降りて、そこからは荷物を持ってテクテクと。

 馬車の停留所からもよく見えた森まで行くと依頼者が入口で待っていた。

 その外見は俺と似た年頃に見えるが、実際はその何倍もの時間を生きているドリアード族の”アルセイ”という名の女性。

 マスターが彼女に依頼した物品を俺が受け取り塔まで運ぶ事が今回の任務だ。

 その品物は多くの候補があり、どれがマスターに相応しいかを俺が決める事にもなっている。

 

「今日からよろしくお願いします」

「こちらこそお願い致します」


 挨拶した俺にアルセイさんも丁寧に頭を下げる。

 薄茶色の肌に緑色の長い髪を持ち、木から生まれ、生まれた木の傍で育ち暮らすという種族。

 その木々の力を強く抱く神秘的な雰囲気に思わず息を呑む。


「どうかされましたか。このような遠い場所まで来た事で、疲れておられるのでしょうか」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか。では、集落に案内いたしますので」


 表に分かる程の動きだったのを反省しつつ、澄んだ声で平坦に言葉を述べる彼女にやはりどこか神経を張りながら後を追って行った。




 



 木々に見下ろされながら進んだ道の奥には木造家屋があった。


「あれが貴女の家ですか」

「いえ、私も仲間も他の場所に住んでおります。しかし、この森に訪れる人が身体を休める場として作ってありまして、私との作業と貴方の寝泊まりはあの場所でという事になります」


 あの場所でマスターも過ごした事があるのだろう。

 マスターが扱う道具には、この森の木材からドリアード族の者達が作り出した物が多くあった。

 彼女らは森から移動する事が滅多に無い種族だと聞いてもいる。

 互いにここで出会い親しくなり、道具制作を頼むようにもなったに違いない。

 そう考えて歩く内に家屋に着き、通された先は隅に机と畳んだ布団が置かれた小さな部屋だった。

 

「私との作業は奥の部屋でとなります。まず一度お互いに経験しておきたいのですが、いかがでしょうか」

「俺も異論はないです」

「では、少しこちらでお待ちください。今、その用意をいたしますので」


 彼女が横開きの戸を閉めて去っていき、一人になった部屋の中で座って足を伸ばして揉みもしてここまで歩いて来た疲れを取る。

 そこで思い出したのは、今回の旅に持ってきた道具の事だ。

 荷物を開き慎重にそれを取り出したのは、移動中に故障する事がないようにと厚い布に包んできた”カメラ”。

 確認に一度撮影してみるかと、部屋の窓を開き外の木々に向けてシャッターを切る。

 

 パシャリと音がして数十秒。

 カメラの下側の隙間から写真が出て、それを部屋のテーブル上に置くと段々と画像が鮮明になってくる。

 そこには問題なく木々が綺麗に写されていて安堵の息を付いた。


 この携帯用カメラはつい先日に塔へとやってきた物だった。

 世の中で写真を撮るならば写真館に行って撮る事が基本。

 野外で撮りたいのなら、貴重で大きなカメラを外に持って行かなければならないものだった。

 マスターの仕事上で記録が必要な場合は多く、遺跡発掘現場によっては専門の撮影技術者がついている事もあり、いずれの場所にせよ現像までには時間を掛ける必要があった。


 そこから技術は発展してのこれだ。

 大きさは両手で持てる程度で、写真を撮ればその場で現像も出来るという代物だった。

 マスターから説明を聞いた時は世の中の写真事情が一気に変わってしまうのではと思ったが、そこまで事が上手く運ぶものではなかった。


 小さくすぐに写真ができる利点は大きいが、その写真の鮮明さでは他のカメラに比べると劣っていた。

 最初は白黒の写真から始まって、今は色も付くところまで行ったが画像の粗い部分は残っている。

 それでも仕事の記録には有用で、国の機関だとか数限られた場所で使われつつある物。

 マスターもこれは役に立つと、ある仕事の報酬として大金を得るよりもこのカメラを貰う事を選び取り、そして、この機会にカメラを試すに丁度良いとマスターに託された。 


「助手さん、よろしいでしょうか」

「あ、はい。今、行きます」

 

 そこにアルセイさんの声が届き、俺はカメラをさっと片付けて、この旅の主題へと気を切り替え立ち上がった。




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