第四話
かなり変化をしていた場所だったが他へ続く道は一つしか出来ておらず、迷う心配が無くて良かったと進んだ先の部屋は、先程以上に奇妙な作りになっていた。
本棚が壁を背に何段も積み上がっていて当然、床に本が散らばる場所を見上げれば天井に空の本棚がくっついていたりと、数々の本棚という存在が好き勝手に翻弄されている。
そんな空間が幾つも続き、歩いた距離としては大したものではないと身体は分かっているのに、このあり得ない場所を行く内に精神的な疲労を実感する。
そこで思わずふ~っと長く吐き出してしまった息にヴェルフさんが振り向く。
彼を不安にさせまいとしていたのに申し訳なくなったが、振り向いた彼は俺以上にその気持ちを表に出していた。
「俺一人だけなら良かったのに、君まで巻き込んで……」
「いや、気にしないでください。変わった雰囲気に圧されてしまっただけなんで。それで、気になる事があるんですけど聞いていいですか?」
「え、あ、いいよ」
彼を責めるようになってはいけないと話を逸らす。
「空間を広げる魔術というと、俺もマスターからそうした鞄を貰っていますけど、その場合は手くらいは入れられても、それ以上は出来ない。中に生き物は入れられなかったりするじゃないですか。でも、この中は入っても大丈夫なんですね」
「それだけ高度な術式が使われてるからな。まあ、世の中の一部で使われている持ち運び用の物に生き物を入れられないのは、それを許すと悪事に使う輩が確実に出ると、敢えてそうした術を仕掛けてもあるんだよ」
納得の答えだった。
一見何でもないような小さな入れ物に何でも入るようにできたら、人攫いなり何なり悪さは簡単に思いつくだけでも幾つもあり、俺では出来ないような発想を出せる人間が世に多くいる事も分かる。
「こうした建物に繋げて空間を造る術も理論上は色々できるけど、師匠も俺もやる気はないんだよな」
「どういう事ができるんです?」
「例えば土を運び水を流して何でもある場所を作る事も出来る。ある部屋には春の小川があり、そこからドアを開けると冬の山が存在していたり……」
「そんな事まで……」
「あくまで理論上の話としてな。それを何に活かすかって話もあれば、作成は出来ても維持のための魔力の循環やらが難くて、誰もやろうとしないのが現実だな」
と、俺でも何とか分かる空間利用技術について聞きながら歩けば気も楽になっていき、やがて沢山の本棚がある隅に椅子が円状に並べられた広間に着いた。